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DXとマーケティングその54:カスタマージャーニーのデジタル化分類

分析屋の下滝です。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とマーケティングとの関係を考えてくシリーズの54回目です。

ここ数回は、最近発売された『コトラーのマーケティング5.0』におけるDXとその他のDX書籍での方法論とがどのように関わり合うのかを分析しています。

DXが全社的な取り組みであるとした場合、その実行のプロセスには、整合性や一貫性が求められます。各DXの方法論において、マーケティング5.0がどのように関係するのかを分析することで、それら方法論にマーケティング5.0の考えを組み込めるかどうかを評価でき、その評価に基づき、適切な方法論を作りだせる可能性があります。

分析の最終的なアウトプットは、各方法論をベースに、マーケティング5.0の要素を組み込んだ新たな方法論となります。以下は『DX実行戦略』の書籍の場合です。

今回のテーマでの連載の議論の流れとしては以下を考えています。
1.マーケティング5.0におけるDXを確認する(第40回の内容)
2.これまでの連載で扱っていたDX関連書籍である『DX実行戦略』『デザインド・フォー・デジタル』『DXナビゲーター』との関係を分析していくにあたり、準備を行う(第41回の内容)。
3.各DX関連書籍での「DXの定義」と比較を行い、共通点や異なる点を明らかにする(第42回の内容)。
 3.1.比較を行うにあたり、枠組みを定義する(今回の内容)。
4.これらDX関連書籍での「方法論・手法」の中に「マーケティング5.0でのDX」がどのように位置付けられるのかを明らかにする。
5.これらDX関連書籍での「方法論・手法」の中に「マーケティング5.0」がどのように位置付けられるのかを明らかにする。

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これまでの記事

これまでの連載記事に関しては以下の記事から確認できます。

これまでの話:マーケティング5.0におけるDX

マーケティング5.0に関しての概要と、マーケティング5.0でのDXの位置付けに関しては過去の記事を参照してください。

これまでの話:比較のための枠組み

分析をしていくにあたり、マーケティング5.0の領域とDXの領域をつなぐ独自枠組みを定義しました。詳細は過去の記事を参照してください。

議論の地図

議論の流れで迷子になると思いますので(私もなっています)、どのような流れで議論を進めていこうとしているのかをここに整理しておきます。

マーケティング5.0の領域とDXの領域をつなげるあたり、共通の枠組みが必要だと考えました(過去の記事)。以下の図は、この枠組みにおいて、それぞれの領域でのDXの定義が、この枠組みの要素とどのように関係するのかを示したものです。DXの領域では『DX実行戦略』の定義をここでは使っています。

DXの領域では、定義上は、顧客と関係するようなものとはなっていませんが、実際は、顧客と無関係ではないと考えられます。というのも、ビジネスモデルが有効かどうかは顧客によって決まると考えられるためです。しかし、どのような顧客に対してなのか、という点で、DXの領域がどのように顧客を捉えているのかは分析しておく必要があると考えました。

したがって、デジタル対応顧客(デジタル化した顧客)とその顧客のニーズの定義がまずは必要と考えました。とっかかりとしては、『マーケティング5.0』での顧客の捉え方をベースにしています。

やろうとしていることは、以下となります。
1.デジタル化した顧客(デジタル対応顧客)とはどのような顧客なのかを定義する
2.その顧客のニーズとなるものを定義する
3.『DX実行戦略』といったDX書籍において、デジタル化した顧客がどのように扱われているのかを分析する

この分析結果は、最終的には『マーケティング5.0』と『DX実行戦略』の統合を検討する際に使われます。両領域での顧客の捉え方の違いが、整合性や一貫性を考え上で影響する可能性があるためです。

『マーケティング5.0』での記述をもとに、デジタル化した顧客かどうかを区別するための3つの基準を定義しました。

ただしこれら3つの基準で十分なのかはわかりません。結局の所、デジタル化した顧客とは何であるかの定義が不明確なためです。

そこで、デジタル化した顧客とは何であるかを議論するための基盤となる枠組みを考えました。基本的には、3つの基準を含むような枠組みとして考えました。

この枠組みだけでは、デジタル化した顧客の定義をしたことにはなりませんが、この枠組みの要素を用いることで、デジタル化した顧客の定義を議論しやすくなると考えられます。

今回の話

前回は、カスタマージャーニーの枠組みの一つである5Aをもとにして、カスタマージャーニーを構成する要素を特定し、それら要素を行動体験モデルで表現できるかを確かめました。結果としては、いくつかの要素の追加が必要なことがわかりました。

今回は、それらの追加した各要素をデジタル(オンライン)・オフライン(非デジタル)で分類できるものなのかを確認します。

もともとの目的を確認しておきます。

やりたいことは「顧客が行うカスタマー・ジャーニーが、全部または一部がオンラインで行われているかどうか」というデジタル顧客かどうかを判別するための基準を、行動体験モデルで表現できるかどうかでした。

今回行う分類の検討は、上記の基準をより明確にするするためのものとなります。各要素の分類を検討することにより、カスタマージャーニーにおけるデジタル・非デジタルの分類可能対象となる要素の範囲を明確化できます。この明確化により、「デジタル化した顧客のカスタマージャーニーかどうかの判別基準」の定義が可能となります。たとえば、カスタマージャーニーにおいてデジタル化が可能な要素をすべてデジタルで行っているならば、その顧客はデジタル化している、として判別するといった判別基準です。

分類対象は、これまでの記事で、5Aにおける認知段階と訴求段階で特定した以下の要素となります。

・認知段階:知らされる、思い出す
・訴求段階:記憶、引き付けられる、ランク付け、検討対象の選択(意思決定の一種)
・調査段階:行動
・行動段階:行動
・推奨段階:行動

調査段階、行動段階、推奨段階での「行動」に関しては、すでに「デジタル行動」と「物理的行動」として分類済みですので、対象外とします。

つまり、以下のように、デジタル・非デジタルといった分類ができるとして解釈できるのかを確認します。
・デジタルで知らされる、非デジタルで知らされる
・デジタルで思い出す、非デジタルで思い出す
・デジタルで記憶、非デジタルで記憶
・デジタルで引き付けられる、非デジタルで引き付けられる
・デジタルランク付け、非デジタルランク付け
・デジタルでの検討対象の選択(意思決定の一種)、非デジタルでの検討対象の選択(意思決定の一種)

デジタルで知らされる、非デジタルで知らされる

知らされるというのは、「ブランドに関する情報」を知らされるということです。知らされるルートには2つあることを、これまでの記事で確認しました。
・ブランド広告
・他者からのクチコミなど

では、それぞれ、デジタル・非デジタルでの分類ができるでしょうか。
・デジタルでのブランド広告により知らされる
・非デジタルでのブランド広告により知らされる
・デジタルでの他者からのクチコミで知らされる
・非デジタルでの他者からのクチコミで知らされる

それぞれできるといってよさそうです。

デジタルでのブランド広告は、当然、ウェブサイトの閲覧やアプリを使っているときに見ていることになります。

デジタルでのクチコミに関しても、SNS上やLINEといったコミュニケーションツールで知らされることがあります。

図で表現しました。

デジタルで思い出す、非デジタルで思い出す

これは、正確には、「過去の経験を思い出す」というプロセスになります。何の経験なのかは、明確ではないのですが、ここでは「ブランドに関する過去の経験を思い出す」という意味で捉えました。どのような経験なのか、というのも厳密にする必要があるかもしれません。ここでは、限定せずに、「聞いたことがある」、「使ったことがある(購入、サンプル、もらったなど)」、「購入したことがある」といった経験を含めたいと思います。

「ブランドに関する過去の経験を思い出す」として図を更新しました。

思い出すというプロセスが発生するには、何らかのきっかけがあると思われます。そのきっかけが発生する状況にデジタルが関わっている可能性はあります。たとえば、スマホで漫画を読んでいるときに、ふと思い出すことはあると思われます。ここではスマホがデジタルに関わるものと見なしています。

つまり、特定の状況において、思い出すというプロセスが発生すると考えられます。そして、その状況がデジタルと関わっているということはありえます。

デジタルの関わりがある状況で思い出すことは、顧客が普段の生活においてどのくらいデジタルなものと接点があるのかということを意味すると考えられます。

ここでは、デジタルの関わりがある状況において、ブランドに関する過去の経験を思い出す、という意味で、デジタル化の分類が可能であると見なします。

ただし、思い出したブランドが、その状況と直接関係があるとは限りません。たとえば、スマホで漫画を読んでいるときに、ダイエットの話が出てきて、その話を読んだときに、ライザップといったダイエットに関わるブランドを思い出すような状況です。一方で、ダイエットをしようと考えて、スマホで検索していて、ライザップを思い出すことはあります。この場合はその状況と直接関係があると言えます。

デジタルで記憶、非デジタルで記憶

これは、「ブランドに関する情報」を記憶するという文脈での話です。人の脳での記憶という意味です。したがって、デジタル、非デジタルの区別はありません。

デジタルで引き付けられる、非デジタルで引き付けられる

これは、「ブランドに関する情報」が入力とされ「引き付けられたブランド」を出力するというプロセスです。頭の中でのプロセスとみなしていますので、デジタル、非デジタルの区別はありません。

デジタルランク付け、非デジタルランク付け

これは、「引き付けられたブランド」が入力とされ「ランク付けされたブランド」を出力するというプロセスです。頭の中でのプロセスとみなしていますので、デジタル、非デジタルの区別はありません

デジタルでの検討対象の選択(意思決定の一種)、非デジタルでの検討対象の選択(意思決定の一種)

これは「ランク付けされたブランド」が入力とされ「検討対象に選択されたブランド」を出力するというプロセスです。頭の中でのプロセスとみなしていますので、デジタル、非デジタルの区別はありません

「知らされる」と「ブランドに関する過去の経験を思い出す」は、デジタル化分類が可能でしたのでモデルを更新しました。

まとめ

まとめると次のようになります。デジタル化分類の可能性の評価としては次のようになります。
・認知段階
 ・
知らされる:できる
 ・ブランドに関する過去の経験を思い出す:できる
・訴求段階
 ・
記憶:できない
 ・引き付けられる:できない
 ・ランク付け:できない
 ・検討対象の選択(意思決定の一種):できない
・調査段階
 ・
行動:できる
・行動段階
 ・
行動:できる
・推奨段階
 ・
行動:できる

5Aにおいては、訴求段階を除く、認知、調査、行動、推奨の段階において、デジタル(オンライン)に関わるかという分類ができそうです。

やりたいことは「顧客が行うカスタマー・ジャーニーが、全部または一部がオンラインで行われているかどうか」というデジタル顧客かどうかを判別するための基準を、行動体験モデルで表現できるかどうかでした。

今回の分析をもとにすると5Aにおいては大きな分類としては、認知、調査、行動、推奨の段階の組み合わせが「全部または一部がオンラインで行われているかどうか」のより細かな判断基準となります。

たとえば、いくつか例を挙げると以下となります。
・行動だけがオンライン(一部)
・行動、推奨がオンライン(一部)
・認知、調査、行動、推奨がオンライン(全部)

行動体験モデルにおいては、「知らされる」「ブランドに関する過去の経験を思い出す」「行動」の要素の組み合わせとなります。

まとめ

顧客がどのようなカスタマージャーニーを行うかどうかは、その顧客がデジタル化された顧客なのかどうかを判断するための基準の一つとなります。オンラインの行動が多ければ、デジタル化された顧客と判断できそうです。

今回は、カスタマージャーニーの枠組みの一つである5Aをもとにして得られた行動体験モデルの要素ごとに、オンライン(デジタル)として扱える要素なのかどうかを分析しました。

結果としては、5Aにおいては、訴求段階を除く、認知、調査、行動、推奨の段階において、オンライン(デジタル)に関わるかという分類ができそうなことがわかりました。

次回は、カスタマージャーニーの枠組みによらない、より自由度の高いカスタマージャーニーの表現において、行動体験モデルの表現力を確かめます。

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