見出し画像

「価格の歪みを見つけることだけでなくその歪みが是正される可能性についても考えることが大切」pafin・斎藤 岳氏 後編

元ゴールドマン・サックスで株式会社pafin代表の斎藤 岳氏に、機関投資家と個人投資家のそれぞれの有利、不利な点や現在のマーケットなどについて伺いました。

斎藤 岳氏 プロフィール

クリプタクト、defitact、フィンタクトを提供する、株式会社pafin(旧クリプタクト)代表取締役Co-CEO、JCBA税制検討部会長。12年間、ゴールドマン・サックスの自己勘定投資チーム及びヘッジファンド運用担当者として勤務。不良債権、プライベートエクイティ、不動産、法的整理、上場株、債券、為替、金利、CDS、デリバティブなど最大800億円のポートフォリオを運用。

────────────────────
Burry Market Researchの公式LINEでは、ここでしか見れない「資産/収支管理シート」や「インタビューの録画」を公開しています。ぜひご登録ください。
公式LINE登録はこちら
────────────────────

取材実施日

2023年8月18日

ゴールドマン・サックス時代に投資先候補企業にヒアリングしていたこと

通常の取材はIR担当者の方となりますが、マネジメントインタビューが開催されるときは社長やCFOにヒアリングする機会が多かったです。

彼らの場合は細かい話を聞いてもあまり意味がありませんので、主に大局でのビューや考え方について伺っていました。

何を目指しているのか、どんなKPIを重視しているのか、在任期間中に何を成し遂げたいと思っているのか、そういう話ですね。

市場全体の見通しも大事ですが、コーポレートアクションや配当、株主還元の考え方、設備投資へのスタンス、キャッシュの使い道、業界全体の見通しなど、これらは市場は関係なく個々の会社が決められることです。

もちろん市場に公開されていないような具体的な会社の話は聞けませんが、最終的な決定権者である社長の大切にしている考え方や大きな見方などを直接聞くことで、納得感が得られるかなどを見たりしています。

業界全体の見通しについては、製造業なら為替も含めてどういう方向に行くと思っているのか、商品の需要と供給はどうなると思っているのか、そういった点も聞いていきます。

それに対する会社のアクションプランや、逆に計画がうまくいかなかった場合の対策なども重要ですね。利益を重視している会社であればどの数字を重要視しているかなどもしっかりヒアリングをします。

感覚的なところでは、回答のロジカルさ、社員が社長についていきたいと思っていそう、なども加味していましたね。

いわゆるサラリーマン社長のような方よりも、明確な目標やビジョンがあって引っ張っていく社長の方が魅力的には見えますよね。

個人投資家はポジションを持たない判断がとれることが強みだが意見交換できない環境は不利

ーー機関投資家と個人投資家のそれぞれの有利、不利な点について教えてください。

個人投資家の強みは投資しないという判断がとれるということですね。常にポジションを持っていなければと考える人もいますが、それは逆効果です。

投資しなくてもいい時期は、絶対あります。自分のスタイルに合わないときは、何もしない方がいいです。そして人それぞれ投資スタイルが違うので、投資が合わない時期も当然違います。

SNSを見て焦ってポジションを取るのは避けた方がいいと思いますね。雑音に惑わされず、自分ができる投資に集中するべきだと思います。

ポジションを全く持たない時期を作ってもいいですし、普段100のポジションを取っているところを20に減らすなど、メリハリも大事です。

機関投資家の不利な点は、ポジションをとらないということは仕事を怠けていることと同義であり、投資をしないという選択肢がないことです。

一方で、機関投資家のメリットは身近に意見交換できる人がいるということで、これはイコールで個人投資家のデメリットでもあると思います。

個人投資家で身近に投資について意見交換できる人が少なく、これは不利な点であると思います。

よく機関投資家は個人投資家が持たない有利な情報にアクセスしていると思われがちですが、機関投資家も公開情報しかアクセスできず、見れる情報には差異がありません。

そのため取引の結果は、取得する情報の選択あるいは分析の差でしかなく、一般的に思われているような情報格差はないんですね。

それよりもオフラインで真剣に投資や金利、グローバル経済について話す機会が少ないことのほうが不利な点であると思います。

価格の歪みを見つけることだけでなくその歪みが是正される可能性についても考えることが大切

ーー機関投資家と競争しないために機関投資家が投資しない日本の超低位株に投資するという戦略をとっている投資家もいます。元機関投資家の斎藤さんはどのように思いますか。

確かに大型株は多くの人が注目しているので価格が安定している印象があります。

そういった意味でそのような考え方もありだと思いますし、自分がそのスタイルで成功しているならそれが一番ではないでしょうか。

ただ、いわゆるバリュートラップと呼ばれているように小型株は奇妙な価格がついているケースもあり、それが投資機会として本当に魅力的であるかは注意が必要です。

市場の歪みを見つけて投資しても市場がそれに気づかなければその歪みは是正されずリターンが得られないので。

例えばサプライズの好決算ではほかのマーケット参加者も気づくため発表と同時に価格が是正されますが、そのようなイベントを伴わない歪みの場合、その歪みが気づかれず永続的に残ってしまうリスクがあります。

いまのマーケットの一番のサプライズは利上げがさらに続くこと

ーーいまのマーケットについてどのように見ているか教えてください。
2023年はマクロ全体の懸念に反してマーケットは強かった印象です。昨年はほとんどの資産価格が下がりましたが、今年は逆の動きが出ています。

そういった背景もあり、多くのマーケット参加者がポジション調整や買い戻しなど、直近までゼロベースで考えを修正してきた印象を受けます。

今後は、各国の金融政策、特に日銀の金融緩和修正や米国の金利高止まりがどこまで続くのかがキーになってくるでしょう。

例えば米国については、直近まで市場は年内利下げを織り込んでいましたが、私を含め自分の周りにいるプロの投資家たちはそうは思っておりませんでした。

そのため、市場のコンセンサスと自分の周りの意見が異なることに違和感を感じていました。

しかし、その答え合わせのタイミングは今年の年末にかけてそろそろ始まってきており、直近では利下げ期待が後退し予想時期は後ろ倒しとなってきております。

利下げが明確に遠のくことがあれば市場に調整が入る可能性はあると思いますが、最終的には利下げが半年間遅れるだけ、ということであれば、大きな暴落はないと思います。

しかし一番のサプライズは、利上げがさらに続くことです。そうなれば市場は強く売られる可能性があります。

いま、マーケット参加者の多くが注目しているのはこの高い金利がいつまで続くのかですが、それ自体はワーストケースではありませんので現状ではそこまで心配はしていません。

pafin提供の個人投資家向けサービスの紹介

ーー個人投資家向けにさまざまなサービスを提供されていますが、どのようなサービスを提供されているのでしょうか。

私が代表を務めるpafinでは複数のサービスを展開しておりますが、今日のお話に関連するものでいいますと、オンラインで投資家がファンダメンタルズなどの話を提供し合える場として、『フィンタクト』というサービス内で『アイデアブック』というサービスを提供しています。

▼『アイデアブック』の投稿の様子

それぞれが興味を持っている銘柄について、真剣に深く話しながらも、なぜそれが面白いと思うのかをワイワイと話ができる場を提供したいと思い、提供しています。

もっと参加者を呼び込んでいく必要があると思っていますが、投資における自分の見方をぶつける場所としてこれからドンドン活発にしたいと思っており、投資について話す機会が十分にない個人投資家の方々にとっては便利なサービスになると思います。

ーー私の観測範囲でも普段投資の話をする機会はほとんどない方が多い印象です。

そういった環境では物の見方が固まってしまいますよね。

自分の投資のビューがだんだんと願望に変わっていってしまうケースもあるでしょう。

そのようなネガティブ面のヘッジという意味でも投資について話し合い、見聞を広げることは大事だと思います。

ーー当メディアでは暗号資産を取引する読者が多く、暗号資産系のサービスについても簡単に教えてください。

暗号資産の領域では『クリプタクト』と『defitact』という2つのサービスを展開しています。『クリプタクト』は暗号資産の確定申告が楽になるサービスで、10万人以上のユーザーに利用いただいており、国内では最大手と自負しています。

税務周りは管理を間違えると税務調査で痛い目に遭います。クリプタクトを利用いただき、きちんと管理しておくことをお勧めします。

また、暗号資産取引を頻繁に行う方には、オンチェーントランザクションを可視化する『defitact』を提供しています。

暗号資産の各アドレスの現在のステータスであったり、入出金履歴をきちんとラベリングして意味のある取引履歴にして提示できるようになっております。皆さんの要望や機能のリクエストなどを頂戴しながら、さらなる開発を日夜進めております。

ご自身のウォレットアドレスを入力するのが一般的ではありますが、特に面白い点は、他人のウォレットアドレスも閲覧可能な点です。

▼『defitact』の管理画面でヴィタリック・ブテリンのアドレスを入力した様子

有名なトレーダーのアドレスをウォッチしておけば、そのトレーダーがどのような取引を行っているのか見ることもできます。

株で言えば、ウォーレン・バフェット氏やレイ・ダリオ氏のポジションを無料で見るようなものです。

ご自身の新しい投資アイディアに繋がるのではないでしょうか。

自分のスタイルに合った投資を行うこと、定期的に取引をアップデートすることが重要

ーー最後に、読者にメッセージをお願いします。

投資は人それぞれ、自分のスタイルに合った投資を行うことが最も重要だと思います。

一歩踏み出すなら、いろんなアセットクラスに手を出してみるのも良いでしょう。

株に暗号資産、逆も然りです。

小型株だけじゃなく、大型株も良いでしょう。

ポジションは大きく取らなくても大丈夫です。

ただ、あまりに分散しすぎると、結果的に全体のリターンが下がる可能性があるので注意が必要です。

私のお勧めはまずは5つほどの投資対象に絞ることです。

また、システミックリスクが起きたときに自分がどれくらい損をするのか、事前にシミュレーションしてみるのも面白いと思います。

例えば、日経が20%下がったらビットコインは何%下がるのか、S&P500が急落したら日経はどのように動くのか、いろんなシミュレーションをしておくのも思考実験としていいと思います。

そのほか、中級者ならヘッジ商品を買うという選択肢もあります。

日経のプットオプションなどは手軽で流動性高く取引されています。

オプションを買っても長期的にはプレミアムの払い損になることも多々あるかと思いますが、あくまでヘッジコストと割り切って、安いとき、ボラティリティが低いときに買っておくとブラックスワン的なイベントで急落した際にリスクヘッジとなる、リターンを出すということも可能です。

新しいことに挑戦し定期的にアップデートをしなければ自分のスタイルが古くなってしまいますので、意識的にそのようなチャレンジを行っていくことも大切です。

ーーーーー

斎藤氏が取り組むYoutubeチャンネルはこちら
https://www.youtube.com/@pafin/videos

斎藤氏のインタビュー、前編はこちら

────────────────────

Burry Market Researchの公式LINEでは、ここでしか見れない「資産/収支管理シート」や「インタビューの録画」を公開しています。ぜひご登録ください。

公式LINE登録はこちら

────────────────────

この記事を読んだ方はこちらの記事もおすすめです