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駐在員、現地スタッフの「ヤル気」について考える

はびーび

私のオフィスは、ヨルダン政府のとある省庁のビルの中にあります。

コロナ前の話ですが、ある日、日本から来られた数名の日本人が私のオフィスを訪問してきました。

仕事の話が終わり、エレベーターのところまでお見送りするため一緒に廊下を歩いていますと、廊下に沿って大部屋や個室の部屋があり、その中の様子がちらちらと見えるのです。

タバコの煙で真っ白になった部屋、
テーブルに乱雑におかれたコーヒーカップ、
携帯電話で廊下まで響き渡る大声で話す者、
お菓子の箱をもって客人に振る舞って歩く者、
笑い声を上げながら雑談している者たち。

そんな光景を目の端でとらえながらエレベーターの前まで来て、日本の方がポツリと言うのです。

ここの人達、仕事ヤル気ないんですね


こちらの職場はあたかも金曜日の居酒屋のような雰囲気です。パッと見たところ「リラックスしすぎ」「緊張感なさすぎ」なので、そこが仕事の場であることがにわかに信じられなくなるのも無理はありません。

私もヨルダンに来た当初は同じ印象を持ちましたので、日本の方がそのようにおっしゃる気持ちもよくわかるのです。


それにしても仕事で「ヤル気がある」というのは、どういう状態のことを指すのでしょうか

パソコンに向かって黙々と仕事をしていれば、その人に「ヤル気がある」と判断するのでしょうか。

会議中にメモを一生懸命取っていれば「ヤル気がある」ことになるのでしょうか。

遅刻もせず、夜遅くまで働いていれば「ヤル気がある」ことになるのでしょうか。

24時間以内にメールの返信がなければ「ヤル気がある」と判断されないのでしょうか。

何も言われなくても、上司の意向をくみ取って動かなければ「ヤル気がある」ことにならないのでしょうか。

多くの人と長時間会議をし、時間をかけて意思決定をすれば「ヤル気がある」と認めてもらえるのでしょうか。

上のようなモノサシで見ると、ヨルダン人は「全くヤル気のない人たち」ということになってしまいます。


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そんな国でヨルダン人スタッフを「教育」し「ヤル気」を改めさせようと、この国に赴任した当時の私は実に多くの無駄な努力をしました

雑談に興じている者たちにツカツカと歩み寄り、静かにするよう、自分のデスクに戻るように言う・・・

コーヒー、紅茶、お菓子、タバコは決められた休憩時間だけにするように言う・・・

会議でなぜメモを取らないかを問い詰め、会議中はしっかりメモを取りながら人の話を聞くように言う・・・

急遽子供の送り迎えをしなければならないという事情があっても、遅刻や早退した分は給料から差し引くと警告する・・・

メールを見たらできるだけ早く返事をし、それができないなら「できない」「いつまでに返信する」ということだけでも伝えるよう言う・・・

以前に似たような仕事を任せたのだから、また同じような仕事をする場合、私が何を求めているかぐらいわかるだろう?とヨルダン人スタッフを問い詰める・・・

「思い付き」で判断するのではなく、いろんな人の意見を聞き、あらゆるリスクや可能性を検証して意思決定しなければならないと説く・・・


このように、ヨルダンに赴任した当時の私は

「この人たちは怠慢でダメだ」
「みっちり教育しなければ」

と意気込んでいたわけです。しかしながら、当然ヨルダン人スタッフから激しい反発を受けました。


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ここは人間関係を重視しますので、仕事場でもほとんどの時間、お茶とコーヒー、お菓子とタバコで雑談して過ごします。パソコンに向かっているのは1時間もありません。

かといって仕事していないのではありません。雑談が終わって腰をあげてから、その部屋を出るまでの2-3分の会話が「勝負の時間」、仕事の時間です。


ここの人は会議中にメモを取ることはまずありません。それよりも相手の話を、相手の目を見ながらじっと聞き、何か思うことがあればすぐに質問したり自分の意見を発言します。

議論に入ってこない者は「下っ端」「ゴミ」扱いです。座っているだけで何も発言しないのは「頭が悪い」「意見がない」「チームに貢献しない」者として、次に会議に呼ばれることはありません。「聞き上手」はここでは何の意味も持ちませんのでメモなんか取っている暇はないのです。


仕事よりも家族の用事、家庭の事情がここの人達にとっては最重要事項です。子供の送り迎えや家族の用事で遅刻、早退は日常茶飯事です。

また交通事情の悪さが遅刻やアポへの遅れに拍車をかけます。雨が少し降るだけで道路が冠水して渋滞になり、職場や出先への到着時間は読めません。早退が多いのは、交通事情の悪さを考慮して子供のお迎えにできるだけ遅くならないようにするためです。

坂道が多いアンマンは、雪が降れば道路が「スキー場」状態になります。車通勤が主流のここでは、朝雪が降っていれば「自分で勝手に公休日」になります。


ここの人はメールは基本読みません。私のスタッフなど、長いメール、何段落も続くようなメールは一段落目を読み終わる段階で疲れてしまい、それ以降は読まないそうです。

そもそもそんな長いメールを送るぐらい話が重要なら「なぜ電話してこないのか?」「なぜ直接会って話しようとしないのか?」と、それこそ相手に「ヤル気がない」という見方をするのです。

距離の離れた者同士のコミュニケーションは電話かWhatsApp(Lineのようなスマホアプリ)を使います。メールをほとんど使わない代わりに、スマホ一台で仕事を進めるのです。だからメールで用件を伝えたと安心していると、返信が来ずに痛い目に遭います。


こちらの人も日本人と同じく「空気を読む」傾向があります。しかし、私がスタッフにどんな仕事を望んでいるか、どんなレベルの仕事をしてほしいと思っているか、いつまでに、次に何をしてほしいかは逐一口で言わなければ誤解が生じることが多いです。

日本人同士でさえ「暗黙の了解」で済んだと思っていても、後でお互いに誤解があったことに気づくことがあります。ヨルダン人スタッフと私の間でも同じで、暗黙の了解で「わかってくれているだろう」と思っていても、結局私の望んでいるものと彼らのイメージしていたものの認識がズレていることも多いのです。


こちらでマネージャーに求められることは素早い意思決定です。「あの人にも相談しなければ」「あちらの部署の意向も確認しなければ」などとやっていると「頼りない上司」「無能な上司」扱いされてしまいます。

意思決定の中身が正しいか正しくないかはあまり重要ではありません。とにかく即決、それから行動しながら柔軟に修正していくことが大事です。


こういう現地事情があることを知るにつれ、かつての私は彼らのヤル気を改めさせるどころか、大いにヤル気をなくさせてしまっていたのです。

もし私が数カ月だけの仕事でヨルダンに来ていたら、ここの人と「ヤル気」のあり方をめぐって言い争い、この国のことをボロカスに言って去っていたことでしょう。

幸い、数年にわたってヨルダンの仕事に携わらせていただいており、自分で言うのもはばかられますが「ずいぶん丸くなりました」。


このように丸くなったのはいいのですが、ここの人達と就業時間のおしゃべり、会議のおしゃべりに付き合っていると、夕方にはうんざりするほど日本からのメールが溜まっています。出さなきゃいけないレポートも手付かずになります。

いつしか私は、ちょっと空いた時間などがあると集中してメールやレポートを片付けるため、パソコン片手にこそこそと近くのカフェに出かけるようになりました。

おや、はびーび、どちらへ?

私の仕事がたまっている事情を知るスタッフなどは、ニヤニヤしながら私がどこへ行くのかと聞いてきます。

「ん?ああ、ちょっと用事」
「カフェ行くんでしょ、付いて行っていい?」
「ダメ、来るなー!笑」

こんな感じで日々仕事しています。

今日も最後までお読みいただき、ありがとうございます。

はびーび
大学を出てから駐在員として主に海外で仕事をするようになりました。現地の人たちと日本の「常識」の違いに振り回される日々ですが、ここでは異文化理解や異文化コミュニケーションの観点から日々思うことを書いていきます。