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泉房穂×藤井聡『「豊かな日本」は、こう作れ!』試し読み

大阪&神戸のベッドタウン明石市。
“10年連続人口増”実現の前市長が、年10兆円を子どもに投資し、景気を良くするプランを提案!
事なかれ主義の議員・官僚と闘い、日本人ひとりひとりを豊かにするアイデア満載の一冊。

この記事では2023年9月25日刊行の泉房穂×藤井聡『「豊かな日本」はこう作れ!』のまえがき全文と本文の一部分を抜粋して公開いたします。

まえがき


必要なのは、国民への愛  泉房穂

政治は誰がやっても同じではない。誰が政治をやるのかで、私たちの生活は大きく変わってくる。
30年もの間、ほとんど経済成長もせず、給料も上がっていないのは、世界の中で日本ぐらいだ。政治が間違っていたからだ。

30年もの間、給料が上がらないのに、税金が上がり、保険料も上がり、物価まで上がっていったのでは、私たちの生活はますます苦しくなっていく。その原因は、日本の政治にある。
30年間、何もしてこなかったからではない。何もしていなければ、私たちの生活はここまで苦しくはなっていない。そうではない。政治が間違ったことをやり続けてきたのが原因だ。

しかも、その間違いは今なお続いているし、いまだ終わる気配がない。それどころか、さらに間違いを重ねようとしている。その間違いとは何か。それは国民を助けることなく、国民に対して、あたかもイジメのごとく、負担を増やし続けてきたということだ。

そういった政治を終わらせなければならない。そうでなければ、私たちは救われないし、子どもたちや孫たちの世代にも申しわけが立たない。間違った政治を終わらせるのは、今の時代を生きている私たち大人の務めだと、最近あらためて強く思うようになってきた。


今の日本の政治に足らないのは、『国民への愛』だ。国民を助けるのが、本来の政治の使命や役割のはずなのに、国民を助けるどころか、国民に鞭打つような政治が続いている。

私は10歳のときに、ふるさと明石の街を「やさしい街」に作り変えてみせると自分に誓い、その誓いを果たすべく、必死に生き、明石市長になり、12年間をかけて、明石の街を作り変えてきた。その奥にあるのは、『ふるさと明石への愛』だ。冷たく理不尽だった子ども時代の明石、私はその明石を心から憎み、だからこそ「心から愛せる街」にしてみせると誓った。そして、子ども時代に感じた世の中の理不尽というものを、政治の力で何とかしてみせると思い続けて全力でやってきた。政治に必要なのは、『自らが暮らす社会と、その社会で暮らす人々への愛』だと思っている。

言い換えれば、どっちを向いて政治をするのかということだ。私は常に市民の側で、市民とともに、市民のための明石市政をやってきたつもりだ。それまでの予算配分を抜本的に見直して、子育て費用5つの無料化(医療費、保育料、給食費、遊び場、おむつ)や、高齢者・障害者・犯罪被害者への全国トップレベルの支援策などを次々に具体化していった。
あわせて市役所職員の意識改革も図り、言葉どおり市民のほうを向いて仕事をする体質に変えていった。

おかげさまで「明石市はいい街に変わった」と多くの市民から言われるようになった。
明石市では、市民の負担が大幅に軽減され、市民が暮らしやすい街となり、それゆえ、人が集まり、お金も回り始め、地域経済も元気になり、財政も健全化した。

10年連続人口増(人口増加率は中核市で全国トップ)や、出生率上昇なども評価いただいているが、それらは政策の目的ではなく、効果にすぎない。明石市が目指してきたのは、「市民一人ひとりが暮らしやすい街」であって、『市民への愛』がベースになっている。


明石市長を卒業し、次は国の政治も変えていきたいと思っていた矢先、藤井聡教授との運命的な出会いがあった。『国民への愛』という言葉を恥ずかしげもなく胸を張って言われる姿に、いたく感動を覚えた。積極財政の中心的論客であることは、かねてから存じ上げてはいたが、その奥に『国民への愛』があったことに、なるほどと思った。

『国民への愛』があれば、今の時代、生活に苦しんでいる国民に対して、これ以上の負担を押し付けることをよしとするはずがない。国民負担の軽減こそが、今の政治のやるべきことであり、そのことが日本経済を回すことにつながるのは当然の理だ。


私は、あきらめてはいない。政治とは可能性であり、私たちの未来だと信じてきたし、今もそう信じている。日本の国の政治も当然のことながら変えていくことは可能だし、変えていかなければならない。国民の方を向いた政治に変えれば、国民の負担も軽減され、私たちの生活も助かり、経済が回りだし、「豊かな日本」がやってくる。夢物語ではない。
私たちのこれからの話なのだ。

藤井聡教授との対談が、これからの政治を変えていく一助になることを願い、この書を世に出すことにした。

『国民への愛』を込めて。


日本活性化へ、2人の未来戦略!


人はリアリティのある聞きたい話しか聞かない

藤井 いわずもがなですが、選挙は本当に戦略が大切、ですよね。漫然と挑んでも勝てない。

 選挙では私も候補者に対して「演説の言葉にもっと熱を込めて」とか「その場所にあった訴えを」とか言っています。

藤井 その意味でやはり振り付けは大事です。5~6分の選挙のスピーチでもそれがどういう趣旨のスピードなのかわからずにしゃべっている候補者もいる。
どんなスピーチでも、言うべきことの根幹を一言で言うなら「有り難う」なのか、「ごめんなさい」、「よろしく」なのか、そういう事をまずしっかりと自分自身の中で固定した上で組み立てないと、一体何が言いたいスピーチなのかがわからなくなってしまう。実際、「ありがとう」という趣旨の話をするのだろうというイメージを皆が持ちながら5分、6分とスピーチを聞いていても、結局最終的に「ありがとう」を言わないで終えるような候補者もいる。そういうの見たとき、本当に「何とあほな…あんたは選挙に負けたいのか!?」とすら思ってしまいますね。

 何を話しているのかを本人がわかっていないと本当に困ります。それにけっこう、聞いている人の目線になれない候補者もいるんですね。駅前だったらサラリーマンが多いから子育ての話がいいし、移動して市営住宅に行ったら高齢者ばかりだから、当然、介護などの話になります。駅前で介護の話をしたり、市営住宅で子育ての話をしても聞いてくれません。
聞く人の層に合わせてしゃべらなければいけないのに、覚えている同じ話だけをしゃべる候補者も実際にいます。

藤井 そんな人はやはり知・情・意の体積が小さいんでしょうね…。

 選挙演説では、常に聞いている人の立場で訴えなければなりません。

藤井 そうでないと、聞いている人の心には絶対何も届かない。

 例えばマンションに行って、10分くらいのスピーチをしているとき、マンションの窓がどれくらい開くかが重要なんです。結局、話を聞きたいと思う人しか、聞いてくれません。つまり、人は自分に関係がある話しか聞かない。だから、聞いている人にとってのリアリティのある話が大事なんです。

高齢者にとっては、例えば「この交通の不便な地域にコミュニティバスを増やします」とか、「介護のときに市のほうからヘルパーを派遣します」というメッセージなんかが効果的ですよね。
政治家は市民のニーズに答えるのが仕事だから、演説でも覚えた原稿を読むように話すのではなく、ちゃんと市民のニーズに答えるようなことを訴える意識が欠かせません。

「裸の王様」には正しいことの実現の仕方がない

 そして縦展開です。論点は2つあります。1つは県のあり方をどうするかということです。例えば明石市民は兵庫県民でもあるので、明石市民として兵庫県のあり方をどうするか。もう1つはもっと大きな話で、国家なるものにおける今の政治のあり方についてです。
後者に関してだけ言うと、私にも思うところが当然あります。プレイヤーになるかどうかはさておき、国政に対して監督、シナリオ、演出、照明、音声を含めてどういう役割があるんだろうかと思案しているのです。国政と距離を置いて何かをするのでは自分としてはちょっと物足りないので、今は少し国側の部分に寄って関わることを考え始めているぐらいでしょうか。

藤井 泉さんは国のほうにもいろいろなコネクションがあるでしょうし、自民党の政治家たちや官僚たちもよくご存知でしょう。

 すでに複数の政党から役員に就任しないかという話があったり、ある方からは新党結成の話があったりしました。皆さん、私を一種の若干キワモノ系のキャラとして使いたいということではないでしょうか。

藤井 国会議員時代には田中角栄以来というくらい多くの議員立法をつくられたわけだし、泉さんはやはり政治家としてものすごい力をお持ちなのだと、僕は本当に思います。日本では、だいぶ良い方の政治家だけを考えたとしますと、彼らはだいたいは共感性と一定の根性があるけど、知がちょっと少ない。僕はもちろん、政治家は知がなくても情と意があれば、政策の細かいところは信頼できるブレインに任せておけばそれなりのことはできるから、それはそれでまぁ、いいとは思うんですが、やっぱり「知」があればなおさらいい。
で、泉さんの場合には知も相当あるので、ブレインをわざわざかかえなくても、1人の個人商店の政治家でも、かなりのことができるのではないかと思います。その点でも貴重な人材だと思います。

 国会議員には法律家出身が多いのだから、議員立法もどんどん行ってもらいたいですね。それよりもやはり、藤井先生のほうがより政治家に向いていそうですよ。演説に毒が入ってますから(笑)。
藤井先生には強烈な思いがある。それは愛であり、ときには怒りであるかもしれない。
そこに知も加わって本質が見えておられる。だからすごくて、「裸の王様」の少年のように「本当はこうですよ」と言いきってしまう強さがあります。私は「裸の王様」の話は嫌いではありません。しかし現実には「王様は裸だ」と指を差したら、その人は首を刎ねられますよ。だから、もっと上手にやらなければなりません。
あそこで「王様は裸だ」とは言わずに、「王様のきれいなお召し物が汚れますから、片づけられたほうがいいですよ」と言うべきでしょう。
現実は、「これが正しい」言うだけで正しいことが通るほど簡単ではありません。正しいことを実現するためのやり方が「裸の王様」の話には欠けています。そういう意味では、本質を見抜く力のほかにプラスアルファの力がいると思うのです。

自分のなかで正しいことを実現したいなら、まずは市民や国民、自分たちの社会に対する強い愛が基盤にあって、何が必要でどういうストーリーをつくれるかという知的能力もいるし、根性論というより一種の使命感や役割認識も求められ、状況によっては1人でなくチームを組まなければならないときもあります。
現状の政治はバラバラでほとんど愛がないことが多い。俗に言うずるい賢さみたいな調整能力だけに長けていて、一種のごまかしやその場しのぎというものが続いてきています。
それが今なのです。長い目で見ると、当の本人も含めて首を絞めているという話だと思います。私の危機感は強いですね。

藤井 もう、そんな泉さんに、総理大臣を是非やってもらいたいですね!今度の総選挙に立候補したら、泉さんなら絶対通りますよ、で、そっから頑張って、国会で首班指名を受けるところまで行って欲しいですよ(笑)。

総理大臣なら子どものために年間10兆円を使う

藤井 仮にですよ。来年か再来年くらいに総理大臣になったとしましょう。もちろん、思考実験のためだけの仮定の話ですが、その時、泉さんなら一体何をされますか?

 総理大臣だったら、それはもう一気にお金を子どもに投資します。しかも、セコいことは言わないで、国債を発行して年間10兆円を子どものために使うわけです。

藤井 子ども政策のための特別国債ですね。

 名称は「子ども国債」でいいと思います。いずれにせよ、明石市でやっているような医療費・保育料・給食料の無料化を行い、学費面でも子どもが楽に大学を卒業できる制度をつくるのです。これらは年間10兆円あれば十分にできます。
加えて総理大臣として「国がちゃんと応援しますから、子どもを2人目、3人目と産んでいただいても大丈夫です。私の責任で大学卒業までお金の心配がいらない社会をつくります」と強いメッセージを打ち出します。子どもの成長に国が責任を持つということです。

藤井 子どもに10兆円の予算を使うと言われましたけれど、これは10兆円そのものが大事なのではなく、「十分なおカネを使う」ということをおっしゃった、っていうことですよね。

 そうです。子どもを育てるための安心をつくるには、それぐらいの規模感が必要だということです。

藤井 子どもがきちんと育つ状況をつくる、そのために国家としてお金を使う、というメッセージを出せば国民も本当に安心しますね。

 しかも、もう国民に負担は課さないし、現状の国民負担も減らします。そのために国債を発行して安心を提供するのです。

藤井 しかし、そんなことをやると、必ず変な学者が出てきて、「国債を大量に発行すると金利が上がる。それで国家財政が破綻したらどうするんダ~!」とか言ってきますよ。

 学者に限らず、財務官僚やマスコミなど、いろいろと抵抗する勢力が出てくるでしょう。それに、きちんと反論するというのが政治家の役割です。トップの決断が揺るがなければ、やり通すことができます。

藤井 子どもにお金を使うほかに、基本的なインフラである新幹線や高速道路などをさらに整備して欲しいですね。

 そういうことも含めて、今の経済の悪循環を好循環に転換できるのは、強いリーダーシップを持った政治家による大胆な方針転換だけだと思います。

藤井 泉さんならそれができます。保身などともまったく無縁だし、やはり総理大臣に向いている。そうなったら是非、僕にもお声かけください!仮におじゃまする機会があっても決して、忘年会で公的かつ歴史的な階段で「ピース」の写真なんかも撮ったりしませんから(笑)。

 でもお互い、口がちょっと災いになるかもしれませんね(笑)。

藤井 ホント、それは十分あり得るお話ですね。でもホント今日は楽しかったです。また是非、いろいろとお話を続けて参りましょう。これからもよろしくお願いします。ありがとうございました!

 こちらこそ、ありがとうございました。



目次

第1章 常に市民を見てきた!

・地元のよさと限界を自覚して政策を展開する
・明石出身者に出身地を「明石」と言わせたい
・不安の解消に行政が家族のように取り組む
・子ども政策は地域経済を回す経済政策だ
・総スカンでも狙い通りに上昇した明石の経済
・駅前の図書館だから家族連れが押しかける
・貯金に回る現金も地域振興券にすれば使われる
・出店ラッシュで商店街からシャッターが消えた
・政策実現に重要な市民への政治のメッセージ
・明石に来るのは他で所得制限にかかる中間層だ

第2章 国民を必ず豊かにできる経済政策

・コミュニティバスの乗客増には経営が不可欠
・政治家はキャッシュフローの滞留率を考えない
・マーケティングをやらない行政には愛がない
・政治の優先度づけで容易になる予算のやり繰り
・学校関係の維持管理業務の一括化で合理化する
・国民を豊かにしてこそ国の経済も豊かになる
・地域の貨幣を発行して経済を回すという発想
・多くの地方自治体で役割分担する時代になった

第3章 T型人材による役人の少数精鋭化

・地方自治体の職員にも欲しい民間の経営感覚
・「お上意識」「前例主義」「横並び主義」の弊害
・現場にいる地方自治体ならスピード感が出せる
・大事なのは「優しさと賢さと少しの強さ」
・年に27回も行った適時適材適所の人事異動
・内部に必要な人材がいなければ外部から採用する
・専門性と同時に多様な仕事もこなしていく時代
・国と地方の人事交流は双方のメリットが大きい
・士気が上がらないと活力ある組織にはならない

第4章 出でよ!「活道理」の政治家

・政党の応援なしで市長に立候補し当選できた
・市長への復帰を求める署名を市民が自ら集めた
・今の政治家は責任も伴わずにやったフリばかり
・日本人の心をつかんだ田中角栄の人気は当然だ
・政治の可能性を感じる国民による政治家の評価
・国会議員は国民のために議員立法にも力を入れよ
・ノイジーマイノリティとサイレントマジョリティ
・死道理の政治家は多く活道理の政治家は少ない
・保守で積極財政志向の政治家がいなくなった
・アメリカの言いなりの政府では、国民は地獄に落ちる

第5章 岸田政権の政策に物申す

・政治における監督・シナリオライター・主演
・財務省を抑え込むと安倍晋三元首相は決めていた
・潰される恐れもある自民党の有為の政治家たち
・地域特性を活かしながら他の真似をしてもいい
・政治が頑張らないと日本は衰退していくだけだ
・中央の政治家や官僚には国民の声が届かない
・緊縮財政だけを目指す財務省は宗教であり裸だ
・逆行している岸田首相の「異次元の少子化対策」
・若者の所得が増えれば婚姻数も子どもも増える
・日本の貧困化をもたらし少子化を招く消費税

第6章 日本活性化へ、2人の未来戦略!

・泉市長時代と同じことをやるのは前例主義となる
・小学生・中高生・大学生対象の「子ども政経塾」
・自分の街は自分が主人公になって変えていく
・人はリアリティのある聞きたい話しか聞かない
・「裸の王様」には正しいことの実現の仕方がない
・総理大臣なら子どものために年間10兆円を使う

本書は、『東京ホンマもん教室』(毎月第2・第4土曜日10時~TOKYO MXにて放送)の協力を得て、編集したものです。 


お読みいただきありがとうございました。
続きはぜひ本書でお楽しみください!

\ 2023年9月25日発売 /

泉房穂×藤井聡
「豊かな日本」はこう作れ!

泉房穂(いずみ・ふさほ)
1963年兵庫県生まれ。東京大学教育学部卒業。NHK、テレビ朝日でディレクターを務めた後、石井紘基氏の秘書を経て、1997年に弁護士資格を取得。2003年に衆議院議員に。2011年5月から2023年4月まで明石市長。「5つの無料化」に代表される子ども施策のほか、高齢者・障害者福祉などにも注力し、市の人口、出生数、税収をそれぞれ伸ばして「明石モデル」と注目された。主な著書に、『政治はケンカだ!』(講談社)、『社会の変え方』(ライツ社)、『子どもが増えた!』(共著・光文社)、『子どものまちのつくり方』(明石書店)など。

藤井 聡 (ふじい・さとし)
1968年奈良県生まれ。京都大学大学院工学科教授。同大学レジリエンス実践ユニット長。『表現者クライテリオン』編集長。京都大学工学部卒、同大学大学院修了後、同大学助教授、イエテボリ大学心理学科研究員、東京工業大学教授を経て、2009年より現職。2018年よりカールスタッド大学客員教授。主な著書に『神なき時代の日本蘇生プラン』(共著・ビジネス社)、『社会的ジレンマの処方箋』(ナカニシヤ出版)、『大衆社会の処方箋』(共著・北樹出版)、『こうすれば絶対よくなる! 日本経済』(共著・アスコム)など。

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