碧の流星

 うんと高い高速の、真下で眠る河原で一人、石を鳴らしながら、空をじっと見上げていたら、半月のそばを、碧の流星が滑っていって。追いました。よろめきながら、足を踏み出したんです。長い尾は、まっすぐ星座を切り裂いて。硬そうな、濃くて鋭い緑の一条に、右手をそっと伸ばしました。だけど、指頭が触れそうになった瞬間、こぶしを握らずにはいられなくなって。唇をきゅっと結びました。

 あふれる息を照らすのは、燃える赤い星。凍てついた青い星。溶けゆく黄色い星。だけどそれらを押しのけて、肌に、真白に映るのは、あの流れてゆく星辰で。輝きは消えない。目が焦げる。ふらふら進めば進むほど、水の響きが大きくなって。透けていくのは、タイヤの擦れる音。

 目玉で必死にしがみついていたら、視界の端に、銀波が食い込んできて。視線を引っ張られました。あごを下げたら、夜の染み込んだ川面に、あの緑の光が、太く大きく、描かれていて。立ち止まり、天を仰いだら、夜の傷は、すっかり塞がっていました。瞳を冷たさへと投げ込んだって、もうなにも。

 胸を押さえ、足首から太ももへと這い上がってくる冷気を見つめました。そうしていたら、おぼろげな灰色が、淡く瞬いたように見えて。顔を上げれば、蒼くて痩せた流れ星が、いくつもいくつも、とろけていって。川に目をやれば、どれもちゃんと、墨色のなかで色づいていて。

 透明に息づいている水へと足を踏み入れたら、底がどろりとうねって。持っていかれる足の裏。構わず前へ進んで、純白のスカートを水面に咲かせながらしゃがみ込み、今度は紅く描かれた光の隅に、人差し指をそっと重ねて。食い込んでくる痛み。軋む関節。沈んでいく右手。体を震わせながら、じっと手首を噛ませていたら、流れ星の声が、どんどんどんどん、落ちてきて。川面越しに目に映る、月白に彩られた夜這い星。そのどれもが、この体ごと、川の水を呑んでいって。立ち上がったら、スカートが肌に張りついて。水よりも、凍った空気のほうが、皮膚によく、刺さりました。

 揺られながら、ときどき背を曲げて、花を摘むように、花唇を愛でるように、蒸発していく光へと腕を伸ばして。そのたびに、唇をきつく噛みました。紅い。蒼い。黄色い。白い。鮮やかでした。まぶしいほどに。沁みるほどに。この瞳には、あまりに鋭い。冷っこい。震えが止まりません。

 息を嘔吐して、水底にぺたりと座り込んだら、沈んでいた木の枝が、右のすねを、甘くえぐってきて。濡れた手で、口元を覆って。拭って。

 そうやって、浮かび上がる星々に、いつまでも抱かれ続けました。流れてゆく星々を、瞳で抱き続けました。星のなかにいたんです。星のなかにいるんです。なのに。

 水を握り締めても、どれだけ仰向いたって、もう二度と、触れられませんでした。あの熱っぽい、碧には。

                               (了)

読んでいただき、ありがとうございました。