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『カードカウンター』とミニシアター

ポール・シュレイダーの『カードカウンター』を観に行く。

京都のみなみ会館である。
まぁ、ミニシアターであり、数年前に移転された劇場である。なんと、今年の9月をもって閉館になるのだという。

経営が厳しいとのことだが、まぁ、そりゃあそうだわな……。快適なシネコンで人気作は上映されて、配信で数多の作品が観られるようになった時代、ミニシアターで通常料金を払って観るのはなかなかにコスパが悪い。
私は、このシン・みなみ会館では初めての劇場鑑賞、来たい来たいと思っていたのだが、なかなか機会がなかった。

旧みなみ会館では、園子温の『愛のむきだし』や今敏監督の『パプリカ』や山下敦弘の『天然コケッコー』を封切り時に見た記憶がある。それからホラー映画だとアレクサンドル・アジャの『ハイテンション』とか、『マーターズ』とかもみなみ会館で観た。あ、『シルビアのいる街で』もみなみ会館だったような……。なので、まぁ結構観ているが、アクセスが悪いことと、便所が和式しかなかったので、その辺りが嫌だったのだが、劇場はなんともいえないダウナーないいムードが漂っていた。

あのいい感じの劇場も移転し、そして京都シネマの他にアップリンク京都も出来たわけだが、このみなみ会館は閉めるのだという。哀しい話だ。まぁ、人生は全て流れるが如しなので、しょうがない。出町座という小さな映画館もあるが、私は別にそれらの文化を否定するわけではないが、最早時代というものそのものによるプレッシャーにより、ミニシアターは無くなるのかもしれない。そもそも、大きな劇場ですらヒイヒイ言うわけで、配信では供給過多で、様々な娯楽が溢れ、私が心底軽蔑しているタイパという考えにおいては、ミニシアターは最早その席が奪われてもしょうがないのである……。

まぁ、それを語り継ぐ人がいればいいわけで、『わーたーしーがーしのーともきみがいきてーいるかぎりー』という、あの、トワ・エ・モワの白鳥英美子の『Melodies Of Life』を脳内で再生させながら、私はシンみなみ会館にての初めての映画鑑賞に臨む。それは、観客がわずか5人程度のあまりにも哀しい状況だったが、まぁ、監督がポール・シュレイダーであるから。


『タクシードライバー』の脚本家のポール・シュレイダー、『ハードコアの夜』の監督のポール・シュレイダーとくれば、まぁ、本当にはこんなものである。

娘がポルノ業界に…!?親父が単身夜の街に娘を探しにいき、絶望する映画


デ・ニーロと今作のオスカー・アイザックはなんか目元が似てる。あの虚無的な目。日本で言えばまぁ、川端康成の小説とか似合うと思うよ。虚無を気取ってでも、女性のことはジロジロ見るんだよね。

そして、まぁ、感想を言えば、序盤は完全に『タクシードライバー』のリメイクかと思うほどに、オスカー・アイザックがあまりにもロバート・デ・ニーロに似ているため、トラヴィスがスクリーンにカムバックしたのか……と思えるほどであった。
内容としては、ムショ帰りのギャンブラーが、ムショに打ち込まれた原因となる元上官のせいで魂を病み、ギャンブルで生活していると、その自分を売った上官がのうのうと講演会とかしており、くそー、むかつくなー、もういいや、行こう……と立ち上がろうとするとそこにいた若い青年に、あいつ、殺そーぜ、的な誘いを受けるのだが、どうやら彼の親父も主人公同様の処罰を受けて、銃身自殺を図ったという……、主人公はある考えに辿り着き、若者に手を貸そうとするのだが……みたいな話であり、まぁ、最後にはウルトラ暴力が炸裂する。それも『スカーフェイス』のチェーンソーを思わせるとても奥床おくゆしい演出で。
制作費はそう高くはないだろうが、もはやポール・シュレイダー空間ともいえるあの異界感、世界を観る眼差し、ポール・シュレイダーは常に怒っている。そして、私も含めて今日劇場にいる同胞はらからたちもだろう。
然し、演出は極めてソリッドであり、テーマはブレず、演出もブレない。つまりはポール・シュレイダーの描きたいものを描くために、どこまでも削ぎ落とした演出が続き、それは一つの崇高さにまで到達している。
所謂、今作では一つの愛が語られており、また罪人の再生の物語であり、赦しの物語であり、疑似父子の物語であり、おそらくは今劇場でかかっているそこらの映画よりもよっぽどハートフルなウルトラ暴力映画なのである。

そして、途中で登場する謎のプール空間、そして、綺麗なのか不気味なのかわからない『エンダー・ザ・ボイド』的なイルミネーション、常にセックスの匂いをビンビンと放つヒロインの存在など(ハスキーボイスがいい、なかなかパンチのある人だ)、そして人々の陰鬱を通り越して内面がどこまでも削ぎ落とされた、いや、感情が削ぎ落とされた表情の数々は、本当のアメリカの感覚であり、ポール・シュレイダーは本当に50年間、ブレない。

そして、この映画が終わり、明るくなった劇場から出ると、映画館はシーンとしていた。この光景もまたソリッドであり、旧とは異なり大変美しくモダンになったトイレは、まるで『ブレードランナー2049』冒頭のシンクでの手洗いのような乾いた美を持って私を包み、そうして、あれ、私もしかして、まだポール・シュレイダーの映画の中?というほどに映画内に合致した空気感に包まれて、良い映画体験をした。

暫定2023年ベスト(映画館で観たものに限る)

測定不能…君たちはどう生きるか(2回鑑賞)

1位:ザ・フラッシュ…96点
2位:ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー.Vol.3…93点
3位:フェイブルマンズ…83点
4位:カードカウンター…81点
5位:AIR/エア…80点
6位:スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース…78点
7位:クリード/過去の逆襲…75点
8位:アラビアンナイト/三千年の願い…74点
9位:シン・仮面ライダー…62点


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