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【母の代筆】シルバーコーラス

最近の私は、昔の母のノートを引っ張り出して時々読んでいます。余りに量が多いので、読んだものをもう一度見返そうと思っても、どこに書いてあったのかなかなか見つからなかったりします。母がノートを書いた時期もバラバラなので、いつのメモだったのかを推測するのも難しかったり、時間が掛かったりします。それでもふと急に、”あぁ、そう言えば母が昔ノートにメモしていたな”と想い出す事が多い事柄がいくつかあります。その中でも私が良く想い出すのは、母が60代中頃から80代前半位迄頑張って通っていた『シルバーコーラス』についてです。その母のメモを後から自分でも探しやすいように、残しておきます。

きり雨が降っている 静かなひととき
ショパンをききながら 片づけをする
何故かマズルカ(5)ノクターン(2)をきくと
泪が出る
若い日 ショパンに夢中になっていた自分を思い出す
雨だれをきくと あの楽聖ショパンの1シーンがうかぶ
音楽って不思議な力がある
いろいろな事があったが
何時も私は音楽でなぐさめ 力をつけてもらふ
久し振りにレコード屋でみつけた カバレリヤ ルスチカーナ
たった一枚だけあったCD
嬉しくて 何回もかけた
母を亡くしてショックから立ち直してくれたのも
なぐさめてくれたのも音楽
コーラスに通っていた別所の坂の上の洋館
ウィーンの森の物語 混声が流れていた
あれから四十年少々 六十四才
なぜか遠い日だ
去年●●さんに連れられて しぶしぶ行ったシルバーコーラス
今私は少しでもあの頃の様になりたい
みんな年をとっているが唄っている時は楽しそうだ
回り道してたどりついた様な時間
音楽って不思議だ

1996年の母の日記の中のメモ
一部、母の友人の固有名詞のみ消しています
(漢字や送り仮名は原文のまま)

私は、母がこのメモを書いた翌年の暮れに、隣町の割とキチンとした小さめのコンサートホールで、このシルバーコーラスの発表会に母が参加するというので父と観に行きました。たまたま仕事を辞めて時間がある時期というのもあって、私は半分冷やかしのような気持ちで、その頃買ったデジタルカメラの試し撮りもしたくて参加したのだけど、客席から母を含めた60代から80代の20名程のご婦人方が余りに一生懸命コーラスをしているのを見ている内に、気が付いたら感動で泪が止まらないくらい出たのを今でも覚えています。”何かを一生懸命している人の姿は、年齢等には全く関係なく人を感動させる力があるんだな”とその時強く感じました。その力は甲子園とかオリンピックとかに通じるものがあるなと今でも信じている位です。

その日、光が眩しいステージの上で、”着るのが恥ずかしい”と前の日まで散々言っていた華やかなピンク色の衣装に身を包んだ母の手が、握りこぶしになっていて歌に力が入る度に、その握りこぶしに力が入っている様子が遠目にも良く見えて、途中から私も集中して母の握りこぶしが入る度に自分も握りこぶしを作りながら心からの応援を送っていました。

そして、参加者からの大歓声を受けコンサートが終わった母に「良かったよ。感動したよ」と感想を伝えに言った時、母はとっても恥ずかしそうでかつ満足気な良い笑顔をしていたのも良く覚えています。あの時季節はちょうどクリスマスの少し前で、会場にあったポインセチアの赤い鉢植えを記念にもらって、そのお花を抱えながらとても嬉しそうに微笑んでいました。そしてその後、華やかな衣装でステージの上でコーラスのメンバー全員で撮った集合写真は、最近まで母の寝室の母の寝ていた場所から一番良く見える場所に大事に飾られていました。
[原文は縦書きです]


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