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境界アリス⑥聖夜に飛び降りたアリス

12/24にあーたんの友人だったアリスさんが飛び降り自殺をしたというメールが、俺の携帯に届いたのは12/25の事でした。その時は面会謝絶状態だと。

俺は病院名などの確認のメールを送ったのですが、返事があったのは12/30だった。
一般病棟に移れるようになったので、ぜひ会いに来てほしいと。

アリスの母親からは、xx病院の8b室とだけ聞いていた。
その病院が日本のどこにあるかとかも聞きそびれ

実は俺はアリスのみよじすら知らない。

でもその情報だけでこの病院にたどり着いた。

錦糸町のラブホ街の真ん中に突然その病院はあった。

8bとはその病院の8B病錬の事らしい。面会手続きを終え、8階までのエレベータを登る間、俺の脳には凄まじいフラッシュバックが起こっていた。

二年前の病室の傷だらけのあーたんのいたたまれない姿。

2年かけて少し和らいでいた罪悪感が俺を襲った。

いろんな事で強引にかきけしていた自分の罪。

”俺があーたんを殺した”

この言葉が強く蘇った。何人もの友人が「そうではない」と言ってくれた。俺もそう考えるように努力した。そして、無理やりその事を忘れようとしていた

でもやっぱり心の底でずっと消えていなかったんだとわかった。

”俺があーたんを殺した”

そんな気持ちがピンポン玉の様に脳の中で跳ねかえっていた

あーたんへの罪はそんな事で消えないのだけど

あーたんの友人が望む事で、俺ができる事はなんでもしようと決意していた。
それがもし、俺に死ねというならば、それすら受け入れようと思っていた。

俺の存在理由などこの世に何ひとつ意味はない。俺は自分の持つ全てを誰かのために放棄すべきである。


実際、会うまではアリスがどんな状態かわからかったから怖かった。

ひょっとしたら体の一部を失ってたりもするのだろうか?

でも面会ができるわけだから、それほど酷い状態でもないのだろうとは思っていた。

8B病錬の4人部屋にたどり着く。


何故病院はどこも病室の入り口が開けっ放しなんだろう。 


こんなところに24時間いたら正常な気が狂ってしまうよ。

同室の老人や青年は俺をじろじろ見ている。当たり前だ。
きっとこう考えているに違いない。

"こんな赤い髪のでかい男がここに何しに来た。"

そして、何故この4人部屋は男が3人もいるのだろう。
俺は部屋を間違えたのか?とさえ思った。

一番奥のベッド。

横向きに入り口に背を向けて、横たわっている女性。

以前見た姿とは変わっていたので、認識に少し時間を要したが、

---それは確かにアリスだ。

そこには俺の恋人の友人だったアリスがいた。

アリスは俺が来る事などしらない。
それ以前に俺をわかるだろうか。

俺の気配に気がつき、アリスは口を開いた。

「ブンくん?」

アリスのその言葉。

アリスがちゃんと生きていたという実感が突然流れ込み、ぶわと涙があふれた。

「アリス…。よかった。ホントよかった」

そして、いくつか言葉を交わした。アリスは二度の手術のために、体を動かす事ができないので、体ごと向こうを向いたままだ。クビは少しこっちを向けられる。

ブン「クリスマスに飛び降りたの?なんでさ 」

アリス「ラジオからね…。今夜はクリスマス~って流れてきて、それで気がついたら落ちてた。」

ブン「そうだったんだ。わかるよ。クリスマスの楽しそうな雰囲気に辛くなったんだね。」

アリス「そう…」

改めて、俺は毎年続けていた「くたばれクリスマス」というタイトルの日記を書かなかった事と後悔した。

俺が書いていたら、アリスは飛び降りなかったかもしれない。

クリスマスを楽しむ人は勝手に楽しめばいい。

でも俺だけはくたばれと叫び続けるべきだ。
洗礼を受けている俺だからこそ、神子の生誕にツバをはき続けるべきだ。
俺の叫びでこの日に気持ちが救われる人が少なくない事を自覚していながら、何故今年は叫ばなかったのだろう。

ブン「ごめんなアリス。俺に何ができる?何をしてほしい?」

アリス「アリスは…ジャンプが読みたい。」

ブン「え?」

アリスの望みはささやかだった。

ブン「はは…wそうだよな。腐女子がジャンプ読まなくてどーするんだよなwwわかったw待ってろコンビニ回ってくるから。」

死まで本気で決意していた俺はいささか拍子抜けだったが、1/1に残念ながら、少年ジャンプを手に入れる事は困難で、肝心な時に役に立たない集英社suckと思いながら、とりあえずワンピースの総集編本と、コナン君の単行本を入手した。コナンは小学館だけどw

ブン「ごめんなアリス。次来る時、ジャンプもジャンプ漫画もいっぱい持ってくるからな」

アリス「ありがとう…。!!これで大丈夫だよ?」

アリスはワンピースの総集編をめくった。

ブン「アリス…もしかして、今は生きたいのか?」

アリス「早く退院したいよ」

ブン「切りたいとかは思わないのか?」

アリス「手術したところが痛くてそれどころじゃないよ?」

毎日毎日、消えたい、死にたいと思いつめ、それを消すためにリスカやアムカをODを繰り返していたアリスが初めて俺に聞かせた前向きな言葉だった。

ブン「だって起きれるようになっても、まだまだリハビリがあるだろう?車椅子だろう?」

アリス「早くこんなとこ出たいよ。病院はやだよ。」

少なくとも今のアリスは死ぬ事も、切る事も考えてないようだ。
俺は少なからずこの事に驚いていた。

ブン「あのなアリス。病院食はまずいからな、一ヶ月もいればダイエットになって、たぶんメイドにもどれるぞww」

アリス「そだねw でも退院したいよ」

話すのが、傷にひびくみたいで苦しそうだったけど、アリスは笑った。

できるだけ、お見舞いに来る事を約束して、俺は病院を後にした。

急に腹がとてつもなく減り 錦糸町のファッキンに入った


もしかしたら、次行ったら、前みたいに消えたいとか切りたいとか言うかもしれない。でもそれは普段のアリスなのだし、リスカの克服には時間がかかる。

ただ2年前の俺のように、退院してもしばらく車椅子かもしれない。

俺も歩けなかったのは辛かった。
でもその頃は、体を動かすのに一生懸命すぎて、心の傷が解消されていた事を思い出した。

体の傷はわかりやすい。みんなが心配してくれるし、具体的に支障がある。

心の傷はわかりにくい。両手両足が切断されるのと同等の傷だとしても、誰からも見えない。

命は大事ではない。死んでもいいのだと思う。俺はそうあらためて思う。自殺を奨励しているわけではない。誤解しないでほしい。

肉体は心に比べたらはるかに大事ではないのだ。

肉体は1分後に消滅するかもしれない。
これは誰にも避けられない事だ。どれだけ健康に気を使おうが、避けられないアクシデントで肉体は簡単に失われる。

でも、いつ消滅しても、その時心が幸せならばそれでいいのだと思う。

そしてここから2年後アリスはドアノブ自殺を図り、若くしてこの世を去る事となる。

次のお話
境界アリス⑦最後に会ったアリス

前のお話
境界アリス⑤アリスにかける言葉

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