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DXとマーケティングその50:顧客のデジタル体験

分析屋の下滝です。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とマーケティングとの関係を考えてくシリーズの50回目です。

ここ数回は、最近発売された『コトラーのマーケティング5.0』におけるDXとその他のDX書籍での方法論とがどのように関わり合うのかを分析しています。

DXが全社的な取り組みであるとした場合、その実行のプロセスには、整合性や一貫性が求められます。各DXの方法論において、マーケティング5.0がどのように関係するのかを分析することで、それら方法論にマーケティング5.0の考えを組み込めるかどうかを評価でき、その評価に基づき、適切な方法論を作りだせる可能性があります。

分析の最終的なアウトプットは、各方法論をベースに、マーケティング5.0の要素を組み込んだ新たな方法論となります。以下は『DX実行戦略』の書籍の場合です。

今回のテーマでの連載の議論の流れとしては以下を考えています。
1.マーケティング5.0におけるDXを確認する(第40回の内容)
2.これまでの連載で扱っていたDX関連書籍である『DX実行戦略』『デザインド・フォー・デジタル』『DXナビゲーター』との関係を分析していくにあたり、準備を行う(第41回の内容)。
3.各DX関連書籍での「DXの定義」と比較を行い、共通点や異なる点を明らかにする(第42回の内容)。
 3.1.比較を行うにあたり、枠組みを定義する(今回の内容)。
4.これらDX関連書籍での「方法論・手法」の中に「マーケティング5.0でのDX」がどのように位置付けられるのかを明らかにする。
5.これらDX関連書籍での「方法論・手法」の中に「マーケティング5.0」がどのように位置付けられるのかを明らかにする。

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これまでの記事

これまでの連載記事に関しては以下の記事から確認できます。

これまでの話:マーケティング5.0におけるDX

マーケティング5.0に関しての概要と、マーケティング5.0でのDXの位置付けに関しては過去の記事を参照してください。

これまでの話:比較のための枠組み

分析をしていくにあたり、マーケティング5.0の領域とDXの領域をつなぐ独自枠組みを定義しました。詳細は過去の記事を参照してください。

議論の地図

議論の流れで迷子になると思いますので(私もなっています)、どのような流れで議論を進めていこうとしているのかをここに整理しておきます。

マーケティング5.0の領域とDXの領域をつなげるあたり、共通の枠組みが必要だと考えました(過去の記事)。以下の図は、この枠組みにおいて、それぞれの領域でのDXの定義が、この枠組みの要素とどのように関係するのかを示したものです。DXの領域では『DX実行戦略』の定義をここでは使っています。

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DXの領域では、定義上は、顧客と関係するようなものとはなっていませんが、実際は、顧客と無関係ではないと考えられます。というのも、ビジネスモデルが有効かどうかは顧客によって決まると考えられるためです。しかし、どのような顧客に対してなのか、という点で、DXの領域がどのように顧客を捉えているのかは分析しておく必要があると考えました。

したがって、デジタル対応顧客(デジタル化した顧客)とその顧客のニーズの定義がまずは必要と考えました。とっかかりとしては、『マーケティング5.0』での顧客の捉え方をベースにしています。

やろうとしていることは、以下となります。
1.デジタル化した顧客(デジタル対応顧客)とはどのような顧客なのかを定義する
2.その顧客のニーズとなるものを定義する
3.『DX実行戦略』といったDX書籍において、デジタル化した顧客がどのように扱われているのかを分析する

この分析結果は、最終的には『マーケティング5.0』と『DX実行戦略』の統合を検討する際に使われます。両領域での顧客の捉え方の違いが、整合性や一貫性を考え上で影響する可能性があるためです。

『マーケティング5.0』での記述をもとに、デジタル化した顧客かどうかを区別するための3つの基準を定義しました。

ただしこれら3つの基準で十分なのかはわかりません。結局の所、デジタル化した顧客とは何であるかの定義が不明確なためです。

そこで、デジタル化した顧客とは何であるかを議論するための基盤となる枠組みを考えました。基本的には、3つの基準を含むような枠組みとして考えました。

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この枠組みだけでは、デジタル化した顧客の定義をしたことにはなりませんが、この枠組みの要素を用いることで、デジタル化した顧客の定義を議論しやすくなると考えられます。

今回の話

前回までで、以下の図に示すようなデジタル対応顧客(デジタル化した顧客)の行動体験モデルを議論してきました。図の下の「デジタル行動」や「デジタル体験」がある顧客は、「デジタル対応顧客」と呼ぶとして考えてみよう、という議論になります。

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前回は、デジタル行動に着目し、デジタル行動の構成要素を議論しました。

デジタル行動は、以下の要素で構成されるとして表現しました。
・デジタルと関係がある物:
 スマホアプリ(eコマース・アプリ、フードデリバリーアプリ)
・それ関わりのある何らかの行動: 購入

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一番下の「デジタル購入」がここでは一番具体的で、それを少し抽象化したのが真ん中の「スマホアプリ使用」になります。

そして、モデルの表現力を確かめるために、『マーケティング5.0』での顧客行動の記述を例として使い、表現できそうだということを確かめました。

今回は、デジタル行動とデジタル体験の関係について考察します。体験自体は、初期の段階では、次のように定義しました(過去の記事を参照)。

・体験(経験):「行動」した結果。たとえば、製品を使った、製品のことを調べるあたり製品の説明があるウェブサイトを読んだなど。

ここでは、体験に特別な意味を持たしておらず、要素としては面白みのないものとなっています。理由としては、行動や体験といった要素は、もともとは、『マーケティング5.0』での議論を参考に、デジタル顧客かどうかを判別するための、以下の基準を表現できるだけで十分であったためです。

・顧客がデジタルに精通しているかどうか。
・顧客がデジタルプラットフォームで取引しているかどうか。
・顧客が製品・サービスを消費または使用するときデジタル・インタフェースで接しているかどうか。
・顧客が行うカスタマー・ジャーニーが、全部または一部がオンラインで行われているかどうか。
・顧客が、デジタル・テクノロジーによって置き換えられ強化されたタッチポイントを体験しているかどうか。

この目的においては、行動した結果があるかどうか、が分かれば判別に使えると考えたため、上記のような体験の定義としました。

とはいえ、今回の記事では、前回の記事での議論を踏まえて、もうすこし構造的な側面からデジタル体験に関して考察しておきます。

まずは、デジタル行動とデジタル体験の関係です。まずは単に、「デジタル行動」の出力が「デジタル体験」であるとしました。

もう少し具体例で表現すると次の図になります。

なんとなく、表現できているような気はします。

次に、前回の記事で用いた事例を使って、この関係の表現力を確認してみます。

ニトリの店舗受取サービス

前回の記事では、『マーケティングの新しい基本』で紹介されている以下の事例をもとデジタル行動に関する考察を行いました。今回は、デジタル体験の視点で見直してみます。

同書の著者の友人から、著者がうけとった投稿です。この友人は、小・中学生のこどもがいる女性です。在宅勤務になったこともあり、日用品や家具を買うことになったそうです。これまでは、生活雑貨・家具を扱うブランドストアを利用しており、店舗の多くがモールに入っていました。しかし、コロナによりモール閉鎖になり、店に行くことが難しくなりました。そこで、近隣で路面店を展開しているニトリに行ったそうです。この友人は、感染リスクを減らすために、店内滞在時間をできるだけ抑えたいと考え、ニトリの「店舗受取サービス」を利用しました。これはオンラインで頼んでおけば、最寄りの店舗のサービスカウンターで受け取り、その場で決済できるというサービスです。その友人は、このサービスを気に入り、その後も3回通ったとのことです。さらには、その友人は、今まではいつものブランドストアでしか買っていなかったキッチンアイテムなどの商品もニトリに移行したようです。

以下では、「店舗受取サービス」を利用した行動を「オンライン注文・オフライン決済購入」という「デジタル行動」の一種であると捉え、この行動の結果を「デジタル体験」と呼べるのかを確認します。

ここでの課題は、ある行動がさらに細かな行動に分解できたり、あるいは、その行動を含むような大きな行動が考えられることです(詳しい議論は前回の記事を参照してください)。分解・合成の基準、最小の粒度や最大の粒度としてどのようなものまで考えれば良いのかは、議論が必要です。

「オンライン注文・オフライン決済購入」の行動で言えば、次のような粒度での分解が考えられます。

「オンライン注文・オフライン決済購入」は、
・デジタル行動:オフラインでの注文
・物理的行動:オフラインで決済
・物理的行動:店舗で受け取り
という細かな行動に分解できます。

これを体験の要素を関係づけて表現すると次のようになります。

一つの行動要素に対し、一つの体験が出力されます。
・デジタル行動:オンライン注文・オフライン決済購入
・デジタル体験:オンライン注文・オフライン決済購入体験
分解した粒度では、
・デジタル行動:オフラインでの注文
・デジタル体験:オフラインでの注文体験
・物理的行動:オフラインで決済
・物理的体験:オフラインで決済体験
・物理的行動:店舗で受け取り
・物理的体験:店舗で受け取り体験
となります。

言葉としては、行動名の後ろに単に体験とつけただけですが、違和感はなさそうに思えます。

明確化が必要な点は、前回の記事での行動の議論と同様です。
・分解前後の顧客体験の分類の基準:分解前の体験の分類と、分解後の体験の分類が一致するとは限らない。ある一連の体験(合成された体験)の中で「デジタル体験」があれば、その一連の行動は「デジタル体験」と見なしても良いのかどうか。「デジタル体験」と「物理的体験」における非対称性があるかもしない。つまり、「デジタル体験」が優先されるかもしれない。

上記のような課題が残りますが、現時点での議論においては、問題は無いように思えます。特定の行動とその結果としての体験が存在するかどうかで顧客のデジタル化の議論しているためです。

まとめ

顧客がデジタル化しているかどうかを判別するためには、そのための基準が必要です。そのために、これまでの記事では、デジタルかどうかに限らず、顧客の行う「行動するかどうかの判断」、「行動」、「評価」に着目したモデルを定義しました。

次に、このモデルをデジタルの視点で拡張することを試みました。

まずは、顧客が行う「行動」には、「デジタル行動」に分類できるものがありそうだと議論しました。

今回の記事では、「デジタル行動」の結果として「デジタル体験」を表現することに関して議論を行いました。

結果としては、そのような表現をしても問題なさそうであることを確認しました。

次回は、カスタマー・ジャーニーといった粒度で、モデルの表現力があるかどうかを確認します。

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