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Epreuve d'artiste  私の本棚③

稲垣足穂大全特装版を先日入手した話を書いたが、もう一つ、稲垣足穂大全を入手したので、そちらの話を。

稲垣足穂大全は稲垣足穂の選集であって全集ではなく、現代思潮社から1970年に発売されている。
大全は全6冊出ていて、全集は全13冊(+拾遺)。
タルホはヴァリアントが多いため、どちらにも掲載されている作品にも差異があるものも多い(加筆・改稿が多いのである。書き上げたら終わり、という考えはタルホには通用しない)。
全集は2000年に刊行されていて、全巻で大体6万円〜8万円くらいが相場だろうか。大全は1万円〜2万円が相場である(が、安い場合は8,000円くらいといったところだろうか)。

私の入手した大全は限定75部の特装版で、購入者には御礼の手紙と直筆の短冊がついてくる。外箱と夫婦函に収められていて、重厚な感じであり、天を紫に染めた革装丁である。
特装版大全は75部限定で、私のは57番。

これで57番、と読む。柒、これでうるしと読む。あの漆。

こういうものは若い番号というものは作者、或いは作者に親しい人に贈られる。
特装版大全は数年に一度市場に出る感じで、相場は10万円〜20万円といったところだろうか。
で、この足穂大全の特装版の作者所蔵本を手に入れたのである。正確にはEpreuve d'artisteエプルーヴ・ダルティスト(作者保存分)である。
版画の世界ではシリアル№の下にE.Aとかあると思うが、それである。版画の世界では販売用の他に数枚、このE.Aを刷り、作家、乃至はそれに近しい人に贈答される。

この大全はそれに該当する。作者保存版であるから、まぁ、恐らくは足穂自身用に該当するのだろう。若しくは、大全に関わった重要な人向けのものかもしれない。

大全の限定75部は函にその旨が記載されているが、この作者用にはそれがない。つまり、右が市販用、左が作者用である。
Epreuve d'artiste、作者用の番号である。

ただ、これは4巻〜6巻だけの3冊の不完全版であって、残りの1巻〜3巻はどこにあるのかわからない。誰かが持っているのか、それとも、1巻〜3巻だけ足穂が持っていて、4巻〜6巻は誰かにあげたのかもしれない。

然し、この本が、あのタルホの本当になにもない部屋で彼に所蔵されていたのならば、感激に値する本だ。
尊敬する最も愛する芸術家の私物の大全、それを手にできるなんて幸福の極みだ。
とても嬉しい。
もしかして、残りの3冊をゲットして6冊揃えたら、タルホ弥勒が降臨するのかもしれんなぁ(ドラゴンボールじゃあるまいし)。

然し、これで我が家には大全は9冊になってしまったので、また棚が……。

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