言葉のハサミ
切ろうとした。言葉でできたハサミを使って。身体から。この世の地獄を。
だけど切れない。言葉で病は短くできず、老いは削ぎ落とせず、死は切り離せない。ほかのものも。
無理だと呟いた。そうしたら渡された。言葉でできた別のハサミを。刃先をこちらに向けられて。切れと言われた。受け取った。使おうとした。切れない。なまくらだった。
これでも無理だよって言ったら、奪い取られた。できるじゃないかって、その手は肉を切り始めた。正確には、何もないところでハサミをシャカシャカ鳴らして、ぽたぽた自分で言っていた。見ていたら、ほかの人から別のハサミを投げつけられた。切れよと絶叫された。拾い上げる。輪に指を通す。切ることはできない。ぶつけられたところにあざができていた。それだけだった。
どのハサミも、この肉に四つも八つもこびりついている地獄を切ることができない。削げない。落とせない。ほしかった。だけどどのハサミも、ふにゃふにゃで駄目。音だけはこんなにも立派なのに。
ハサミがない。ハサミがない。人が差し出してくるものは、人がぶつけてくるものは、どれもハサミという名の偽りだった。かつて自分でつくったそれと、まったく同じ。
証明してほしかった。ハサミはちゃんとあるって。でも。
(了)
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