姉からの手紙
父親の転勤に伴い、ミアは小さな町にある新しい学校に転校してきました。
ミアの心は新たな環境への不安と寂しさに満ちていました。これまでの友人や慣れ親しんだ環境を離れることになり、未知の世界で生活することに戸惑っていました。
新しい学校に足を踏み入れた瞬間から、ミアは心の中で孤独感と不安が交錯しました。ミアは緊張して周囲を見渡し、どこかに自分の場所があるのかを探しましたが、見つけられませんでした。
初日は物珍しさからか、多くのクラスメイトがミアを取り囲みました。次から次へと飛んでくる質問にミアは戸惑い、うまく答えることができませんでした。初めての出会いがミアを圧倒してしまったのです。
質問に答えられないミアを見て、面白くなさそうな顔を見せるクラスメイトたち。しばらくすると、ミアに話しかけてくるクラスメイトはいなくなりました。
ミアは自分で望んだわけでなく、自然とクラスで孤立するようになっていきます。
授業中は遠くの空を眺め、休憩時間は本を読んで過ごし、昼休みには一人で給食を取ります。ミアは自分が、どこか他人と異なる存在であるような気がしていました。
クラスメイトたちはグループを作り、昼休みには楽しそうに話をしています。けれどミアは一人で机に座り、お弁当を静かに食べました。時折、他の生徒たちが楽しそうに笑う声が聞こえてくると、たまらなく寂しい気持ちになるのでした。
家に帰ると、ミアは部屋で泣きじゃくることもありました。ミアはこの新しい環境でどう振る舞えばいいのか、他の人たちとどのように関わればいいのか分からず、悩みました。
「前の学校に戻りたいな……。みんな、どうしているのかな……」
ミアは前の学校の友達を思い出しては枕を濡らしていました。ミアの心は不安定で、時折、絶望感に押しつぶされそうになりました。ミアは自分を鼓舞し、前向きに考えようと努めましたが、孤独と寂しさが彼女の心を苦しめていました。
ある日のこと。ミアは枕の下に古びた手紙があることに気が付きます。
(こんなところに手紙……? 昨日はなかったのに)
毎日使っている枕の下に手紙が置いてあることに、ミアは戸惑いました。手紙はイミテーションのアンティーク紙で書かれており、その上には褪せた墨の字が美しく綴られていました。恐る恐る手紙を開くと、不思議なメッセージが書いてありました。
「愛しいミアへ。
初めまして。私はエリナといいます。突然の手紙に、あなたはきっと驚いていることでしょう。
新しい学校での日々はどうですか? 楽しく過ごせていますか? あなたのことだから、きっと周りになじめずに、悩んでいるんじゃありませんか?
でも、忘れないで。あなたは一人じゃありません。お父さんもお母さんも、いつもあなたを見守っています。私も、いつもあなたのそばにいます。
あなたが泣きじゃくる夜に、私はあなたの枕の下に手紙を残します。あなたが挫けそうなときに、私はあなたを励ます言葉を贈ります。
あなたは強く、勇敢な子です。あなたには困難に立ち向かう力があります。辛くても、自分の足で歩く勇気があります。そしてあなたには、明るい未来もあります。
この手紙があなたの心に少しでも、安らぎと希望をもたらすことを願っています。私はあなたの友人として、あなたのそばにいることを約束します。
あなたが自分自身を愛し、前を向いて歩むことができるように、私はいつもあなたと共にいます。
心から、愛をこめて。
エリナより」
手紙を読み終えたとき、ミアの心は驚きと温かさで満たされました。
この不思議な手紙を書いた人物が誰なのか、どうやってミアの存在を知ったのか、全てが謎でした。それでもミアは、心の底から感謝の気持ちでいっぱいになりました。
それからというもの、ミアが一人で泣いていると、枕の下に手紙が届くようになりました。
最初は戸惑ったミアでしたが、次第に手紙を楽しむようになります。エリナはミアの日々の出来事や悩みに対して理解を示し、いつもミアを励ましてくれます。ミアはそれがたまらなく嬉しかったのです。
そんなことを繰り返しているうちに、エリナからの手紙はミアの心の支えとなっていきました。
少しずつ明るさを取り戻してくミア。その様子を見て、母親がほっとしたような表情を見せます。
「ミア、最近明るくなったわね。ママはね、ミアが学校になじめていないのかとおもって、心配したのよ」
「ママ、実はね……。部屋でこの手紙を見つけたの。誰が送ったのかわからないけど、誰かが私に手紙を書いてくれたの。」
母親は手紙を受け取り、眉をひそめながら注意深く読みました。そして、手紙に書かれていた名前を見て、口元が震えました。
「あぁ、エリア……。そうよ、これは……エリナの字だわ。」
ミアは驚きました。「ママ、エリナを知っているの?」
驚きと感動と、どうにもならないさみしさが、母親の心を包み込みました。彼女は息をのんで手紙をじっと見つめ、涙がこぼれ落ちるのを抑えるのに必死でした。そして震える声で言いました。
「エリナは……あなたのお姉さんなの」
ミアは困惑しました。「お姉さん?私には姉がいるなんて知らなかったわ」
ミアは母親の声から、悲しみと深い感情の渦が伝わってくるのを感じました。大粒の涙が、母親の目からこぼれ落ちます。そして、母親は優しくミアの手を取りました。
「エリナは、あなたが生まれる前に亡くなったの。あなたがまだ赤ちゃんの時よ。でも、彼女はいつもあなたを見守っているのね」
ミアは手紙を通じて、亡くなった姉が自分を支えようとしていることを理解し、その思いに心が打たれました。そして今までもらった手紙を読み返しました。
手紙を読み終えると、彼女の目から涙が溢れました。姉が自分を想ってくれたことに感謝し、その優しさに触れながら、心が温かくなりました。
手紙を抱きしめながら、ミアは自分の心に素直に向き合いました。姉の優しさと愛情を受け止め、彼女の思いを胸に秘めて、新たな一歩を踏み出す決意を固めました。手紙の中には特別な言葉やメッセージはなかったかもしれないけれど、姉からの思いが伝わってきたことに彼女は幸せを感じました。
そして……、ミアは勇気をもってクラスメイトに話しかけました。「おはよう」という単純な挨拶から、精一杯元気よく、大きな声で。最初は戸惑ったクラスメイトですが、明るく話しかけてくるミアを友人として受け入れてくれました。
学校に居場所を見つけたミア。その日を境に、姉からの手紙は届かなくなりました。けど……ミアは知っています。優しい姉が、いつでも見守ってくれることを。
<了>
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