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ゲーテのように見通せなくても

※文化時報2020年9月19日号に掲載された社説「転換点 見極める努力を」の全文を転載します。

 ドイツの文豪、ゲーテが残した言葉の一つに「ここから、そしてこの日から、世界史の新しい時代が始まる」という名言がある。1792年、フランス革命軍がプロイセン軍を破った「ヴァルミーの戦い」を受けたとされ、事実、この戦いは国民の義勇軍が王朝軍に勝ったという象徴的な出来事として歴史に刻まれた。

 新型コロナウイルスの感染拡大は、間違いなく世界史に残る出来事ではあるが、今を生きる私たちにとってどの場面が歴史の転換点になるのかを、ゲーテのように見極めるのは難しい。「昨日今日不同」という禅語が示すように、一日たりとも同じ日はないと実感しながら暮らしていれば、なおさらである。

 それでも、変化を漫然と追認しているのでは、時代を読めず、社会のニーズをくみ取れない。ニューノーマル(新たな常態)と呼ばれるコロナ後の世界秩序を見通す上で、注目すべき要素の一つは、「集団を避ける」という意識である。

 最初の転換点は、3月9日だった。国の専門家会議が、感染拡大防止のために密閉、密集、密接の「3密」を避けるよう、初めて注意喚起を行った日だ。これ以降、人と人が接する機会を減らすことが正しい感染症対策と打ち出され、緊急事態宣言下での「人との接触8割減」や「新しい生活様式」の呼び掛けへとつながった。

 そして、再び転換点を迎えたといえる可能性があるのが、9月11 日である。

 専門家会議の廃止後に設置された新型コロナウイルス感染症対策分科会は同日、きょう19日からのイベント開催制限の緩和を容認した。参加者が歓声や声援を発しないものに関しては、収容人数いっぱいの入場が認められる。

 プロスポーツの観客数も上限が大幅に緩和された。スタジアムに客足が戻れば、来年に延期された東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて弾みがつくだろう。

 人が集まることへの抵抗感が和らげば、宗教活動への後押しにもなる。

 伝統仏教教団や寺院は、法要や行事の際、すでに手指の消毒やマスク着用、換気などに加えて、参列者同士の距離を保つ方策をとってきた。今回の制限緩和は、法要や行事の開催自体に慎重であり続ける必要はなくなった、という節目になるかもしれない。

 もちろん、政府の判断が正しいとは断言できない。感染症対策と経済活動の両立という〝戦略〟には、人間の都合や煩悩がうかがえる。宗教界が独自の基準を持つことは否定しない。

 ゲーテはプロイセン軍に従軍したことで、冒頭の名言を残した。教団・寺院も、法要や行事の場で人々の意識の変化を感じ取り、転換点がいつ訪れたのかを見極めようとする姿勢が大切だ。現場感覚を重んじ、適切な判断へと道筋を付けたい。

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