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吾輩は“ぶす”である!?

『#読書の秋2021』に乗っかります!

僕が今回推したい作品はこちらです。

西加奈子さんと言えば、直木賞受賞作『サラバ!』、宮崎あおいさんと向井理さんの主演で実写映画化された『きいろいゾウ』、劇場アニメ映画化された『漁港の肉子ちゃん』などが有名ですが、僕はこの『きりこについて』が大好きなんです。

以下、ざっくりあらすじ。

主人公の“ぶす”な女の子きりこは、自分が可愛いと信じたまま成長していく。ある時自分が“ぶす”であることに気付かされ引きこもってしまうが、しゃべる猫ラムセス2世や、AV女優のちせちゃんの存在を通して、“世の中でいちばん大切なこと”を知る。きりこの成長を描いた物語です。

何がすごいって、まず「きりこは、ぶすである。」という身も蓋もない書き出し。そしてそこからの、きりこが如何に“ぶす”であるかを描いた描写がエグい。尋常じゃないくらい具体的。男性作家が書こうものなら、なんたらハラスメントとかで、フェミニスト議連なんかから訴えられて出版差し止めにされそうなくらいエグい。

それぐらい“ぶす”なのに、偉大なる親の愛情により自信に満ち溢れて育つ。結果、きりこは“ぶす”として扱われるどころか、“女王”として君臨するのだ。裸の女王様の誕生である。しかし現実とはかくも残酷なもので、裸の女王様はやはり裸でしかない。“ぶす”は“ぶす”でしかないことを、気付かされる時が来てしまう。

ひきこもりになってしまったきりこだが、同じ団地に住む、性に奔放なビッチのちせちゃんとの出会いを経て成長し、世の中でいちばん大切なことを知るのだった。

主人公がとんでもなく“ぶす”だったり、性被害にあったことをきっかけにビッチになってAV女優として大活躍したり、なんだかとんでもない設定なのに、大きな説得力を持って、大切なことを僕らに教えてくれるのです。

何よりお伝えしなければならないことを忘れていました。この物語の語り部は、猫です。

きりこが拾ったラムセス2世という名のしゃべる猫。猫が「きりこは、ぶすである。」なんて言うものだから、夏目漱石が聞いたらびっくりして卒倒することだろう。ラムセス2世はきりこの存在を全肯定する語り部兼相棒として、この物語のキーマン…いや、キーキャットとして非常に重要な役割を果たしているのだ。

現代社会における、ルッキズムへのアンチテーゼとも受け取れる作品。人は見た目が100%なんかじゃない!そんな作品です。短めのお話で、ユーモラスで読みやすく、ブックオフで110円で買えてしまう(西先生ごめんなさい)、なんて素敵でお手軽な名作なんだろう。

きりことちせちゃんとラムセス2世にまだ出会っていない人は、是非一度読んでほしいものですね。きっとあなたも虜になりますよ。

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