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2015.4 異所を訪ねて

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2015.5.4の文学フリマ東京(ブース:オ-18)に向けてマガジンを作成しました。マガジン表紙・紀行文の写真:片上長閑
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記事一覧

紙の上の旅(紀行文・第2回)

紙の上の旅(紀行文・第2回)

運転台の後ろから先の道を見遣る。線路の行く手に工場の、鉄の林が待ち構えている。更に先を見ると線路がその奥へ吸い込まれている。電車は岳南原田を出ると、手前で分岐することもなく、速度を上げながら工場群へ迷い込んでゆく。左右に上方、至る処を縦横無尽に錆びた鉄骨が走る。こいつは本当に人の乗る為の鉄道なのかと心細くなるかもしれない。線路は曲線を描き、見通しは効かない。効いたと思ったら古ぼけた貨物ホームが至近

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紙の上の旅(紀行文・第1回)

紙の上の旅(紀行文・第1回)

 物書き同人の末席を汚す私が何か書けと言われた。お前もこの同人に参加して長いのだから、好い加減縮こまっていないで何かしたらという意図が見て取れた。そういう依頼だ。

 私は絶望した。締切が次の週の月曜日に迫っている。私には書かねばならんレポートも読まねばならん本も山積しているが、偏りはあってもそれなりに本は読んでるでしょう、貴方、だからこの辺でそろそろ一つどうすか、ということだろう。メールの画面の

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「飲み会」に対するノート――台湾出身の目から見た日本

「飲み会」に対するノート――台湾出身の目から見た日本

 日本に来た私にとって一番のカルチャーショックは、「飲み会」という文化である。台湾の中ではかなり日本寄り(親日ではないと思うが)である私は、東京と台北の空気の微妙な違いにまだ慣れようとしている途中だが、「イベント装置としての東京」についてはある程度把握しているつもりであった。

 電車に乗っても、花見に行っても、同人誌即売会に参加しても、「まぁ想像通りのもんだなぁ」と感じた。他人とあまり深くかかわ

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