市役所からの電話「豊前市PR動画を2週間で作ってくれませんか」制作から公開まで
役所から突然の電話
「大変急な話で申し訳ありませんが、来月上旬か中旬までに豊前市のPR動画を作っていただけないでしょうか?」
2024年になり、1月もそろそろ終わりかけていた頃に、移住後から仕事でお付き合いするようになった市役所の方からそんな電話があった。
「え?来月上旬か中旬?」
「そうです、うちにお話が来たのも年明けで。
航空会社さんの企画です。
機内で配布する印刷物に九州各地の情報と動画と連動するQRコードを記載するそうで、その動画を作っていただきたいんです。
…いかがでしょう?」
いかがでしょうと問われるものの、通常なら「無理」の範疇だと思った。
通常の動画制作といえば、調査をしてヒアリングして企画して、絵コンテ作って承認されて、動画素材撮影して編集…とかなり時間も手間もかかる。
この条件でそもそも、はい、やりますよと手を挙げる業者さんがいるのか。
しかし豊前市にとって、認知拡大の大きなチャンスであることは間違いない。
仕事で関わっている観光まちづくり協会でも様々な企画があり、里山リトリートサイトも近日中にリリース予定だ。
連絡をくれたのは、豊前市役所商工観光課の人望厚い女性課長さんだ。
依頼元は公私隔たりなく付き合いがある、総合政策課と商工観光課の担当者たち。
そして手持ちの動画素材はインスタ用に撮っていたスマホ縦動画ばかりと条件はよくないが、ゼロではない…
移住してからずっと、推し活のように豊前の神楽や山を撮影して発信してきのだから。
そして決め手は4月にオープン予定の古民家図書館の準備のために、その時期通常より仕事を少なめに設定していたこと。
仕事を調整できれば、動画制作に集中しやすい状況だった。
「いつも自分がインスタで出しているような動画レベルで大丈夫でしょうか?」
「はい!!」
本当にそのレベルでいいのか?と半信半疑で動画制作を引き受けた。
「何かできることはありますか?」と課長さんに聞かれたので、「動画の方向性の確認のために、若い人材がほしいです」と言うと、20代の若手三名をサポートにつけてくれた。
なぜ若手だったかというと、動画は感覚的なものだし、動画を見慣れている若い世代によいか悪いか率直に判断してもらいたかったからだ。
目的や競合の確認
突然の電話の後日、急ごしらえの「豊前PR動画関係」グループが立ち上がった。
どんな動画がよいのかを、これから考えるために、その動画をどんな人に見てもらいたいのか、動画を見てどうしてほしいのかをヒアリング。
それにどんなサイズで納品したらよいのか、どのような状況で閲覧されるのかを確認してもらい、思ったより小さいサイズでかつスマホでの閲覧が想定されていることが分かった。
大画面で無い、という点にまずホッとした。
航空会社さんから提供されたサンプル画面も確認。
既に公開されている、錚々たる動画ばかりだった。
誰もが知っている企業の動画だって作っている制作会社の動画もあった。
クリエイティブも機材も一流。
「この動画と自分のスマホメインの動画が並ぶのか…」と、目に浮かぶ羞恥プレイに暗澹たる気持ちになった。
でも、弱者には弱者の戦い方がある。
強者とは違うステージに立てばよい。
それに豊前を好きになってくれそうな人を想定すると、派手な観光地とは真逆の場所が好きだろう。
例えば京都ではなく、奈良を選ぶような。
錚々たる動画ではなく、あえて豊前を選ぶ人が関心を持ってくれるような動画イメージして企画を考えることにした。
ちょうど里山リトリートのホームページの文章制作を担当していたので、想定顧客層はほぼ同じだったのが、役立った。
弱みを強みに変えて
土日を潰して考え抜いた企画は「豊前に移住したフォトライターの1000日間の記録」。
小細工できるような技も浮かばないし、時間も素材もない。
自分が移住してから「すごい!」とキャーキャー言いながら撮ってきた動画や写真を編集して、その時の感情を表現していく。
2021年の春に移住したから、1000日間も過ぎたばかり。
まさにリアルでしかない。
スマホ動画しかないとか、動画なくて写真が混ざるとかも、リアルであることの証明になるかもしれない。
弱みではなく強みに。
ただし、フォトライターの1000日間ということは、個人のPRにもなりかねない表現なので、豊前市的にはどうかというのが問題だった。
でも企画を練り直す時間はきっとない。
競合調査の結果をまとめ、動画も最初のイメージだけ作っていくことにした。
総合政策課の判断は
「え、いいんじゃないですか、これで、ねぇ」
若手が連れてきてくれた総合政策課の上司の方がそう言ってくれて、懸念していた問題はクリアになった。
前から感じていたことだけど、豊前市は何というか「いいんじゃないですか」の範囲が広い。
外から豊前に仕事で来たという人も「自分は外の人間なのに、したいんだったら、やったらいいよ、って応援してくれるんですよねー」と言っていた。
前向きな緩さのおかげで、あとは制作に突き進むのみとなった。
制作物にOKが出た後はご挨拶まわり
動画制作はCanvaで行った。
シンプルな動画だし、データも軽い、スピード重視で選んだ。
こだわったのは、スマホでの見やすさ。
若手からの「すごくなくていいんです。実物より動画がすごかったら、実際に来た時にがっかりされるし」という言葉を念頭に、自分が見てきた豊前をそのまま表現していく。
若手たちにも随時確認してもらいながら作業が進み、内容も役所の皆さんから大体OKをもらったところで、写真や動画の使用許諾を得るために、各団体や個人に向けて連絡したり、挨拶に伺った。
法律的には勝手に使用しても問題ないものも多かったけど、やはり制作者として一言ご挨拶したいと思っていた。
挨拶が後になったのは、万が一「やっぱり使いませんでした」なんてことが無いようにと。
使った動画や素材のうち、本当はそのカットではないほうが魅力を伝えられるケースもあったのだけど、皆さん、「制作2週間」ということで納得していただくしかなかった。
その事情説明もしたかった。
「ぶぜんノートさんですよね?Instagramで2021年ぐらいから現れた」などと、以前からInstagramでつながっていた神社の方にお話を伺えたのは、この動画制作の嬉しい副産物だった。
公開された動画がこちら
こちらが先日豊前市の公式YouTubeチャンネル「豊前くぼてん」上で公開された動画。
航空会社さんの特設サイトでの公開は4月〜6月と聞いている。
リアルに自分が移住して、見て、体験した豊前が詰まっている。
note経由で自分を見つけてくれた、イタリア人の女性研究者Cecilia Luzi(チェチリア・ルージ)さんと仕事仲間と豊前のボランティアの方々と登った求菩提山のこと
豊前の人たちに案内してもらった、秘境「犬ヶ岳」のこと。
この動画を見た豊前の人たちに「こんなところ、豊前にあるの?」と言われるような場所にも行った。
本当にいいところがいっぱいある。
動画を見てくれる人たちに、フォトライターとして伝えたかった「こんなにいいところなんです。ここでご一緒しませんか」という思いをこの動画で表現したつもりだ。
今後作りたい動画
依頼者も関係者から内容として「これで十分ですよ」と言われたものの、やはりカメラで撮った動画を使いたい気持ちがあった。
豊前の魅力を伝えるためには、やはりもっとと。
移住するきっかけになった求菩提山の最大祭礼行事「お田植え祭」からまずは撮ることができた。
仕事で使うかどうは分からないし、個人的なこだわりであっても、ただ撮りたい、もっと伝えたいから撮っていこうと思う。
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