わざわざアカデミー賞なんて獲らなくてもね。

　12本目は『パラサイト 半地下の家族』。話題の映画ということで、実はだいぶ前、1月の末頃、既に映画館で鑑賞していたのですが、これを書くのを怠けている間にアカデミー賞獲っちゃって、書きづらくなっちゃいました。

さて、ということで、内容は僕がなんじゃらかんじゃら言うまでもなく名作で、大概の人は楽しめるのではないかと思います。完全なる富裕層、完全なる貧困層、そして、中間より貧困気味の半地下の家族。ともすれば、完全なる地下に落ちかねない層の人々が必死にあがいて生きているわけです。主人公一家の子どもたちが、まあ悪知恵が働く。頭いいわけです。それでどこまでのし上がれるのって話なんです。僕は終盤のあのソファのシーン。あの構図が素晴らしく天才的だと。この映画の言いたいことすべてをギュッと濃縮してあるような。一生忘れられないシーンになりそうな気がします。

さて、ニュースとかでやってたけど、韓国ではあのような半地下に住んでる人が実際に2%もいるんだとか。100人に2人。小学校の１学年が僕はそれくらいだったので、なんか全然違う世界のような気がします。同じく日本での貧困者を描いた『万引き家族』の記憶も新しいですが、あれはいたって日本的で「貧困でも幸せに暮らしてる」って感じだったのに対し、『パラサイト』は「あがいてのし上がっていく」っていうなんかアメリカ的なわけで、それが全米でも大ヒットした要因なんでしょう。

この『パラサイト』がアカデミー賞を外国語映画で初めてとったことで、韓国をやたらライバル視してるこの隣国日本では、「日本映画はなにしてるんだ」っていう議論が沸き起こり、「漫画原作ばっか作っているからダメなんだ」とか、「国が金をださないから」といった映画界に対する議論が巻き起こりました。それ自体は、いいことなんじゃないかと思うけど、ここでアカデミー賞とは何かをちゃんと考えておく必要があると思う。

　アカデミー賞ってのは「その年で一番凄い映画」みたいな感じで世界中から注目されてるけど、結局は単なる「ロサンゼルスの映画祭」に過ぎません。賞金もないし。ロサンゼルスで公開しなきゃいけないし、審査もアメリカの富裕層だらけのアカデミー会員によってされます。アカデミー賞をとった作品は面白いものは多いけど、面白いからアカデミー賞とれるわけではないんです。例えば、先程の『万引き家族』は昨年のアカデミー賞を惜しくも逃しましたが、内容が日本的だし、アカデミー賞を獲ろうと思えば、アメリカのアカデミー会員に「今の日本の社会の現状や制度はこうだよ」みたいな説明を野暮ったくしなきゃいけないし、それでも理解してくれるとは限らない。アカデミー賞は名誉なことだけど、映画自体がとりあえず素晴らしいし、カンヌでは評価されたわけで、それでいいんじゃないかと思う。

僕はお笑い芸人の立場として、日本のお笑いってのはかなり進んでいると思う。進みすぎて、さらに伝統的に「話芸」として、日本語を使った面白さで発展してきたため、外国人が理解するのは大変ではないかと思う。もちろん、内容をわかりやすくして、アメリカで公演して成功してる芸人さんもいるけど。でも、おそらく、アメリカ人でダウンタウンさんを知ってる人なんてほとんどいないだろう。あんなに面白いのに。日本は独自の文化が発展しすぎていて、外国人に理解させるのは大変だし、わざわざ無理して理解させなくてもいいのでは、って僕は思います。

日本の映画は例えば、黒澤だったり小津だったり、一定の評価を世界的にされてきて、なんだったらハリウッド映画の基礎の部分にも大きな影響を与えているわけです。既にアメリカの人々には「日本の映画は凄い」ってのは根付いているわけで、わざわざロサンゼルスまで持っていって、アメリカ人に評価されるものを作りにいく必要なんてないと思う。黒澤や小津がアメリカ人にウケるために映画を作ったかって話。日本映画がアカデミー賞を獲りにいくってのは、アカデミー賞によせた映画を作りに行かねばいけないんです。

日本ではこれだけで独自の発展を遂げているんだから、好きなようにつくっていればいいんだと思います。原作コミックの映画化だって、ドラえもんみたいなアニメ映画だって、映画界の発展や映画に親しむのに役立ってるわけです。全部が全部、ゴリゴリの芸術映画だったら、初めて映画館に観に行って「映画楽しかったなあ、また行こう」ってなれないと思う。で、それが入り口で、いろんな映画に興味をもったり、いろんな映画作る人が現れて、そのうちいい映画が生まれて、その中には世界的に評価されるものも現れたりして、それはそれで誇らしいことなんだろう。とりあえず、今は、全国に映画館があって、何かしらの映画を毎日やってて、どれかは誰かの好みのもので、北野映画や、是枝映画みたいにある程度世界で評価されるのもあって、デートの選択肢に映画館があって。僕はこんなにも映画が根付いている国、日本に住んでてよかったなあって思います。