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月明かりで星が見えない



雑草の茂った空き地に
ひとつだけ残された椅子を
月明かりが照らしていた

痛みを和らげてくれるような
やわらかな白い光は

人々を惑わし
暗示にかけるような
冷たく静かな光は

あなたのよう
あなたのよう


広い夜空を見上げた先に
大きな月があったとき
目が合ってしまった
そんな気がして怖くなる

そこに美しい女がいるような
あなたがいるような
そんな気がして怖くなる


その光で傷を癒し 隠してくれる夜と
すべてをあらわにしてしまう夜と

その二面性に惑わされた
洗脳されて心を盗られた

ひと目でもその光を見ようと
人々は眠ったまま夜道を歩きだす
毎夜のように

誰も知らない
眠っているから


月明かりが優しく命を包み込む
有無を言わさず
深い眠りの奥へ奥へと手を引いて

人々を眠らせ 花を眠らせ 草木を眠らせ
風は止み 波は凪ぎ 時さえ止まる


月の愛が優しすぎて
大きすぎて
命は次第に 生きる力を奪われていく

深く愛される悲しみを
染み入るように感じながら


なつかしいこの悲しみ

身も心も愛されて
なにも見えなくなっていく
なにもわからなくなっていく


月明かりが優しすぎて
もうなにも見えない

たとえそこで
幾千の星が輝いていても

もうなにも見えない

目を覚ましているのは
月明かりだけ





おやすみなさい





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