ワンマン列車の下

 ふっくら高い線路、そこをゆっくりと歩いていくワンマン列車を、たくさんの足音が這うように追っていた。地面を見たらぬかるんでいて、足の群れ、その言葉の残響が、水っぽく残っていた。

「追わないの?」

 振り返ったら、その長い前髪がゆったりと息をしていた。首を傾けたら、その人の後ろから、にゅっと影が現れた。そうして僕の横を通っていった。目が合うことはなかった。ただ、肩がどすんとぶつかった。

「怒らないの?」

 目で追わずにいたら、薄い唇がするりと寄ってきた。僕は顔を背けて歩き出した。線路よりも低い場所を、滑って転びそうになりながら。ゆっくり。列車が少しずつ薄まっていく。後ろから足音がする。何度も追い抜かれる。飛んだ水がかかる。でも、微笑みだけは僕を追い抜かなかった。微笑みにだけは決して追い抜かれなかった。

                               (了)



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