「雑誌用取材原稿の書き方」改訂版
人を取材して雑誌記事にする際に留意する点を128項目にまとめています。原稿の書き方だけでなく取材の仕方まで言及しています。私の経験をまとめたものですので、あくまでも私家版のノウハウ集です。主にデザイナー、アーティスト、クリエイター、建築家、職人、科学者、工学研究者への取材経験に基づいたものです。専門分野によってこれとは異なるノウハウもたくさんあるはずです。雑誌用取材原稿の書き方とありますが、ウェブ記事を書く際も役に立つことがあるでしょう。本記事は、10年前に自分のブログに投稿した記事を全面的に改訂増補したものです。
1. 文章の組み立て
001) ツカミが大切。書き出しで取材背景や情景描写などをだらだら書かない。ハッと思わせる文章を最初に。
002) やっぱり「起承転結」。起転承結や結承転転など、いろいろ試したが、「起承転結」の構成を意識して書くのが、最も文章が安定する。
003) 「結」は軽めに。最後に大事なことを書いても、雑誌の場合、読者が最後まで本文を読んでくれるとは限らない。
004) キーワードをつくって、キーワードを中心に文章を展開する。
005) 3つに重要項目をまとめる。4〜5でもいいが、3つが一番頭に入りやすい。
006) 二項対立で考える。対照的な関係の二項を見つけ出して、その二つを巡って論旨を展開すると、わかりやすい叙述となる。
007) インタビュー、対談、座談会は、「記録」ではなく「読み物」として仕上げる。
008) 取材相手に原稿チェックしてもらうことが前提なら、わかりにくい表現は書き換えてOK。取材相手の意図を読み取り、どこまで大胆に書き換えられるかが、プロのライターと素人の違い。もちろん書き換える場合は、取材相手にチェックしてもらうことになるが、その場で発せられた言葉にこだわってわかりづらい表現をそのまま残すより、整った言葉に変えたほうが、取材相手には喜ばれる。
(補足:読み物としてインタビューを書くことは、話し手のナマの声を口癖やわかりづらい言い回しなどを含めて、そのまま残して、ひとつひとつの言葉や話すリズムや口調まで後から分析するエスノグラフィーのインタビュー記録とは全く違うことを留意しよう)
009) 相手が何を言ったかでなく、相手が何を言いたいかを常に考えよう。伝えたいことをうまく言葉にできない人は多い。相手が伝えたいことを汲みとれれば、文章をきれいに整理できる。
010) 取材の際の時系列にこだわらない。取材時の会話の順番より、読み物としての流れを重視したほうが発言者の意図をより伝わる場合が多々ある。その場合は話の順番を入れ替えてもいい。最初に話した話が後半再び出てきたときは、2つをまとめても最初の話を後に持ってきて結合させてもよい。ただし、これも取材相手のチェックがあることを前提にした手法。
011) ある質問の答えが突出して長い場合、質問をつくったり、「そうですね、納得です」などという受けの言葉を挟んで、長いコメントを2つに分ける。もちろん、これも取材相手・座談会参加者に原稿チェックしてもらうことが前提の改変。
012)「地の文」か、「Q&A」か、「談」か。
【Q&A】
まとめるのが簡単。
臨場感が出る。
文章が長くなる。
【地の文】
筆者の文章の中に相手のコメントを「」に入れて構成する。この書き方はコンパクトに情報をまとめられる。多方面からコメントをとることもでき、読み物としての構成もしやすい。取材側の視点を明確に伝えたい場合に適する。
【談】
取材者相手になりきって本人が語ったように一人称で叙述する。読みやすい文章になる。ゴーストライター的な書き方だが、ゴーストがイヤなら「文・取材構成=●●」とクレジットすればいい。取材相手が何を伝えたいかをライターが明快に理解していないと書けない。筆者の視点は、どの部分を削り、どこを強調するかで表現できる。
2. 文章を書く姿勢
013) 取材で面白いと思ったことは全部書こう。ライターや編集者の資質は何を面白いと思えるかにかかっている。
(補遺) 面白いと思ったことは全部書くという姿勢は良いが、調べたことや知っていることを全部書くという姿勢は自己満足の知識のひけらかしになりがちで、文章を冗長なものにするので、おすすめしない。
014) 取材は過剰に、定着はシンプルに。 5日かけて5分で読める原稿を。
015) 悩んで長時間をかけて書いた一節をばっさり削る勇気を持とう。
016) 削りきったと思った原稿も、少し時間をおいて読めば20字×100行で内容は変えずに3行は減らせる。
017) 削りに削って、最後にくだらんことを書ける余裕を残そう。
018) 繰り返し同じことを書かない。内容的な重複もなるべく避ける。
大事なことは繰り返し述べて強調するのでなく、文章展開で強調する。
019) 難解な文章のほとんどは、専門用語の多用と筆者の文章力の欠如のせい。
020) 難しいことはやさしく。
世の中のたいていの難しく思えることの本質は、シンプルな原理でできている。数式が理解できないジャーナリストでも科学を伝えることができる。
021) 裏をとれ。
022) 偉い先生が語る言葉が真実とは限らない。専門家が自分の専門に近いがその人の専門ではない分野の言及するときは間違いがある場合があるので要注意。
023) わかりやすい話をする人は要注意。論理的には飛躍していたり破綻しているが、話術が巧みで共感を促し、わかりやすいように語る人がいる。
024) 読者は数字が大好き(価格、原価、売上、年収、報酬、負傷者数、発売日、開発期間、性能の数字、最高記録など)。売上がかなり上がったではなく、いくら儲かったかを聞き出して書く。ただし、いきなりお金の話になるのを嫌う人はけっこういるので、聞くタイミングを見計らうように。
025) 時間的余裕のあるときは、一字一句録音起こし。僕は出来る限り自分で雑談まで録音起こしをしている。そのほうが相手の話のリズムや考え方が体に染みつくので、後から原稿を削ったり、あいまいな表現をわかりやすく変えたりしやすい。
026) 知らない言葉は即調べよう。知らないことを知らないままにするな。調べるクセをつけよう。嘘も方便の「方便」って何? よく考えたら本当の意味を知らない言葉は意外と多い。
027) Wikipediaを全面的に信用しない。誰もが改変できるために、ごくたまに悪意を感じさせるようなウソが混じっていることがある。もちろん、近年はかなり信用できるようになってきた。執筆中の調べ物のときはがんがん利用しよう。特に英語版の叙述は詳しい。翻訳ソフトを利用して使いこなそう。
3. 文章の叙述法
028) センテンスは短く。長い文章は必ずどこかで切ることができる。
029) 主語、述語は常に意識すること。
030) 英語に訳しやすい文章を心がけると、文意が明快になる。
031) 「彼」「彼女」は使わない方向で。使いすぎは英語の直訳文のようになる。
032) 「私」や「僕」が主語になる文章はなるべく避けて、客観的な事実の積み重ねで、自分の視点を伝えよう。取材記事は客観性重視で、エッセイは個人の主観から物事を描写する読み物。求められている原稿の役割を意識して使い分けること。「私」が主語になる叙述は、読者との距離を縮めるための演出と考える。
033) 口語表現を意識して使おう。使いすぎは避けること。親密さやライブ感の演出として効果的に使う。
034) とかとか書くな。「とか」「って」「(文末の)けど」「じゃない」「~だし、~だし」などは適度に。
035) である調、ですます調。基本はどちらかを選ぶ。効果的に混在させる方法もあり。混在させるときはリズムを確かめて慎重に。
036) 方言を使うときは慎重に。多くの場合、方言を全面的にそのまま書くのは好まれない。大阪弁でしゃべる建築家某氏。インタビュー原稿をチェックしてもらうと、原稿は標準語になって返ってくる。東京にいると忘れがちだが、「何々しちゃった」も首都圏の方言。多用は禁物。
037) 「物は言いよう」の精神を忘れずに。
038) 他人の文章を内容は変えず全く違う文章に書き換える訓練をしよう。
039) 接続詞は減らそう。最初に書いた接続詞を削除してみても、文意が通じる場合がある。「そして」はだいたい削れる。「したがって」「だから」もなくても文意が読み取れることが多い。「しかし」も削っていい場合もある。文章のリズムを考えて、減らせるものは減らしていこう。
040) 雑誌原稿ではなるべく同じ動詞を直近で繰り返さない。言った。語った/野菜をつくる。野菜を育てる/使う。使用する。用いる。
041) 「すごい」は使わないように。どうスゴイかを別の言葉で表現しよう。どうカワイイか、どうカッコイイか、どう美しいか、どうイケてるか、どうヤバイか。
042) 「とても」「非常に」「かなり」など強調の副詞も連続して使わないこと。 「とても多い」と「多い」ならば、後者の方が強い言い切り。「とても」「非常に」には主観が混じるからだ。裏づけデータを明記して「多い」と言い切るのが客観性のある強調。
043) 体言止めはなるべく使わない。 使ってはいけないという意味ではない。ただ使いすぎはリズムを崩す。キャプションでは頻出可。
044) 文末に「──」や「……」を使うと余韻が生まれる。藤沢周平の小説が参考になる。 しかし、使うのは1つの記事で1〜2回まで。
045) 文末の(笑)は多用しない。(笑)と書かなくても文章で笑わすようにしよう。
046) 断定を避ける表現の多用は厳禁。「思う」「感じた」「なのではないだろうか」「かもしれない」「でしょう」「ようだ」「みたいな感じ」を使いすぎない。
047) ちゃんと調べて、なるべく言い切る。
048) 裏付けのない断定は禁物。、論理的でない断定は信頼を低下させる。
049) 流行り言葉は賞味期限をよく考えて。紙メディアは残る。後で読むと気恥ずかしい思いをしないように。「ちょいワルオヤジ」「だっちゅーの」
050) 「◎◎だけど〜」と人はよく言う。だが、たとえ書き起こした原稿の文末が「けど」「けれど」「けれども」でも、「が」と書き直したほうが、字数も減るしスムースに読める。
051) 「の」の連続は3つまで。美しい文章を目指すならMAX2つを心がける。ただし文章を長くするより、3つ「の」を続けたほうが収まりのいい場合がある。◎◎さんの元彼の従兄弟の紹介。
052) 長い文末表現はなるべく使わない。カワイクないはずはないであろう。表現しようとしているわけである。
053) 難読漢字にはルビ(ふりがな)をつけよう。
054) 句読点は読み手と書き手の体のリズムを合わす装置。読点の打ち方に正解なし。無闇な、打ちすぎは、リズムを、壊す。センテンスが長いのに読点を打たないと区切りがわからずリズムが生まれない。
055) ステレオタイプの言い回しはなるべく使わない。◎◎さんの今後に期待したい。体当たり演技でヌードを披露。
056) 注に頼るな。文末注にすると読者の読む流れを分断してしまう。注は引用先の記載などに留めたほうがいい。
057) ( )はなるべく使わないで表現しよう。使ったほうが読みやすい場合もあるが、頻出は禁物。記事の中に( )が増えると、流れが寸断され読みにくい文章になる。
058) 長文には小見出しを。文章の途中からでも読めるようにするのが小見出し。文頭から読んでくれる読者にとっては、大切な休憩所。
059) 小見出しを入れるべき位置は、国語のテストの解答とは違う。内容の区切りのいい場所であるだけでなく、レイアウトや、各ブロックの文字量のバランスも考慮に入れる。
060) 改行は息つぎ。改行がない文章は息苦しい。
061) 改行の箇所に絶対的な正解などない。意味のまとまりだけでなく、リズムを考えて。
062) 雑誌原稿では、レイアウト上での行幅(1段の文字数)を考えて、改行を考える。行幅短めは多めに改行を。
063) リズムを学ぶには名文を書写しよう。キーボードを打ったり、ペンを握って、カラダでリズムをおぼえる。句読点の入れ方も書き写していると書き手の独特のリズムとして理解できてくる。
064) 引用先は明記せよ。
065) ええ。そう。ですね。そうですね。いいえ。いえ。いえいえ。いやいや。うーん。うーむ。ふんふん。ふーむ。ふむ。質問を受けて、相手がどういう反応したかは、相手が発話したままを書くのでなく、肯定・納得・否定・反感・戸惑い・迷いの度合いを書き手が用意した言葉に翻訳したほうが、ニュアンスが伝わる。駆け出しのライターだったころ、「ふむ」というのをうまく使う先輩ライターの名文を何度も読み直したものです。実際に言ってなくても、「ふむ」という相づちが自然に聞こえるような流れを作るのがライターのお仕事。
4. 表記ルール
066) 漢字の連続は、文章を重くする。そのためにひらく。「ひらく」とは平仮名にすること。
067) ひらく勇気を。漢字が書けるからって頭がいいわけじゃない。「する事」「の為」は基本ひらく。ひらくは文章の軽快に見せるためのテクニック。文字面のグレイの濃度調整と思えばいい。
068) 表記統一や「ひらく」作業は、文章の散髪。理容師や美容師がセットが終わった髪を小さなハサミで最後仕上げるのに似ていて、素人では分からない微妙なバランスを整える作業。これをやることで文章の中身に対する解像度も格段に上がる。
069) 表記ルールをつくろう。漢字表記は統一しよう。
070) ひとつ記事内で漢字表記は統一する。ただし、小説家や詩人などの署名原稿の場合、筆者の漢字の使い方を優先させる。雑誌全体で統一するかは雑誌の性格にもより編集部の意向次第。
071) 漢字表記の統一では判断に迷う微妙なケースが出てくるので要注意。統一する方向で進めたほうがいいが、文脈を読み取り、慎重に判断を。
たとえば、「言う」「作る」「見る」「〜の中」
072) 数字の表記統一も考えておこう。縦組みと横組みでは数字の表記法が違う。出版社ごとのルールがあるので、しっかりした編集者や校閲者がいる場合はおまかせしてもいいが、自分なりのルールもつくっておこう。『日本語の正しい表記と用語の辞典』(著:講談社校閲部)を参考にするとよい。
073) アルファベット表記はカタカナ表記にしたほうが読みやすい。特に縦組みの場合はカタカナ表記で。
074) 縦組みでのアルファベット使用のルールを決める。たとえば4字以下の場合はアルファベットを縦に並べるなど。
075) 外来語のカタカナ表記では「・」(ナカグロ)をどう使うか決めておこう。なるべく使わない方向が一般的。
076) カギ括弧「」内に「」を使わず、二重カギ括弧『』を使うのが一般的。だが、近年発刊の岩波など新書で「」内「」を使っているケースもあり。フォントによっては「」が2種類あり、⎾「」⏌※というように使い分けているケースあり。また、“”や〈〉なども使うことあり。
※このフォントには長いカギ括弧がないので、便宜上、歯科記号の⎾⏌で代用)
077) カギ括弧と句点(「」と。)の関係は出版社ごとに違う。
私の使い方は、段落内の文末は「……でした」。
段落の最後(改行前)の文末では」のあとに「。」をつけない。
「……でした。」を使う出版社もたまに見かける。
078) 文学系はスキャナー 理工系はスキャナ。工学者の文章には語末の音引きが入らない。デザイン・アート系の雑誌なら音引きを入れたほうがいいが、コンピュータだけは音引きを入れていない。例外というのはどこにもあるものだ。
079) 外国語の正確な原音表記は無理。慣用的な表記を尊重しよう。ゴッホじゃないよ、オランダ語ではホッホだと言い出すと切りがない。
080) 表記ルールは必ず遵守する。しかし突っ込みはじめると矛盾点が必ず出るので、運用は柔軟に。
081) 人名など固有名詞の表記の揺れはグーグルで多数決。デヴィッド・ボウイかデイヴィッド・ボウイか。近年はWikipediaの見出し表記がだいぶ信頼できるようになってきた。
5. 推敲と文字校正
082) 「"直すな"オーラ」を発する原稿を心がけよう。編集者も取材された側も、最初は遠慮して赤字(修正)を入れる。しかし直しが増えはじめ、校正紙が赤く染まり出すと、赤という色のせいなのか、次第に暴力的な気持ちになり、最後にはあるブロックを丸ごと書き換えるといった事態にまでなる。ケアレスミス撲滅を心がけ、スキのない原稿を仕上げよう。
083) 音読して推敲を。文章のリズムやキレまで確かめられる。周りに迷惑のときは、頭の中で発音する黙音読。
084) ひと晩寝かそう。 朝、再度読んで完成。自分が最初の読者。
よき読者となってくれる編集者と仕事をしよう。原稿を編集者がいつも楽しみにしてくれる関係を目指そう。原稿を送っても無反応の編集者はなるべく避けて通る。
085) 文字校正はなるべく多くの人で回し読みしよう。
086) 人名、団体名は何度もチェック。プロフィールの生年も要注意。僕はあるデザイナーを10歳年上にして恨まれた。
087) 電話番号の校正は、必ず実際に電話すること。
088) 対談、座談会では参加者が別の参加者の発言に手を入れるのは厳禁。下手すると訴訟問題になる。自分のコメントのみチェックしてもらう。 流れを変えてしまうような直しは、相手の直したい意図を汲み、流れを変えないように書き直して再チェックしてもらう。「地の文方式」の取材原稿なら、当人のコメントと事実関係をチェックしてもらうことはあっても、筆者の観点や意見を変えるような直しは応じる必要はない。むげに断るとトラブルのもとだから、メールや電話で話し合おう。
089) 紙媒体の間違いは一生残る。校正はじっくり念入りに。
6. 取材の準備
090) 相手の資料はしっかり読んでから取材に望もう。ただし1週間前に読んでも忘れる。前日や直前に集中的に読んだほうが効果的。
091) インタビューに慣れないうちは、質問の内容は事前に考えておいたほうがいい。ただし、インタビューが始まったら質問事項にとらわれないこと。流れが大切。ちなみに私は事前に資料はよく読んでおくが、質問は考えない。
092) 相手にとって答えにくい質問、辛辣な質問をインタビューしたい場合は、まず答えやすい質問から始めて、相手がしゃべりやすくなってきたと思ったら、事前に用意した本当に聞きたいことを矢継ぎ早に質問する。ただ流れに任せていると、一枚上手の相手のペースに乗せられて、聞きたいことが聞けないこともある。
093) 相手が欧米人のときは質問を事前に準備する。欧米人は質問に「答える」ことに慣れている。質問の意図を読み取って適切に答えることが多い。ちなみ日本人は質問を「かわす」のに慣れている。取材慣れした、したたかな日本人は質問を答える体(てい)で、すっとかわし、しゃべりたいことだけしゃべって終わる。
094) 取材時間が15〜30分と短いときは必ず質問は用意しておくこと。
095) 取材時の録音機は必ず2台用意する。
制作工程の取材やPCでのプレゼンテーションを含む取材は録音のほかに動画も撮っておいたほうがいい。
096) 取材時はおもむろに相手の著書や雑誌記事のコピーなどの資料をテーブルの上に並べよう。事前に調べてきましたとプレゼンテーションすることはとても大切。
097) 取材のときは手みやげを持っていこう。取材者相手の自宅にうかがうときが必須。個人事務所に行くときもあったほうがいい。公的機関の場合はなくてもいい。1500円から2500円が通常だが、1000円以下でも素敵な手みやげになるものもあります。
7. 取材中のテクニック
098) 相手が何を伝えたがっているかを考えて話を聞く。雑談や脱線したような話にも、相手の伝えたい大切なことが潜んでいる場合がある。流れを読んで質問をその場で考えるのは、それを逃さないため。
099) 取材中はずっと「この話は原稿に使えるだろうか」を考えて、相手の話を聞く。
100) 話し手はしゃべりながら、うなずいている。そのリズムに合わせてうなずこう。 話し手の頭に合わせてうなずくと、話を聞いていなくても、話し手はちゃんと聞いていると思ってくれる。
ここは原稿に使えないという話になったときは、うなずきながら次の展開を考える。録音しているときは、私は相手の話の2割くらいは聞いていない。
101) うなずくときに声を出さない訓練をすること。「うん」「ええ」「はい」と声を出していると、たまにタイミングの悪いところで「うん、そうです」と言ってしまい、聞いてないのがバレてしまう。もちろん面白い話のときは、声を出して頷こう。「いや〜、その話は興味深いですね」と受けると、さらに話が深くなる。
102) 相手の話のどの部分を面白がるかで、取材相手の信頼関係が短時間で築けるか否かが決まってくる。「そこ面白がってくれるのか」「そこ分かってくれるか」と思ってもらえれば取材はスムースにいく。ライターの専門性が出てくるのもココ。
103) 沈黙を恐れるな。相手が沈黙しても慌てない。一回大きくうなずけば、相手は自然にしゃべり出す。
104) 目を見るのは大切。ただしタイミングを考えて。日本人には折を見て目を見る。欧米人にはずっと目を見て話す。(欧米人も国によって文化が違うし、シャイな人も多いので一概にはいえないので、臨機応変に対応しましょう)
105) 「でも」を連発しない。相手が日本人の場合、話の受けに「でも、◎◎なんじゃないですか」と自分の意見を言い過ぎると、コイツはオレのことわかってないと思われて、とっておきの話が聞けなくなる。初対面のインタビューの冒頭では、取材相手はインタビュアーとの距離感をはかっている。最初のお互い間合いをとりあう時間では、無計画な自己主張はしないほうが無難。反対意見をぶつけてみるのは、取材の後半、取材相手との距離が縮められたなと思ってからにしよう。
106) 取材相手が年輩の方の場合は、相手の話の腰を折らないように。脱線しても我慢して話を聞く。一通り聞いてから話を元に戻す。
107) アーティストやデザイナーはナイーブ。「引き出す」という姿勢に徹し、気持ちよくしゃべってもらったほうが面白い話が聞ける。他人の作品と比べられると、気分を害す人が多い。
108) 読者はお金の話が好きだが、お金の話を引き出すときはタイミングは慎重に。ある程度信頼関係が築いてからのほうが話してくれやすい。特にデザイナーやアーティストなどクリエイター系の取材の際は、タイミングに細心の注意を。オマエ、数字のことしか訊かないな、と機嫌をそこなることが多々ある。
109) 怒らせて引き出すという手段もあるが、本音を言わない政治家や後ろめたいことをやっている企業家向けのやり方。アーティストやデザイナーや建築家の取材では、怒らせるとあとあと面倒なのでやらないほうがいい。
110) 問うことも大事だが、自分の相手に対する考えを表明して、それに対して相手がどう受けるかを聞くのも大切。「私はあなたの仕事をこうこうこうだと考えていて、今までにない視点を私たちに提示してくれていると思っています」などと自分のポジティブな評価を表明して、それで「どうですか?」と問いかける。話し手は聞き手がどれほど自分を理解しているか知りたがっている。わかってくれているのだと思うと話が進む。また、今まで意識していなかった視点を示されると、その場で答えを考えて、いつもとは違ったことを語ってくれるので、他とは違うインタビュー内容になる。ただし取材冒頭から自分の相手への思いを語ることをやると(こんなに尊敬していますなら別だが)、相手が萎縮する場合があるので、タイミングには十分注意すること。
111) ロングインタビューで何回かに分けて話を聞くときは、話を聞く場所を変えると効果的。最初は事務所。次はレストラン、その次は自宅とか。
112) ノート取材のほうが原稿執筆の時間はかからない。ノートに高速に発言を書き写す訓練を積むこと。
113) 録音機を使うと相手はしゃべりつづける。ノートだけだとたいてい相手は書き写すまで待ってくれる。
114) ラフを描こう。文章はラフを頭に置いて書く。文字の量、写真の大きさ、位置関係を簡略に示すラフを描く能力は、編集者や雑誌ライターの必須の能力。ライターが編集者的な役割までしなくてはいけない仕事も多く、ライターもラフを描く力を身につけよう。優秀な編集者は取材現場でサラサラとラフを描く。取材現場で仕上がりイメージをスタッフ全員で共有できるようにする。ラフについては鈴木芳雄氏のブログ「フクヘン」のこの記事で。http://fukuhen.lammfromm.jp/?p=4059
8. 誌面の構造と構成
115) タイトルとキャプションだけを読んでも面白い記事にしよう。
116) 雑誌はノンリニア(非線的)構造のメディア。小説や新書はリニア(線的な)構造のメディア。雑誌は、タイトル、写真、本文、リード、キャプション、小見出しなどの要素が連携して読者を惹きつける多層構造をもつメディアであることを意識すること。
117) 読者のための入り口はたくさんつくる。
タイトル、リード、小見出し、キャプション、イラスト、写真は読者を誘う入り口。
118) 雑誌は身体的メディア。雑誌は単行本より、読み手に複雑な目の動きや手の動きを要求する。単行本や新書では目の動きは行ごとに折り返すものも一直線。手の動きも一方向に繰るだけ。雑誌は身体に近いメディアだという認識を。だから息つぎやリズムが大切になる。
119) タイトルの文体は雑誌の個性。
120) リードは本文を読んでもらうための宣伝文句。読みたくなる文章を。
121) キャプションは短いほうが読みやすい。MAXは80~120字(私の経験的感覚から出た数値です)
122) キャプションの内容はある程度本文と重なってもよい。
123) 小見出しは段落末に来ないように。
124) 仕上がりのレイアウト上での改行後の1~2字余りは、前の文章を削って送りこむ。行数を変えたくなければ文字を足す。
125) 雑誌の写真やイラストは、本文と必ずしもリンクしていなくてもいい。本文の説明のためのものとは考えない。ハウトゥーものなどは本文に沿った流れがよいが、インタビューなどでは本文と違う写真の流れがあってもいい。インパクトのある写真は本文を読んでもらうための入り口になってくれる。
9. おわりに
126) 取材先にお礼の言葉を添えて送本するまでが雑誌制作。
127) 私にとって、ライター仕事はかりそめの愛。一時的に取材対象、取材相手をどっぷり愛す。
128) 編集の最終目標は人と人をつなぐこと
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