淡い翠の瀬で、仰向けにそっと横たわれば、スカートが、シャツが、冷たさとともに、肌に甘く張りついて。背に、腰に、お尻に食い込んでくる、石の硬さ。溺れる髪の呼気が、頭皮に響いて。耳の穴を舐め回してくる水の舌先は、やわらかくて、丸っこくて。潮っぽい香り。空気の燃えるにおい。べとついた青空へと、目玉をとろんと落としたら、ほっぺたを、流れの両手が、そっと包み込んできて。はねるしずく。視界が、ほんのりと潤んで。指頭で瞳を拭ったら、枝のかけらが、腕にこびりついていて。痛むほど鋭い、真白の真白の塊へと、手を伸ばす。葉擦れが空気を渡っていく。茶色い羽の群れが、ひらめいて。腕を垂らしてひざを曲げれば、底の声が、かかとに触れて。砂の、石の舞うのが、肌で見える。風が、湿っぽさをまといながら、すべってくる。揺れるまつ毛のこそばゆさ。流れの根元から響いてきた雷鳴が、水の息にまみれた耳に、かすかに映って。飛んできた蒼い一葉が、ふっと鼻先をかすめていって。水の手が、唇の端に、その指を甘く、押しつけてくる。目を動かせば、翠はやわらかいままで。セミが暴れ始める。水に、手ぐしされて。毛のたなびきが、昇ってくる。胸がふくらむたびに、しぼむたびに、大気の体温に触れて。すべてが陰っていく。小虫の震えが、甲高い虫の心音が、蛙のほほえみが、水に溶け込んだ夏の空気とともに、耳をしゃぶってきて。とぷん、とぷんと、消えてゆく音がする。さぁっと、緑の波立つ音がする。薄く濡れた上唇を舐めれば、冷っこさが絡みついてきて。押し入ってきたなめらかな指を、口に含んでこくりと飲めば、のどが、体の奥が、溶けていくような、そんな震えに襲われて。鼻を抜けていく、生臭さ。上体を起こせば、雨のにおい。水を吸った黒の重みに、頭をそっと引き寄せられて。前髪を、横髪を掻き上げれば、ほおを、あごを、首を、鎖骨を、胸を、とろりと駆け下りていく、滴りの足音。広がっていく波紋。後ろ髪を二つに分けて、分けて。手の甲で口元を拭って、両手でお皿を作り、背を丸め、そっとすくって。指を開けばさらさらと、還って、還って。お尻の下で、石が鳴る。ふっと出ていった息は、湿っぽく、熱っぽくて。鳥肌の立った左腕をさすったら、雨にうなじを、そっと抱かれた。

                               (了)


 こちらの企画への参加作品です。


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