小声
「賞、お金、評価、名誉、称賛、価値、貢献、他者の救済、読んでくれるたった一人。これらすべてに最後まで無縁だとして、それでも書けるかどうか。インターネットもない。身近に誰もいない。あるのはただキーボードか、紙とペン、いや、もはやそれすらないとして、それでも書けるなら。そういう人が残したものを読みたいと思う。それはきっと、本当だと思うから。その人だけの言葉であろうから。その書かれたものは描かれたものであり、まさにその人の眼前、一切のうねりであろうから。嘔吐物。どうにもならず、吐いてしまったものであろうから。真実がある。曲げられることを、ふやかされることを拒絶したもの。抵抗の痕。泣きじゃくり。震え。存在それ自体のかけら。もう、偽りと建前に満ちた言葉はいらない。従属を甘ったるく肯定している表現にはうんざりだ。隷属している言葉なんてどれも嘘だ。表現は鳴ることのない、澄んだ鎖で縛られている。だから僕は、解放された、汚れきった言語を求める。他人にだけじゃない。自分にも。仮にそれが、ただの理念であったとしても。現実には存在しないとしても。僕は理想を欲する。それが、滅びをもたらすものであろうとも。ひとりで」
(了)
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