見出し画像

クチナシと黄飯(おうはん)

 近所の生垣のクチナシが、だんだんと咲き始めて、芳しい香りを放っている。今日は夕方、雨が止んで少しだけ気温が上がってきたこともあり、散歩の最中にクチナシの香りに吸い寄せられて、思わず満開の一輪に顔を近づけてクチナシの香りで深呼吸をした。

画像1

 クチナシと言えば、子供のころ大好きだった美少女戦士セーラームーンの中で悪役が「死人に口無し!」と言って攻撃開始したシーンが印象的で、なんとなく不気味な花、という印象がずっとあった。大人になってから調べてみると、クチナシの実は結実しても開かないことから、「死んでしまった者は反論したり抗議したりすることは出来ないのだから、死者に罪を着せたり責任を負わせたりするべきではない」という意味のことわざらしい。現代では、そこから派生して「死んだらもう口がきけないから、罪をきせてしまえ」というような意味合いで使われることが多いらしい。セーラームーンのセリフもその文脈だった。そして、実が開かないことから、口数が少ない内気なイメージが持たれており、「娘のいる家庭に贈ると嫁に行けなくなる」という伝説まで日本ではあったようだ。

 ひるがえって欧州では、クチナシの良い香りをストレートに愛情表現として、男性が好きな女性に求婚する際に贈る花であるらしい。今でも、花嫁のブーケにも使われたりするそうだ。確かに、今までブーケにクチナシが使われているのを、私は日本で見たことがない。

 実が開かない、というのは、自然には開かないけれど、人間がこじ開けることはできる。

 私のルーツの一つに、大分県・臼杵があるのだが、毎年大晦日には黄飯(おうはん )というものを作って家族で食べる習わしがある。大根、人参、ごぼう、鶏肉、豆腐を炒め煮した食べ物で、たっぷり刻んだネギをかけていただく。子どもの頃から、ちっとも黄色くないのに、なんで黄飯(おうはん)と言うのだろうと謎に思っていた。祖母に聞くと、「昔は、黄色く炊いたごはんにかけて食べたのよ」と言っていた。黄色く炊いたごはん!?美味しそうでたまらない、いつか食べてみたいと思っているうちに、昨年祖母は帰らぬ人となった。

 黄飯には、江戸時代に臼杵藩が財政難になった時に、赤飯の代わりに食べるようになった歴史があるそうで、キリシタン文化の栄えていた土地柄、スペインのパエリアにインスパイアされたものでもあるらしい。

 そう言うわけで、2019年の大晦日には自力で黄色いごはんを炊いてみた。
ネットでレシピを検索しまくり、どうやらクチナシの実で黄色に染めるらしいと言うことで、近所のオオゼキに電話してクチナシの実があるかを聞いて回った。どうやら、クチナシの実は年末年始に活躍する素材のようで、栗きんとんの黄色もクチナシの実で染めているそうだ。

画像2

 クチナシの実は、赤黄色っぽい色でとても軽くしっかり口が閉じている。
 フードプロセッサーに入れて細かい粉にし、水に晒すと、すぐに透明の水は黄色に染まった。

画像3

画像4

画像5

 花と違って香りは無い。ただ、美しい色がつくだけ。サフランを水で戻した時のような色味。研いだお米に入れて炊くと、それはそれは美しい金色に輝くごはんが炊けた。

画像6

画像7

 三十うん年間食べ続けてきた黄飯が、ついぞ本物の黄飯として食卓に並んだ大晦日。なんだかもう、クチナシの嫌な感じのイメージは腹の中で消化されてしまった。今クチナシの花木は、ただただ甘くて懐かしい香りのする香木として、白い魅惑的な花を咲かせる生き物として、目の前で咲き綻んでいる。

画像8


よろしければサポートお願いします!いただいたサポートは、執筆の取材活動に使わせていただきます!テーマのリクエストがあればコメントください!