実践英語とTOEIC
就職や転職、または昇級試験などで英語力を証明するために、今でもTOEICは活用されていることだろう。以前40代の同僚が毎月の様にTOEICを受験していることを知り、驚いたことがある。会社に提出するわけではなく、あくまで自分の英語力を確かめるために英語を学び、TOEICを受験するそうだ。TOEIC用の参考書で学び、そしてTOEIC対策の為に週に何度かオンライン英会話も受講していたらしい。それを知った私は本当に彼の努力に頭が下がったし、TOEICで高得点を取ろうとするその意欲と継続力に感服した。けれど、彼は、英語を、話すことが、できな、かった・・・・。もちろん簡単な挨拶や、電話での英語での取次ぎはどうにかできていたけれど、外国人スタッフに話しかけられても会話を楽しめるほどの語学力は、そばで見ていてもあるように思えなかった。
十数年前にも、TOEICの為に英語を学んでいた同僚がいた。彼はほぼ満点に近いスコアを取っていたし、それが彼に英語に対する自信を与えていたようにも見受けられた。多分彼は私の何倍も英文法を理解し、英語長文の読解力も私などより長けていたはずだ。しかし私がアメリカで仕事をしていた時期に、その同僚がアメリカにやって来た時のことだ。彼の英語は日本語だった。いやもとい、彼の英語は日本語を話している様にしか聞こえなかったのだ。彼が英語を話す時、英語独特の抑揚が全くなく、基礎ができているはずの英文法や豊かな語彙力をもってしても、全くアメリカ人に全く英語が通じなかったのだ。レストランで食事をした際は、彼の英語を私が英語で通訳するというなんとも不思議な事態になってしまった。それでも、英語を一切物怖じすることなく話そうとする彼の姿勢は尊敬に値したけれど。そして一番困ったのは、彼が英語で「Sure=シュアー」と返事をする時、なぜか「Shit=シット」と聞こえてしまったことだ。勢いよく「シャッ!」と彼が言うたびに、どうしても「シッ!」に聞こえてしまう。Shitとは「クソ」と言う意味だ。これは人に対して言う言葉ではない。私は本当に焦った。早く食事を終わらせて、彼から離れることしか考えられなくなったほどだ。もちろん彼には「Sureはシュアーって発音したほうが良いよ」と優しく伝えた見たけれど、ご存じの通り一度体にしみついた英語の発音はそう簡単に変えることはできないものだ。そしてそのまま彼は旅を終え日本へ帰国した。無事に帰国したと知った時は、「Sure」の発音の悪さのせいで命を失う事はなかったのだなと、胸をなでおろしたものだ。
私は英語を使っての仕事をすることもあるけれど、転職の際にTOEICの点数を聞かれることはほぼないし、今更TOEICを受験しろと言われることもない。これまでの経歴を就職面接の際に提出し、それでも「TOEICを受験してください」と言われたらその面接をもうお断りするかもしれない。なぜならTOEICにはTOEICを受けるための勉強方法や勉強対策があり、それを時間をかけてする気にもならない。ただ怠けているだけだけれど。もちろん、新卒を採用する際や、昇級試験の際にTOEICを受験させるのは良いアイデアだと思う。しかしそれはあくまでも実践英語の力を知る為のものにはならないと思っている。基礎的な英語の知識を得てもらうための手段としてTOEICのための勉強をしてもらうのは賢い方法だと思う。
英語力にも種類がある。ただ読める、書けるだけの人もいれば、読めたり書けなくてもペラペラの人もいる。英語が話せても、仕事上で使える程の英語力は持ち合わせない人もいるし、TOEICは満点でも英語がアメリカで通じない人だっているのだ。自分がどうなりたいか?どの程度の英語力を求め、どのように学んでいけばよいかを考えてみるのもいいかもしれない。もちろん話せなくても英語のドラマや映画を理解できればそれでいい、というなら、それはそれで素晴らしいことだと思うのだ。
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