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究極の豚丼にたどり着く

移動して喜茂別のライダーハウスでも鶏肉で十勝豚丼の修行。

私はこの時に初めて、あらかじめ豚丼のタレを作った気がする。
まずは砂糖に少量の水を加えて煮詰める。
ブクブクと沸騰させ、茶色くなって焦げるか焦げないかの寸前で醤油を加える。
このカラメルの香ばしいタイミングを見極めるのが重要なのだ。
まぁ鶏肉だとあまりピンとくる味にはならなかったのだけど。

私が究極の十勝豚丼にたどり着いたのはその1週間後くらいだった。
その時は野暮用があって千歳市でレンタカーを借り、富良野へ向かった。

富良野のキャンプ場で豚丼を作るため、ようやく鶏肉ではなく豚ロースを買った。
だがその夜は面倒になって豚丼を作らず、豚肉はレンタカーの中に置きっぱなしにしていた。

翌日、5月の北海道だというのに、30℃を越えるという記録的な暑さに見舞われた。
そして私は車に乗り慣れていないため、クーラーの付け方を知らなかった。
風を出し、温度のつまみを青色の冷たい側に回す事くらいはわかった。

だが、A/Cボタンを押さなければエアコンの電源が入らず冷風が出ないという事は知らなかった。

猛暑をただの「送風」で凌げるはずが無いのは明白だ。
豚肉も耐え難い暑さを感じていた事だろう。

「なぜだ!?なぜ生ぬるい風しか出ない!?」
と私は車に問い続けたが、答えは返ってこない。

「ま、安くて古いレンタカーだから壊れているんだろう。」
と簡単に誤った結論を出し、窓を開けて走ることで豚肉にもしばらく我慢してもらう。

14時頃に喜茂別町のライダーハウスに戻り、豚丼を作り始めたのが15時前である。
暑い車内で放置された豚肉表面の色はくすんでおり、パックの中で灰色とも緑色ともつかない汁を出してその窮状を訴えかけていた。

「この豚肉はもうダメだろう」

節約ばかりしている旅人でもそう思ったが、豚のロース肉など滅多に買わない高級品なので、「よく焼けば大丈夫だろう」という事にして調理を始めた。

まずは米を炊くかたわらでタレ作りにとりかかる。
フライパンに砂糖と少量の水を加え、ブクブクと沸騰させる。
液体が茶色くなって香ばしい匂いがしてくる。
その香ばしさが焦げ臭さに変わる寸前に醤油を加え、少し煮詰めたらタレが完成する。

タレを小皿などに移しておき、緑色がかった灰色に変色している豚ロースをフライパンで焼く。

しっかり火が通ったら、用意していたタレを投入してよく絡め、再びジュワッしたら米の上にのせて完成。

「豚肉が腐っているのではないか」という疑惑を抱きつつ甘辛いタレをまとった豚肉をかじると、あまりの美味さに作った自分でも驚いた。
焦げる寸前まで熱した砂糖の香ばしさだけではない、えもいわれぬ深みがあるではないか。

これが豚の脂のうまみなのか、もしくは豚肉が暑さで熟成されていたのかもしれない。
とにかく、あれほど美味い十勝豚丼は現在にいたっても食べた事がない。

つづく

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