ような恋

 ふっと、魂で眠るように、その人は目をつむった。ほのかにお酒臭い吐息が、鼻にかかる。青白い部屋に、その人の呼気が響いた。遠くで鳩が鳴いていた。

 眠りとは、穏やかなもの。あれほど涙を撒き散らしていた人が、あんなにも荒々しく胸底を嘔吐していた人が、今はもう清らかな顔で、無の名残へと沈んでいる。胸に人差し指を重ねれば、心音もやわらかくて。自分の脈のほうが、強いくらい。

 上体を起こし、ベッドから足を垂らして、背は丸めたまま、にぶく色づいているカーテンを、その青い縁を、じっと見つめた。前髪を掻き上げたら、絡んで抜けた。カーペットはぬるかった。ほおが、じんと痛んだ。

 少女のような恋をしていた。同時に、姉のような恋も。

 けれどそれは、母のような恋ではなかった。

 手をついて振り返り、その耳元でつぶやいた。

                              (了)

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