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愛くるしい人と言ったら叱られるかな/田村正和さん

先日亡くなった田村正和さん。阪妻の息子であり、兄の田村高廣さん、弟の田村亮さん(狩矢警部!)とともに田村三兄弟と呼ばれる。もっとも、子どもの頃の私は阪東妻三郎を知らなかったので、あるときそれを知っても「へぇ~」としか感想はなかった。

田村正和さんを最初に認識したのは何だったのか、今思い返しても全然記憶がない。ただ『うちの子にかぎって…』から始まり、『パパはニュースキャスター』『カミさんの悪口』『古畑任三郎』といったコミカルな役柄への流れは覚えている。その間の『ニューヨーク恋物語』(確かこのドラマ、ニューヨークロケだった! あの頃は豪華だったね)で、「そうだ、田村正和って、もともとこういう役を演じる人だった」と感じたほど、二枚目の印象が薄い。たぶん私と同じ世代の人は、そうなんじゃないだろうか。

真面目な人がコメディをやると面白い。


しかし田村さん主演のコメディドラマはほぼ全部観てきたのに、最近TVerでやっている『パパはニュースキャスター』(1987年)を観たら内容を全然覚えていなくて、ひとり悶々とした。あんなにかじりついて観ていたじゃないか。翌日、友達と内容について大いに喋ったじゃないか。なのに、忘れていた!主題歌が本田美奈子さんの「Oneway Generation」だったことすら忘れていたのだ。

コミカルな役柄の印象からか、私のなかでは「大人なのに妙に純真な子どもっぽさを漂わせる」印象の田村さん。昭和から活躍した役者さんに対して、しかも大人に対してアレだけど、知的でダンディより「愛くるしい人」のイメージ。今そういう人って、いるだろうか。例えばコメディのときの中井貴一さんは大好きだけど、中井さんはコミカルで毒舌、サービス精神旺盛といったイメージだ。

誰が田村さんの代わりになるかと、いくら考えても思いつかない。

そんな田村さんのハマり役となったのが『古畑任三郎』である。事件現場にセリーヌの自転車をこぎながらやってくる彼。それだけでもう可笑しい。変なところにこだわって、やけに細かい。気になったら止まらない。古畑任三郎そのものが田村さんに思えてくる。三谷さんは当て書きの人なので、当然といえば当然。でもその役を、さらに自分らしい表情やしぐさで演じたからハマったのだと思う。

ところで『パパはニュースキャスター』を観ていたら、この時代はこんなこと当たり前にやっていたのかと思う場面に遭遇した。ちょい役をしていた役者さんが、違う回で別のちょい役をこなしていたり、最終回に向けての告知をドラマ本編内でやっていたり。また今はほとんどのドラマがエンディングで主題歌を流すが、この頃はオープニングで毎回主題歌が流れていた。1話から最終回まで視聴した2週間、「Oneway Generation♪ Oneway Generation……♪」という美奈子ちゃんの元気な声が繰り返し聞こえてきて、ちょっとウルウル。85年組の中で、彼女と森口博子ちゃんは抜群の歌唱力だ。

また劇中には若い頃の松本留美子さんや松澤一之さん、川俣しのぶさん、最終回のみだけど渡辺哲さんまで登場しており、2時間ドラマ好きとしては大いなる収穫もあった。「え、そこ!?」と思わないでーーー。だって2時間ドラマの常連俳優さんたちの若い頃って、なかなか知る機会がないから。テレビ局のシーンでは、あの田代冬彦さんまで登場。田代さんはTBSの社員で、秋野暢子さんの元夫と言えば思い出す人はいるだろう。ドラマ『ずっとあなたが好きだった』の冬彦さんの名前が、田代さんから取ったものであることは有名な話だ。


全編を観終わり、役者は作品の中で生き続けるのだという至極当たり前のことを実感する。やっぱり俳優ってすごいね。

今度は『カミさんの悪口』を観たい。篠ひろ子さんとの夫婦役がとてもよかった記憶があるのに、これもまた細かなストーリーを忘れている。平和的なホームドラマは空気が心地よくて覚えているんだけど、台詞までは覚えておらず。緊迫もの、台詞に深さを求めながら観るもの、大逆転劇など、アドレナリンの出るようなドラマの多い昨今。今このドラマを観たら新鮮だろうな。


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