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そして僕は最強ホテルを見つけた

何故僕だけプレハブ小屋なのか。500円をケチって部屋をグレードアップしなかっただけでそんな待遇、気に食わぬ。

ただこのホテルはルアンパバーンの中では静かそうなので、とりあえず一泊だけすることにした。

昨日の睡眠負債を取り返すべく、チェックインしてから1時間ほどの昼寝をする。一見綺麗に見えるエアコンはNational製だったから見た目とは裏腹にかなりの年季が入ってそうだが、空調はちゃんと効くし何よりすこぶる静かな空間を邪魔するような音は発しない。

この空間にあるのは小鳥がチュンチュンと囀る音だけであるし、こういった自然音は煩わしいと思わない。やはり東南アジアにおけるホテル選びは大きな道に面しているところではなく、いりくんでいる、若干見つけにくいような場所がいい。

目が覚めてもベッドで横になったまま、この後この街で何をすべきかを考える。ルアンパバーンという小さな街の特性上、この街でやるべき観光という観光はその日の午前中に終えている。

東南アジアの過ごし方は下手に観光をするより、美味しいご飯を食べて、異国の街を散歩してを繰り返せば満足がいく。だが、この街のホテルに関しては満足できていない。

静かな場所で寝られればいいというのであればこのホテルでいいのだが、綺麗なコロニアル様式の建物の脇に立つプレハブ小屋はなんだが悔しいではないか。

僕が知らないだけでルアンパバーンにはもっといいホテルがあるかもしれない。

とはいえ、いいホテルというのはそれなりの金を払えば見つかるが、学生という立場であること、そして何より既に騒音ホテルへ5泊分の支払いをしてしまったこと(3泊分をドブに捨てた)から、必然的に安宿を探さねばならない。

Googleマップで一泊¥3,000以内のホテルを検索する。が、掲載されている写真というのは全て「いい感じ」なのである。もちろん、いい感じであるに越したことはないのだが、東南アジアにおいて写真通りのホテルに出会す確率というのはセ・リーグにおけるピッチャーの打率くらい低いのだ。

じゃあYouTubeとか動画情報から探せばいいというのもできなくはないのだが、いかんせんラオスのホテルは情報量が少なすぎる。

ならばこの目で見てやるしかない。強い日差しを避けるために帽子を深く被り、部屋にあった備え付けの水とスマホ、財布だけを持って外へ出る。

10時前は26度と過ごしやすかったルアンパバーンだが、部屋を出たのがちょうど正午だったから気温は30度を超えていて汗が噴き出る。覚悟はしていたが、日差しが肌を焼くように強い。

何軒かホテルをリストアップしたから、まずは1番近いところから行く。Googleマップの指示に従ってメコン川の畔を歩いた。暑いのだが、爽やかで静かな風が心地よい。

最初のホテルまでは歩いてものの10分足らずで着いた。レセプションに行き、明日宿泊できるかを尋ねる。agodaでは部屋が空いているのだから泊まれるはずである。

レセプションのお姉さんは「イエス」と言ってから「予約するか」と聞いてくる。その前に部屋を見たいと言うと、「オフコース」と言って見せてくれた。レセプションから1番近い部屋で少し薄暗く年季が入っている印象。一泊¥2,000くらいだから必要十分という感じではある。が、僕が求めているのは「綺麗で安いホテル」である。

礼を告げて、考えておくと言い残して次のホテルへ向かう。そのホテルへも10分ほど歩く。こ綺麗なキリスト教の学校のような佇まいで、部屋は狭いがとても綺麗。ここいいじゃん!とテンションを上がったのも束の間、明日は5千円だよと言われて萎える。

5千円も日本のホテルと比べれば安いのだが、スリランカやカンボジアは3千円で良い感じのホテルが見つかったのだ。物価の安いラオスなのだから、僕が知らないだけでブルーオーシャンはどこかにあるはず……

僕は再び歩いて違うホテルの内見をした。今度はリゾート風のホテルであったが部屋はまだ片付けてないから見せられないと言われて断念。一応値段を聞いたが、やはり5千円とかでagodaよりも高いのである。

agodaの予約金額は米ドル表記なので現地通貨支払いをすると普通に1,000円くらい高くなることが多いから注意しなくてはならない。最初から米ドルを持っていけとの話なのだが、円安の今、米ドル変換は極力避けたかった。

と、まあこんな感じで他にもホテルを2,3軒回って実際に部屋を見たがビビっとくる場所はなく、気づけば灼熱のラオスで8キロも歩いていた。「綺麗で安いホテル」なんて、「綺麗で性格の良い女の子」よりも少ないのではないか。

Tシャツは当然汗でびしょびしょ。今すぐにでもシャワーを浴びたい……どこかに休憩できるところはないかなあ、、

今いる現在地をGoogleマップで確認する。え!?現在地から今日まで宿泊していた騒音ホテルまで歩いて5分ほどで行けるではないか!

僕は既に5泊分支払っているのだから、このホテルを休憩利用してもお金がかからないぞ!つまり無料でシャワーを浴びられる!
(うるさいけど)ちょっと横になれるではないか!

僕は騒音ホテルへの道を早足で歩いた。もう二度と来ることはないだろうと思っていたのだが、まあお金を払ってしまった以上、いいように使いましょうぞ。

見覚えしかないホテルに再び足を踏み入れる。

「ハローアゲイン、ルームナンバー6キー、プリーズ」
レセプションにいた感じのいいお兄ちゃんはこのときばかりは困惑した表情で「戻ってきたのか?」と英語で言ってきた。

「シャワーを浴びに来たぜ!」
僕は満面の笑みで答えていたはずだ。
完全にテンションの釣り合わぬ会話である。

ルームキーを手にした僕は颯爽と階段を駆け上がり、整頓されたベッドを素通りしてシャワー室へ速攻向かう。

僕は瞬く間にスッポンポンとなり、ぬるいシャワーを浴びた。今はぬるくても無問題である。汗が溶けていくかのごとく水圧で洗い流される感覚が気持ち良い。

思わず「グゥアアーーー!!!」と雄叫びを上げるほどの爽快感である。壁の薄いホテルなので隣の客室はもちろん、外までも丸聞こえの可能性すらあるが、気にしない気にしない。それこそ僕がタイで培った「マイペンライ精神」である。

ひと通り汗を流したところで、僕は客室に戻り、スッポンポンのまま髪のタオルドライに努めて部屋をうろうろしていた(僕は普段裸族でもなんでもありません。ほら、やっぱ東南アジアですからそりゃ身軽になりたいわけですわ)。鼻歌まで歌ってしまうほどのいい気分であった。

が、そんな鼻歌をかき消すかのごとく、部屋をノックする音が聞こえる。

まじか!今裸やで!
「ウェイト!ジャストアモーメント!!」
僕は慌てて服を着る。高校生のとき、物理の授業中、古典の内職がバレそうになって教科書やら問題集やらを即座に机の中へ入れたあの日と同じくらい慌てた。

汗がまだ乾き切っていない服を着て、僕は扉を開く。すると扉の先にはレセプションのお兄ちゃんが立っていた。

「どうした?今日も泊まるのか?」
彼は再び流暢な英語を話す。若干顔が引き攣っている。

「いや、シャワーだけ浴びに来たんだよ。もう少ししたら出て、今日予約した宿へ行くさ!」

「そっか、よかった。実はこの部屋に今日お客さん泊まるんだよ」
は?こちとらあと3泊分は金払っているのだが……まあ経営上手とも言えるが。

「あ、そうだったの、、シャワールーム使っちゃたよ!大丈夫?」 

「ノープロブレム!ちなみに今日と明日だけ大きな道路と反対側の部屋空いたけど、どうする?そこで泊まっていくか?」
彼は笑顔で僕へ提案を投げかけた。

なんだって!?朗報ではないか!!しかし今日は既にチェックイン済みである。だが明日のホテルは何キロも歩いて回った結果まだ見つからないでいるし、実質このホテルへは無料で泊まれるということである。騒音トラブルがないとは言い切れないが、マシになる可能性は高い。

「ほんと!?明日だけまた泊まる!!」
「オーケー!明日だな。部屋は下。今から案内するから騒音あるか見ていきな!」

僕は彼に着いて行き、一階のレセプションの奥にある、大きな道とは1番離れた部屋に入った。バイクのエンジン音はかすかに聞こえるが、確かに前の部屋と比べれば格段に静かである。

「ここにする!!」
僕は彼と笑顔で握手した。やったぜ!何時間も何キロも歩き回った結果得られた最高の宿、それは原点回帰の騒音ホテルであった。

「今日ここ誰も使わないから好きに使って!でも明後日は埋まってるからな。そこだけごめんな。」
お兄ちゃんはそう告げて僕に鍵を渡した。

「ありがとう!明後日は違うホテル行く!」
僕はその部屋で1時間ほど昼寝をし、16時を過ぎた頃、その部屋を後にした。

レセプションにて彼が笑顔で「いってらっしゃい!」と僕に言った。
「ありがとう!あ、そうだ。明日の朝、朝食ここで食べてもいい?」
「オフコース!待ってるよ!」

泊まらない分も金を払っているのだから当たり前といえば当たり前ではあるけれど。それでも朝食はフルーツ食べ放題なので、すこぶる感謝である。

「コプチャイ!!」
僕は現地語で礼を告げた。
彼は微笑んで手を振った。

足が途端に軽くなった僕は、夕暮れ時のルアンパバーン中心地へと再び歩き出した。


つづく!



「押すなよ!理論」に則って、ここでは「サポートするな!」と記述します。履き違えないでくださいね!!!!