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コオロギ騒動 不確かな情報の拡散と企業側の対応

コオロギパウダー入りの商品を巡り、提携企業は風評被害に対し、法的措置も辞さないとしているそうです。Twitterを見ていると、不確かな情報をツイートしている人がたくさんいます。なぜ、情報を確かめずに拡散してしまうのでしょうか。

コオロギパウダー商品の提携企業

以下、J-CAST ニュースから一部引用です。

敷島製パン、コオロギ商品めぐり対応苦慮 デマや陰謀論も拡散...提携企業は法的措置を検討
J-CAST ニュース 2023年03月01日18時17分

Pascoで知られる製パン大手「敷島製パン」のコオロギパウダー入り商品を巡り、虚実ないまぜの情報が数多く広まっている。

昆虫食への強い抵抗感からか、間違った憶測にもとづく批判や、こじつけのような言説が少なくない。提携企業は風評被害に対し、法的措置も辞さないとしている。
(中略)
敷島製パン広報室に3月1日、取材を申し込むと「弊社としての回答は差し控えさせていただきます」、FUTURENAUTからも「大変申し訳ありませんが、昨今の倫理観やリテラシーに欠けた情報拡散の現状を鑑みてお断りいたします」と返事があった。

https://www.j-cast.com/2023/03/01457013.html?p=all

提携企業、昆虫食の大学発スタートアップ「FUTURENAUT」(群馬県高崎市)のサイトには、食用コオロギに対する考え方が書かれたページがあります。


FUTURRENAUT昆虫食の安全性に関する見解

たとえば、発がん性があるという情報については、下記のように書いています。

Q.コオロギには発ガン性があるという研究を見ました。
A.弊社ではそのような学術研究があることを把握しておりません。ご覧になった査読付き研究論文をご提示ください。

FUTURRENAUT昆虫食の安全性に関する見解


私もTwitterで発がん性に関するツイートを多数見ましたが、昨日の時点では論文を提示している人は見当たりませんでした。

以下、個人攻撃をするつもりはないので、実際のツイートを少しアレンジしたものを例として挙げます。

コオロギの外骨格はキチン質でできており、発がん性があることを示す研究もあります。

外骨格に発がん性物質が含まれており、免疫機能を低下させる研究結果もでています。

というようなツイートはありますが、どの研究かは書かれていません。
このようなツイートは、同じアカウントが何度もツイートしているのも気になりました。           

コオロギから発がん性物質が検出されたというニュースもあった。

どのニュースかは書かれていません。

              ↓

コオロギには発がん性があり、加熱しても死なない菌もいて危険らしいですね。

コオロギはパウダーにしても、発がん性物質やゲノム編集に影響されるらしい

「らしい」というだけで、情報源不明。

           ↓

こういったツイートを見た人が、

コオロギって発がん性があるんだね。知らなかった。

などとツイートしてしまい、どんどん拡散されていったのだと思います。

このようなツイートが拡散されると、たとえ正しい情報だったとしてもデマ扱いされる原因となり、正しい情報が埋もれてしまう可能性もあります。

軽率なツイートやリツイートによって、多くの人が正しい情報を得ずに物事を判断する流れができてしまうことは、とても危険だと思います。

発がん性の根拠とは?

コオロギに発がん性があるという論文を探したのですが、直接書かれたものは見つけられませんでした。

「マイコトキシン産生真菌がコオロギから分離された」と書かれた論文(翻訳)があり、マイコトキシン(カビ毒)に発がん性を示すものがあることから、「コオロギには発がん性がある」ということになったのかなと推察しました。

カビ毒については、食品安全委員会メルマガ総集編に説明があります。

https://www.fsc.go.jp/e-mailmagazine/sousyuhen.data/07.pdf

以下、一部引用します。

カビ毒
カビは、食品や医薬品の製造に利用され、人々の暮らしに役立っているだけでなく、他の微生物とともに生物の死骸などを分解して環境浄化に役立っています。しかしその一方で、カビは食べ物の味や匂いを変えて品質を劣化させたり、腐敗の原因にもなります。
カビ毒とは、別名マイコトキシンとも呼ばれ、カビの産生する代謝物のうち人や動物の健康に悪影響を及ぼす毒素の総称です。

主なカビ毒
アフラトキシン
アフラトキシン B 1 は遺伝毒性が関与する強い発がん物質で、ほとんどの動物種の肝臓に悪影響を与えることがわかっていて、肝細胞がんとの関連が指摘されています。特に、B 型肝炎に感染している人では肝細胞がんが発生するリスクが高くなるとされていることから、摂取量を可能な限り低減すべきとされ、食品衛生法において食品中に検出されてはいけないこととして規制されてきました。

カビ毒の摂取
一般にカビ毒は、熱に強く、加工・調理しても毒性がほとんど低減しないため、農産物の生産、乾燥及び貯蔵などの段階で、カビの増殖やカビ毒の発生を防止することが大切です。
また、アフラトキシン B 1 に汚染された飼料を食べた家畜の乳から、アフラトキシン M 1 が認められるように、カビ毒に汚染された飼料を食べた家畜を経由して人が摂取する場合もあります。

https://www.fsc.go.jp/e-mailmagazine/sousyuhen.data/07.pdf


下記が翻訳された論文(概要)です。

ただ、この翻訳は日本語がかなりおかしいので、原文を探しました。「熱帯ハウスcrick」ってどう考えても変です。

下記が元の論文(2018年)です。

Tropical House Cricketsは、「熱帯性のイエコオロギ」ということでしょうか。( )書きの「Gryllodes sigillatus」は、カマドコオロギです。

However, some possible mycotoxin-producing fungi were isolated from the crickets. A postharvest heat treatment, shortly boiling the crickets, reduced microbial numbers, but an endospore load of 2.4 log CFU/g remained.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29625988/

「コオロギからマイコトキシンを産生する可能性のある真菌がいくつか分離された」と書かれていました。熱処理により減少したが、加熱しても死なない細菌(休眠状態の細菌)が2.4 log CFU/g残っていたとあります。2.4 log CFU/gがどれくらいなのか、私にはわかりません。もし、これを読んで発がん性があるという人がいるなら、この数値がどれくらいだから危険であるということも示す必要があると思います。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29625988/


そのほか、参考になりそうな論文がありましたが、読む余力がないのでリンクだけしておきます。

下記の研究成果アーカイブに、毒性に関する論文があります。


コオロギ推しは何が問題なのか?

今回の炎上騒動で気になったのは、コオロギパウダーに関わる企業が強気であることです。敷島製パンは、Twitterで炎上してもずっと無反応でした。不安に思う消費者に、丁寧な説明をしようとする姿勢が見られません。誤解されていることがあるなら、丁寧に説明をするべきだと思うのですが、提携企業の回答も、「弊社ではそのような学術研究があることを把握しておりません。ご覧になった査読付き研究論文をご提示ください」などと、けんか腰な印象を与える文章だと感じました。

以前の記事に書きましたが、コオロギ推しは国のプロジェクトとして進行しています。国はなぜ、説明をしないのでしょうか。
追記:敷島製パンと提携企業は、下記のプロジェクトには参加していません。

下記のページの目標5に、昆虫食のプロジェクトがあります。
(2)食品ロス・ゼロを目指す食料消費システム

プロジェクトのサイト


https://if3-moonshot.org/rd/subproject
https://if3-moonshot.org/rd/subproject
https://if3-moonshot.org/rd/subproject



プロジェクトに関する資料

https://www.naro.go.jp/laboratory/brain/moon_shot/MS_20210402_PM.pdf
https://www.naro.go.jp/laboratory/brain/moon_shot/MS_20210402_PM.pdf


https://www.naro.go.jp/laboratory/brain/moon_shot/MS_20210402_PM.pdf

国民の健康にとって大切なことを説明せずに、流行を作りだして浸透させるようなやり方をしてよいのでしょうか。

下記に参加企業などが書かれていますが、これだけの教育機関や企業が参加しているプロジェクトなのに、なぜコオロギを食べる必要があるのか、安全性は確認できているのかなど、テレビなどを通して丁寧に国民に説明してくれてはいません。

水産・畜産飼料原料としての虫粉供給体制が整ったら、自分が食べようとしている肉や魚に虫粉が使われているかどうかを、表示などで知ることはできるのでしょうか。

先日、コオロギ炎上問題(徳島県の給食)をワイドショーが取り上げていましたが、このプロジェクトのことは一切触れませんでした。周知させるよい機会だと思うのですが、なぜ触れなかったのでしょうか。
追記:給食に参入した企業はプロジェクトに参加しています。

農林水産省による「研究開発の事業評価書」

農林水産省の事業評価書の拡充課題に、「昆虫食」について書かれた研究がありました。

https://www.soumu.go.jp/main_content/000834020.pdf

以下、一部引用(表紙も入れて28ページ~)です。研究は昆虫食だけではなく、アフリカ豚熱のワクチン開発なども含まれているので、全体像を知りたい方はPDFで確認してください。

研 究 開 発 の 事 業 評 価 書( 事 前 評 価 )令和4年8月 農林水産省

研究制度名:安全な農畜水産物安定供給のための包括的レギュラトリーサイエンス研究推進事業(拡充)
研究期間 :拡充課題はR5~R9の5年間 
総事業費:拡充分16.1億円(見込)
(中略)
〇 食用昆虫中の有害物質のデータベースを作成
・ 将来の食料安全保障を確保する観点から、近年では新たなタンパク質源の1つとして昆虫食が有望視されている。我が国における昆虫食は、これまでイナゴやハチノコが一部地域の伝統食としてイベント的に食されてきたほか、近年はコオロギをパウダー化して生地に混ぜた菓子
などの流通が見られるようになっている。今後、昆虫食市場の拡大に伴って、摂食する昆虫の量や種類、摂食する人数・範囲、摂食機会が大幅に増えた場合には、危害要因(重金属、かび毒、アレルゲン)の特定とリスク評価、リスク管理が必要になることが考えられる。
・ このため、本研究では、摂食経験が少なく、今後の市場拡大が指摘される食用昆虫(コオロギ等)および飼料用の昆虫(ミズアブの幼虫等)を対象として想定される危害要因(重金属、かび毒、アレルゲン)のデータベースを作成することとしており、この課題に対して必要十分
に対応できる。
(中略)
【総括評価】 ランク:A
1.研究制度の実施(概算要求)の適否に関する所見
・安全な農畜水産物・食品の安定供給の点から、当研究制度のニーズは非常に高い。
2.今後検討を要する事項に関する所見
・レギュラトリーサイエンスは国主導で着実に進めるべき研究・制度であり、着実な実施が求められる。

https://www.soumu.go.jp/main_content/000834020.pdf

「危害要因(重金属、かび毒、アレルゲン)の特定とリスク評価、リスク管理が必要になることが考えられる」とあり、これからデータベースを作成すると書いてあります(令和4年8月時点)。

つまり、データはまだ集まっていないということでしょう。

コオロギを含めた昆虫食に関するデータは少なく、まだ「これからデータを集める」という段階なので、安全であるとも安全でないとも、ハッキリとしたことは言えないと思います。そのようなものを急に推されたら、消費者が不安に思うのも当然ではないでしょうか。

発がん性があるからコオロギが問題というより、このような事業が国主導で進められていることを国民に周知せず、いつのまにか、これまで食べてこなかった昆虫食が消費者の生活に紛れ込んできたことが大きな問題だと思います。