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文学コーナー、やはり人がいない。書店パトロールその⑤

新刊書のチェックは欠かせない。然し、無論購入しないと決めている。いや、まぁ、欲しい本があれば購入するのだが、私が欲しいなぁ、と思う本は大抵高い、いや、というか、最近、汎ゆる本という本が高くなっているのだ。
この物価高、この人件費高騰、この東京砂漠、然し、私は京都に住んでいる。まぁ、人心は砂漠のようなものだ。僅かな水で心が満たされる。然し、すぐに水は乾いて、水!水!と欲するのだ。然し考えて欲しい、人間というものは、基本的には70%くらいは水分でできているのだと。なので、本当には水は欲するよりも前に、『HUNTER×HUNTER』のジン・フリークス的に言うのならば、「大切なものは、欲しい物より先にきた」的な(うろ覚え)ということである。
まぁ、そういう感じで、文学コーナーはやはり人がいない。私は常々不思議に思っているのだが、noteでは本当に多くの方が文学書の話をしているのだが、周りにはほとんどいない。誰も本を読んでいないのだ。読んでいても、自己啓発とか、そういうファストフード的な本が大半であり、なのに、noteを読んでいると、文学好きがたくさんいるから、本当に混乱してしまう。

まぁ、今回気になった本は、『逃げまくった文豪たち 嫌なことがあったら逃げたらいいよ』という、逃げ恥的な、そういう本が目に留まった。で、目次をパラパラ見ると、やはり大御所、有名所のオンパレードである。こういう本は、いつも太宰治だとか、石川啄木とか、そういう有名どころばかりであり、まぁ、有名じゃない人を取り上げてもそんなに需要がない、ということだろうが。然し値段は結構安くて、税込1,430円。まぁ良心的である。

それから、『ユリイカ』の『臨時増刊 大江健三郎』である。


これはすごい本だ。ユリイカはいつも濃厚な論文が犇めき合い、大変勉強になる本だが、この大江健三郎の臨時増刊は、激烈に濃厚な匂いがしている。まずめちゃ厚い。そして、めちゃ高い!2,800円である。税込で、3,080円もする。3,080円とは、青年漫画の単行本が4冊買える価格である。然し、大変に魅力的だ。
私は大江健三郎の作品は、全部で10作品くらいしか読んでいないため、この論考たちのほとんどが理解できないだろう。そう、自分に言い聞かせて、私はこの本を棚に戻す。然し、大江健三郎ファンならばマストの1冊だろう。
何れにせよ、大江健三郎という偉大な作家は、私のような馬鹿には理解できないわけだが、谷崎、川端、三島とか、ああいう層よりも遥かに高い技術の作品を書いていたはずである。ただ、私にはあの濃厚な文体が苦手だったのだ……。

で、私はその棚に並んでいる『私説 ドナルド・キーン』に目を留める。

2310円、高い……。然し、こういう文芸書の価格は、普通に考えたら安いはずである。これほどの論考、情報を丁寧に整理しているわけであるから。なのに、それでも2310円は高いと思ってしまう。私は貧乏である。だから、こうしてnoteに書くことにより、すでに買った気になり、お金を使わない方法を会得したのだ。
帯には、「キーンさん、生誕101年」と書いてある。私は、生誕何年、というのは実はあまり好きではなくて、没後何年、の方が個人的にはしっくりくる。そして、生誕101年って、なんか中途半端だけど、なにかあるのかしら。私はよく識らないため、この本もそっと棚に戻す。

そして、『保田與重郎の文学』。これは新潮社から出ている。
保田與重郎。まぁ、読めない人が多いだろう。私も、対談を読んで初めて識ったので、全然くわしくないのだが、やすだよじゅうろう、と読む。

保田與重郎氏は、同人誌の『コギト』を主催したことで識られている。私も、『コギト』は識っていたけれども、その主催の保田與重郎氏のことは不勉強で識らなかった。
保田は京都に『身余堂』という屋敷を構えていて、川端康成はそこを大層素晴らしいと感じていたそうだ。
私は、京都に住んでいるのに、この身余堂なる建物のことはまるで識らなかった。


京都には、そういう建物が多すぎる……。つまり、知識人であればあるほどに、京都は余すところなくその魅力を持って出迎えてくれるのだが、私のように馬鹿であると、京都は大変ツレナイのだ……。
東の詩仙堂、西の身余堂、というと、インターネッツで識った。
然し、知識というのはすべてが繋がっていくため、これは本当に面白い。完全に独立したものはないものだ。『コギト』という知識からまた広がりが生まれて、私の脳内もまた活性化していく(然し、最近まじで名前が出てこない……!活性化していく前に死んでいく脳細胞を止めないと…!)

本を手に取り、その分厚い威容に圧倒される。パラパラと捲り、心を決める。保田與重郎、相手に取って不足なし!と、値段を見ると、14,300円。私はすぐにそれを棚に差し戻して、まぁ、身余堂はどこかのタイミングで見てみたいなぁと思いながら、何も買わずに書店を後にしたわけである。



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