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台湾有事が起きたらマーケットに何が起きるのか

中国は経済が低迷する中、軍備拡大を進めています。台湾有事に現実味が増す中、日本・米国・台湾の安全保障関係者は、膨大な数の「台湾有事シミュレーション」を行っています。

こうした中で金融マーケットでは、有事の際に予想される反応はどのようなものになるのか?過去の事例などを検証しながら考えていこうと思います。

まず、過去の有事の日経平均の値動きを検証します。

2022年2月 ロシア・ウクライナ侵攻時では日経平均株価は1.8%安

2022年2月24日、ロシアはウクライナに軍事侵攻を開始しました。

米国などの有識者は21年末以降、ロシアの侵攻の可能性を指摘していましたが、一方で、交渉により軍事衝突は回避されるとの見方もありました。

そのような中、実際に侵攻が始まったところ、株式市場ではリスク回避の動きが広がり、24日の日経平均は478円(1.8%)安の25,970円と下落して終えました。

その後は持ち直したものの世界経済への影響などを懸念して3月に24,717円と昨年来安値を更新したところが売りのピークとなりました。

停戦交渉は長引くと想定されたものの米国や欧州などに紛争が飛び火する可能性が後退し、マーケットは落ち着きを取り戻しました。

さらにコロナ禍からの回復や円安への期待を背景に月末には28,252円まで買われる展開となりました。

出典:https://www.tradingview.com/x/SnDqitrK/

2001年9月 アメリカ同時多発テロでは日経平均株価は7.7%安

2001年9月11日、米国で同時多発テロが発生。日本時間12日夜、米ワールドトレードセンターにハイジャックされた飛行機が衝突するショッキングな映像が放映されました。

ニューヨーク証券取引所はテロ当日から14日まで4日間取引が停止となりました。

翌12日の東京株式市場でも多くの銘柄がストップ安となり、日経平均株価は682円安(7.7%)の9,610円と急落しました。

出典:https://www.tradingview.com/x/DIAcKEWp/

しかし、米FRB(連邦準備制度理事会)が17日に緊急利下げを行ったほか、議会による財政出動などの効果もあり、NYダウは安値をつけたのち約2カ月でテロ後の水準を回復しました。

日本では景気が低迷する中、構造改革を掲げて小泉政権が発足し、政策への期待が日本株を下支え。米国株などの持ち直しもあり、日経平均株価は下値固めの展開となりました。

台湾有事では地政学上の観点から円売りになる可能性

ロシア・ウクライナ侵攻、米同時多発テロともにマーケットは1~3カ月で落ち着きを取り戻しています。中国人民解放軍によるミサイル攻撃や海上封鎖の開始など台湾有事の際は、どのような反応が想定されるのでしょうか?

初動のマーケットの反応は、セオリー通りリスク回避の円高、株安となる可能性が高そうです。また、世界的な景気減速懸念やマーケットの変動率上昇で米FRBに対する利下げ圧力が強まります。

日銀の利下げ余地が限定的なこともあり、金利差縮小も円高材料です。

他方、22年のロシア・ウクライナ侵攻時はさほど円高に振れていませんでした。地政学上の観点から紛争地域に近い円を売る動きも想定される点には注意が必要です。

また、リスク回避先として同じく低金利かつ地政学リスクの低いスイスフランに上昇圧力が掛かりそうです。 ロシア・ウクライナ侵攻後およそ1カ月後からスイスフラン/円が上昇しその後も円が売られる展開が続いていました。

▼スイスフラン/円のチャート

出典:https://www.tradingview.com/x/wJA7C8Xv/

台湾有事では運送費や原材料費が高騰し、企業収益を圧迫するはず

台湾有事では日本企業の業績への影響は大きいでしょう。海上封鎖などで船舶などの運航が制限された場合、原油や食料など様々な物資の輸入が困難になります。運送費や原材料費が高騰し、企業収益を圧迫するとみられます。

また、事態がさらにエスカレートしたケースでは、中国による日本企業への事業活動の制限や不買運動も想定されます。企業によっては、現地の駐在員と家族の待避なども含めた事業継続計画の整備に取り組んでいます。

東京商工リサーチが2月1~8日にネットで実施した台湾有事に関するアンケートによりますと、約4割の企業が台湾有事を想定しています。製造業や卸売り、農業・漁業などの産業を中心に台湾・中国への輸出入停止、サプライチェーンへの影響を懸念しています。

企業は中国・台湾以外からの調達や販路開拓に取り組んでいますが、台湾有事を想定している企業のうち、何らかの対策を講じている企業は24%に留まっています。

出典:東京商工リサーチ「『企業の台湾有事の想定』アンケート調査」

好調なインバウンド(訪日外国人)消費にも影響が出そうです。観光庁によると23年の訪日外国人旅行消費額(速報)は、5.3兆円と過去最高でした。

国籍・地域別の構成比では1位が台湾で14.7%、中国が14.4%と約3割弱を占めています。地政学リスクで他地域からの訪日客も足が遠のくことから、 宿泊サービス業や百貨店などの高額への消費を中心に内需系企業の株価の重荷にもなりそうです。

出典:観光庁「訪日外国人消費動向調査 2023年暦年 全国調査結果(速報)の概要」

半導体が入手困難になれば中国にもネガティブなのではないか

台湾有事でもっとも懸念されるのは、半導体サプライチェーンへの影響でしょう。

台湾は、TSMCなど半導体を受託生産するファウンドリーの世界大手が立地しており、その世界シェアは約7割を占めています。

生成AIブームで一躍人気が加速した米エヌビディアやAMD、クアルコムなど先端半導体メーカーの多くは、工場を持たないファブレス半導体メーカーです。

このため台湾有事が起きた場合は、東アジアだけでなく、世界中のデータサーバー、スマートフォン、自動車などの生産に影響が出ると予想されます。

2020年頃から米国は中国のファーウェイ(華為技術)などに対する半導体の輸出規制を大幅に強化しました。中国は半導体の国産化を進めるため、人材確保や設備投資などをさらに強化しています。それでも回路線幅が7ナノメートル以下の先端半導体の設計・量産には当面時間がかかるとみられます。

有事となった場合は、日本や米国など西側諸国の半導体調達が困難になると同時に、中国にとっても同様のリスクとなります。仮に中国が台湾の生産設備を接収したとしても、生産を継続するのは困難を極めます。生産に必要な材料や製造装置を日米欧から入手できなくなるためです。

半導体サプライチェーンのリスクを回避するため、TSMCは米アリゾナや日本の熊本での工場新設を進めています。

TSMCの熊本第一工場では2月に、開所式が開催されました。しかし生産するのは14ナノ以下の旧世代品です。現状では米アリゾナでの工場立ち上げも遅れ気味です。

こうしたことから台湾有事の際には、日本だけでなく各国の半導体関連の株価に対する大きなマイナス影響は避けられないでしょう。

台湾有事でGDPが6%下押しした場合、株式市場の時価総額に9.48%のマイナス影響

台湾有事による経済への定量的な影響はどの程度と予想されるのでしょうか?

野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は、有事による日本のGDPへの下押し圧力は1年間で1.4%から6.0%と試算しています。

海上封鎖などにより、台湾との輸出入が停止したケースではGDPの1.4%程度の下押しが想定されるとしています。日本からの輸出で台湾向けが占める割合は5.0%(2021年度)で0.9%のマイナス影響。輸入面では、日本の輸入の約47%が台湾製となり、自動車などのハイテク生産に打撃となります。

さらに有事がエスカレートし、米軍による軍事介入や中国との関係悪化などでアジア諸国との貿易が半減したと仮定するケースでは1年間でGDPの約6%が失われると見込んでいます。海上輸送への支障や中国による対日貿易規制や日本製品のボイコットなどの影響が想定されます。

株式市場への影響を株式時価総額を名目GDPで割り算した「バフェット指数」で試算してみます。

直近の東証プライム市場の時価総額は、約945兆円で名目GDP(23年10~12月期)は598兆円なのでバフェット指数は158%です。逆算すると台湾有事でGDPが6%下押しした場合は、少なくとも株式市場の時価総額に9.48%のマイナス影響となります。

さらにこの数値は有事による円高や海外投資家の日本株のウエート低減、企業の業績予想への悪影響などは織り込んでいません。情勢の不透明感もあって、実際にはさらなる株価の重荷になることが見込まれます。

出典:NRI木内氏「木内登英のGlobal Economy & Policy Insight」

このように台湾有事が実際に起こった場合、日本経済や株式市場に与える影響は、これまでの有事に比べて大きなものになる可能性が高いといえます。

一方で中国と米国の軍事的戦力の差や自国経済に与える経済的損失などから、台湾有事は実際には瀬戸際で回避されるとの見方が、マーケットでは多い印象です。

ですが、ロシアのウクライナ侵攻でも回避されるとの予想が覆されたように、政治や軍事に100%は無く、今後も台湾に関連するニュースフローには、気を配る必要があると言えるでしょう。

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