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書店パトロール13 印税が欲しい人集合!

先日、文庫の新刊コーナーに泉鏡花の『外科室・天守物語』が置かれていた。

帯文は三島由紀夫。『鏡花は天才である〜云々』などと、いつのも三島由紀夫のアゲアゲリップサーヴィスが踊っている。

三島由紀夫は誰に対しても天才だと言うので、これはもう信用が置けない。
で、そんな泉鏡花の本がいつも足を運ぶ文芸コーナーにも並んでいた。


私は泉鏡花は苦手で、それは私に素養がないからかもしれないけれども、
『高野聖』とか読んでいても目が滑るんだよね。『外科室』は坂東玉三郎が監督で映画化していて、それと同じく、この文庫に収録の『天守物語』も監督していた。
『天守物語』は金子國義が装丁を担当した本もあって、金子國義は歌舞伎、泉鏡花が大好きなのである。


然し、文芸書、それも評伝コーナーには毎月毎月、新しい本が並び、こういう本ってどれくらい出るんだろうかと気になる。
仮に3000部だとして、東京には1000冊は撒かれるのだろうか?それとも2000冊くらいだろうか。京都とか多分20冊あればいいくらいで、そのうち5冊くらいが売れるのだろうか。
そもそも3000冊も刷らないのかもしれない。以前、私の好きな小説家の津原泰水氏の本が初版3000部だとか書かれていて、もうお亡くなりになってしまったけれども、3000部だとすると、1,500円のハードカバーで印税が仮に10%(ちなみに翻訳印税とかは5%〜7%くらい)だと1冊150円なので、450,000円という計算だが、信じられないくらい安い。
津原泰水を超える筆力の人は、無論noteではお目にかかったことはないが、プロの才覚のある人でもそんなものである。で、例えばこれが50万部売れるような作品だと、150円×50万部で75,000,000円なので、まぁ、家が建つ。
ま、そんな人はそうそうおらず、作家業の中でも数万人に一人だろう。

昔、車谷長吉が、『赤目四十八滝心中未遂』で直木賞を受賞して、本人曰く「男子の本懐を遂げた」時、今までの作品の増刷ブームなどで、数千万円の家を買ったそうだが、やはり賞、というのは凄まじいブーストをかけるもので、然し、それは一過性のものに過ぎない。コンスタントに売れている作家さんはとても凄いのである。

漫画とかも、アニメ化ドラマ化映画化の恩恵は計りしれず、既刊が20冊ある作品がそれぞれ5万部増刷になれば、100万部で、一気に5000万円くらい稼ぐわけで、それはもう、映像化を断る作者などあまりいないだろう。

と、まぁ、ポケットに500円しかない私は購入の選択肢のなさに嗟嘆しながらも、買える本を探す。しかし、当然500円しかないから、大抵のものは購入も出来ない。本は高くなった。然し、本は出版され続けている。

と、私は本当はあかね噺の8巻が欲しくて、それを買いに来たのだ。財布の中には小銭があるから、ポケットの500円と合わればなんとか買えるだろうし、コーヒーだって飲めるかもしれない。無論、スーパーか薬局で購入するのである。コンビニは貴族階級が向かう所であるから。
然し、私だって新刊で買うわけだから、これはもう、貴族なんじゃねーの?と自分の身分にほっこり気分。

で、そんな私の目に入ったのが、『令和版 現代落語論〜私を落語に連れてって〜』である。

パラパラと読む。落語ブームである。あかね噺がアニメ化ドラマ化映画化するのは既定路線だが、これもまた、落語界(私は一切無関係だが)にいい影響を与えているのかもしれない(無論、お金の面で)。
そういえば、これらの話とは一切関係がないのだが、以前、落語家の笑福亭たまさんがラジオに出ていて、お話がすごく面白かったので、一度独演会など行ってみたいな〜とか思いつつ。

私はあかね噺を購入すると、まだ未練がましく本屋をぶらぶらしていた。もう、お金なんてないのに。
と、海外文芸のコーナーにて、アン・ラドクリフの『森のロマンス』なる本を発見!

うーん、ゴシック小説、そしてこの装丁。私の円が反応して(ちなみに、私の円は極めて精巧で、他人の文章能力の巧拙や、相手の好み、性格などを見抜くことに長けている、まぁ、スピリチュアルメッセージのようなものだが、然し、いざ本人に尋ねると、大抵外れている)、これは買いだな。3960円か……と、後ろ髪引かれる思いでそこから遁走。

そう、最大の問題は本が多すぎることだ。皆、本を愛しすぎているということである。そもそも、出版不況のくせに本を出しすぎだろう!とも思うが、いや、私が本に対してこれまで以上に執着するようになった、そういうことなのだろうか。
今まで、本というのは、そこら中にあったはずなのに、急にとても気になる存在へと変化していく。

とにかく、金である。世の中は全て、金が物を言うのである。

まぁ、けれども、大金は必要ない。一月、1日1本、缶コーヒーを飲み、軽く何かをつまみ、何冊か本を買って、映画を観る。それくらいでちょうどいいのである。それだって、かなりの贅沢だ。


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