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【開催報告】第8回 デジタルガバナンスラボ「審議会アップデート+UX改革こそ本質」

デジタル社会への移行が急務とされる一方で、「誰ひとり取り残さないデジタル社会」のために、ユーザー体験をもとにサービス設計を行うことで人に優しいサービスを構築する必要性が認知されるようになりました。
さらに、政治不信という現状を踏まえ、損なわれてしまった市民からの信頼を取り戻すための変革も求められており、現在の政策形成プロセスを支えている審議会を中心としたインプットだけでなく、より多くの国民を巻き込んだ政策形成のあり方、すなわち「オープンガバメント」が注目を集めています。

第8回目となるデジタルガバナンスラボでは、「審議会アップデート+UX改革こそ本質」をテーマに、UX(ユーザーエクスペリエンス)改革の観点から審議会のアップデート、つまり政策立案側とその外にいる“市民”それぞれのエクスペリエンスをどのように向上させることができるのかについて議論を行いました。

開催報告

デジタルガバナンスラボ
第8回「審議会アップデート+UX改革こそ本質」2021年6月19日@オンライン

登壇者(敬称略)

横田結(デジタル庁(当時準備中) デザイナー)
長谷川敦士(株式会社コンセント代表 / 武蔵野美術大学教授)
関治之(一般社団法人コード・フォー・ジャパン 代表理事)

<モデレーター>
隅屋輝佳(世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター)

オープンガバメントに取り組むデジタル庁

横田氏からは「デジタル庁によって"オープンガバメント"はどう実現されるべき?-その現在地-」というテーマで、「デジタル改革アイデアボックス」にスポットライトを当て、お話いただきました。

当時創設準備中のデジタル庁では「デジタル改革アイデアボックス」の名称で、デジタル改革に関する国民のアイデアをウェブ上で広く募集し、政策立案に活かすべく取り組みを行っていきました。その特徴は、投稿されたアイデアがすべて公開されていること、他者の意見に賛否を表明したり、コメントを付すことが可能であるという点です。従来のアンケートやパブリックコメントとは異なり、アイディアボックスは互いの意見を交流し発展させる、意見集約機能を持っているのが大きな利点です。

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一方で、デジタル改革アイデアボックス取りまとめにもあるように、アイデアボックスへの参加にあたり障壁があること、アイデアボックスに掲載されているアイデアが親近感を覚えにくく広い関心を持ちにくい状況があることも一般利用者の声から見えてきました。

こうしたデジタル改革アイデアボックスでの反省や学びを踏まえ、デジタル庁では「国民との競争による政策実現のためのコミュニティプラットフォーム実証事業」の実証事業者を募集し準備しています。そこでは、使いやすいUIUXとコミュニティマネジメントを重視した新たなプラットフォームサービスの形成・運営が目指されており、オープンガバメント実現に向け取り組みが進んでいます。

UXから逆算してサービスを作る

ユーザーに優しく、使い勝手が良いサービスはどのようにすれば作れるのか。長谷川氏からは、「UI・UXこそ本質」というテーマで、UI(User Interface)とUX(User Experience)、Inside-Out(事業視点)とOutside-In(顧客視点)という2つの観点からお話いただきました。

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まずUI設計に関するユースケースとして紹介されたのが、成田エクスプレスのチケット購入です。この購入手続きは荷造り・飛行機への搭乗・目的地到着といった移動の流れにおいて、そもそも成田エクスプレスを使う頻度が低いことから相対的な重要度が低く、UIの改善はUXの観点からみると優先度が高くないと指摘。UI改善はあくまでもUX向上の手段として位置付けられることが強調されました。

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SNSのようにデジタル空間内で完結するサービスとは異なり、多くの行政サービスはサービス提供の過程において対面でのサービス提供を必要とします。そのため、人に優しいデジタルを用いた行政サービスを提供するためには、デジタルコンテンツのUIだけでなく、対面でのサービス提供を含めたプロセス全体を設計することが必要です。

サービス・制度の設計にあたっては、Inside-Out(事業視点)とOutside-In(ユーザー体験視点)の2つの視点が重要となります。

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Inside-Outから考えることで、サービス・制度がどのように使われているかを明らかにし、課題や改善機会を見つけ、効果測定のための指標(KPI)を設計することができます。

一方でOutside-Inから考えることで、生活者がどのようにサービス・制度を体験するのか、自分たちが提供するサービス以外も含めた体験全体を可視化することで、よりリアルな生活者の文脈や感情を把握でき、新たな気づきを得られます。

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サービスや制度を作るうえで、通常私たちはInside-Outの視点に陥りがちです。しかし、顧客体験(UX)を改善するためには、顧客行動の理解という大きな枠組みを捉え(Outside-In)、その上で事業視点からサービス制度設計を行う(Inside-Out)ことが行政DXにおける成功の鍵であると指摘されました。

デジタル技術を用いて参加型で政策立案を行う

日本政府はデジタル社会実現のための重点計画を策定し、改善に向け行動を始めています。しかしながら、エデルマンの調査によれば国民から政府への信頼は諸外国と比べても低迷しています。

こうした現状を踏まえ、関氏からは「参加型政策立案を支えるテクノロジー」をテーマに、国民からの信頼を得ながら行政を推進していく一つのあり方として、デジタル技術を用いたオープンガバナンスのあり方についてお話いただきました。

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オープンガバメントの大きな特徴は、高い透明性を担保できること、参加型であること、協働型であることの3点です。オープンガバメントでは、政策課題に対して情報公開や政策形成プロセスの公開を行うことで、議論に透明性を確保することができます。また、多様な世代から構成される多様な主体と共同しながら議題への問いかけ・検討を進めることで、市民に意思決定への参加機会を提供できます。パブリックコメントに対するオープンガバメントの大きな特徴として、このような政策立案から実現までの一連の流れへの市民の関与や、行政と市民が双方向でコミュニケーションを行う点であることを紹介されました。

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世界各所でオープンガバメントに向けた模索は始まっており、Dicidim、Consul、vTaiwanなど市民エンゲージメントツールが活用されています。加古川市ではDicidimによるオープンガバメントの取り組みが行われているなど、こうしたエンゲージメントツールは日本でも導入されつつあります。

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関氏は加古川市での取り組みについて紹介した上で、実際にオンラインツールを活用することで参加者の4割が10代であることなど、オープンガバメントの目的の一つでもある「多様な声を集める」ことが実現できていることを強調しました。その上で、参加者を増やすこと、職員側の負担軽減、対面でのワークショップで出た意見とオンライン上での議論を円滑に繋げること、市民起点の意見を政策に落とし込むことを今後の課題として挙げました。

さらに民主主義的なデジタルトランスフォーメーションが何であるかを考えること、信頼関係を構築するための手段としてオープンガバメントが有効であること、オープンガバメントを行う上で参加者の意見を整理するためのプロセス定義を行うこと、そしてユーザー体験の向上を今後の課題として挙げられました。

おわりに

実際に国民を政策立案の過程にも巻き込んでいくオープンガバメントには、サービス利用者となる国民が自発的に参加したくなる仕組みを作ることが重要となります。こうした仕組み作りにあたっては、必ずしも見た目だけのUIの改善だけでなく、中身そのものも含めた変化を起こすことでUXを改善していくことが必要不可欠です。

デジタル技術を活用することで行政をオープンな場としていくべく、デジタルガバナンスラボは今後も活動を続けていきます。

Author: 世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター 伊藤龍(インターン)
Contributors: 世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター ティルグナー順子(広報)

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