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幻想の教室


『一角獣の変身』という本がある。

銀座に居を構える、幻想絵画を主として取り扱っている青木画廊のクロニクル本である。
青木画廊はもう60年以上の歴史がある。

主なスター画家は金子國義で、四谷シモンもいる。四谷シモンは美しい人形、虚ろな人形を作るが、一家に1体、シモンドールは欲しい物である。然しシモンドールはとても高価で、数百万円もするのである……。金子國義なんかの絵も数百万円する。今、ちょうどヤフオクに出品されているのは150万だけれども、あれでも買い手はつかないのだろうか。本物だとしたら、普通にその倍くらいの価値があると思われるが、絵も結局は需要と供給なので、買い手がいないことには暴落する。反対に、バンクシーだとか嘘みたいな値がつくが、あれはもはや投機対象でしかないため、目利きには興味のないものだろう。
金子國義の絵はこういう海外のオークションサイトで400万円とか500万円とかで取引されていた。私は、指を咥えて見ているのが関の山である。

で、この『一角獣の変身』は非常に濃厚な幻想絵画の世界を楽しめる素晴らしい一冊である。3000円くらいするので、ちと値は張るが、充分かかった金額をペイできる内容だ。
私は、青木画廊に行ったことはない。いや、実際には画廊のある建物の階段を登り、玄関まで行ったことはあるが、閉まっていたのである。私は、京都の人間なので、上京は数年に一度である。その日、画廊は休みだった。銀座の街は恐ろしいほどにハイ・ソサエティシティだった。

一角獣とは、神話に出てくる角が生えている馬である。この馬は処女の前に姿を顕す。雄々しい馬なのである。『ブレードランナー』において、主人公デッカードが夢、或いは埋め込められたかもしれない記憶として視るのが一角獣で、人造人間の処女であるレイチェルと出逢ってからその姿を顕す。

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一角獣は『ブレードランナー』のテーマであり、それを『ブレードランナー2049』では木馬に変換してみせて、見事にそのスピリッツを継承している。私も、一角獣というモティーフは好きなので、自分の小説に入れ込んだのだが、誰も読んでくれていなくて哀しいので、ここに上げさせて頂く。

青木画廊の画家たちは、普通に暮らしていたら中々お目にかからない作家ばかりである。ニッチであるともいうが、どの画家も自分の世界、色を持っていて、それが幻想世界であることから、不思議な感覚を呼び起こされる。

ウィーン幻想派というオーストリアを舞台に活躍した幻想絵画の集団がいて、その中の筆頭のエルンスト・フックスの絵画なども取り扱っていた。

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この本の中でも、ウィーン幻想派に関しての様々なことが書かれていて、非常に勉強になる。やはり、勉強するのは本に限る。ネットは調べ物には便利だが、基本的には浅い情報しかない。珠に、ウルトラにディープなことを書いている記事を見ると、書き手を尊敬してしまう。

ウィーン界隈だけではなく、やはり日本の幻想絵画たちこそが、この本の主役である。昔から専属だった画家やアイヌの彫刻家砂澤ビッキ(数年前にヤフオクで出てた飛行機、45万円くらいだったけど、欲しかったなぁ)、それから、現役の作家たち。
私は、現役の作家たち、もっと言えば、若い方の作品に非常に気になる。漫画とかでも、新人とかの漫画の方が気になるタイプである。
藝大とかは卒制をネットにWEB図録とかでアップしているので、一日くらいかけてじっくり見る。何人か、ハッと惹き込まれる方がいる。



青木画廊の画家さんで気になるのが藤原舞子さんである。藤原舞子さんの絵は少年と少女、そして動物を描いているが、この静的なムードが堪らなく良くて、ええなぁと思っていたら、この本に載っているコレクター鼎談ていだんにおいてもすごく人気のある作家だと書かれていた。既に5年前の話である。
この方の個展も既に三ヶ月ほど前には終わっているが、絵とは一期一会なところもある。こういう、個展情報などもちょくちょく仕入れておかないと、本当にほしい絵画は手に入らないのである。

一角獣の角は、一角の角が幻獣のものだとして売られていた。
その角は薬としても重宝されて、高値で取引された(『ヴィンランド・サガ』でもそんな話があった)。今では一角の角(犬歯)は国際的に取引の禁止がされていて、日本では入手は出来ない。
然し、この一角という不思議な海の生物が、一角獣の幻想を一層強固にしていること、これこそが幻想の生まれるところのような気がする。
幻想とは、本当にはないものである。幻の想いであるわけだから。然し、この幻もまた、何かそのような欠片からの連想から生まれる。
私がはるか古代の人間ならば、見事な一角の角を手にしたのならば、ユニコーンの存在を信じるだろう。
そして、その幻想を視て、それをまたカンバスに描いたものは……新たな幻想の源泉になって、螺旋めいて世界を駆け巡るのである。

貴婦人と一角獣

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