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耽美派 マンディアルグとツェリードニヒ

『HUNTERXHUNTER』が絶賛休載中(掲載媒体が変わるので、もうジャンプでは読めないようだが)である。悲しい。
『HUNTERXHUNTER』は一番好きな漫画である。2番めが『ガンツ』、3番目が『バガボンド』。

さて、『HUNTERXHUNTER』の目下のお題目はカキンの王位継承戦だが、これは14人の皇子(男女)が暗黒大陸に向かう船の中で行う、策謀と暴力と殺人が渦巻く蠱毒なわけだが、これに各王子の私設兵や雇われたプロハンターやアマチュア、念の使い手、更にはウルトラに一触即発のヒソカと旅団やゾルディック家のイルミや様々な人物が入り乱れて、100人は軽く超える人物の群像劇と化しており、果が見えない。

冨樫氏は、『エイリアン』が大好きで、閉鎖空間で人が減っていく話が好きだという。なので、今作はある種冨樫的『エイリアン』みたいなものである。舞台立てのための、暗黒大陸でしかないが、然し、暗黒大陸に着いたら着いたで面白すぎる話を御馳走してくれるのが冨樫義博先生である。

そして、この王位継承戦でクラピカの最大の標的と目されるのが第4皇子こと、ツェリードニヒであるが、私はツェリードニヒが好きである。

いいキャラだ。ツェリードニヒという名前もいい。ベンジャミンも好きだけど。

人間の皮を被った悪魔であることは間違いない。天才的な念の才能の持ち主で、頭脳明晰であるが、然し趣味は人間解体である。それも若い未来のある女が好みだという。まぁ、サイコパスのクズであるが、物語を面白くするには、これくらいの凶悪さ(そして同時に滑稽さ、迂闊さも兼ね備えている)が必要だ。嘘をつく女性が大嫌いで、でも最近心変わりして、嘘つく女はかわいいらしい(でも最終的には嫌い〜みたいな)

凶悪な念獣が憑いている。ギーガーとか、外国の感覚だよなぁ。


彼は、作中に捉えた女性に入れ墨を施して、その皮を剥いで壁に飾っているのだが、これは谷崎潤一郎の『刺青』を思い起こさせる。

『刺青』はタニジュンの24歳の時の作品で、短編小説であるが、いい女を眠らせて入れ墨を彫ったら(気付かれないか?)、起きたらそのせいですげー悪女になっていて、俺の墨すらも彼女の悪徳の美を育てるためだけの肥やしやったんや!というようなよくわからない話であり、そんなのあるわけねぇ!そんなのあるわけねぇ!というような、タニジュンの妄想である。
これを読んだ同じような変態である永井荷風が「うーん!合格!」と太鼓判を捺してタニジュンは世に出た。

変態・鬼畜文学、という点で、畜生系皇子こと澁澤龍彦先生が翻訳した、これまた海外の変態大臣アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグの『城の中のイギリス人』は、ある種ツェリードニヒ的である。

マンディアルグは基本的に変態で、意味不明の話や詩ばかり書いているが、有名なのは映画化もされた『オートバイ』、それから『大理石』だろうか。
『オートバイ』は『あの胸にもういちど』という映画になった。私は観ていないが。

観てないんだけど、どういうポスターよ。


『城の中イギリス人』は、主人公が友人のお家に招かれて、そこで数多の女たちと性の放蕩の限りを尽くし、人体を破壊する殺戮の宴を体験する、そのような話である。残酷絵巻みたいな話で、同じような映画や小説はたくさんあるが、マンディアルグは、耽美な魔を纏わせるのに秀でいている。

まぁ、つまり、先にも書いたように、ツェリードニヒ的な感覚ということである。

一部に熱狂的なファンも多いマンディアルグさん。フランスの変態紳士の1人である。

ツェリードニヒは、冨樫先生の『レベルE』に登場する人魚を密売する宇宙人に似ているが(ツェリードニヒの友人たちは、カラーレンジャーに似ているので、キメラアント編もカラーレンジャ初期の話と設定が似ているので、全て『レベルE』が種である)、そういえば、谷崎潤一郎の『人魚の嘆き』の王子もまた、汎ゆる放蕩の果にたどり着いたのが人魚だったなぁ……。


そして、ツェリードニヒはルックスがイエズス・キリストのそれであり、セイントこそが最も堕天であることを体現しているかのようで、早いとこクラピカとの邂逅を望みたい。

人体蒐集家というウルトラやばい奴である。


『城の中のイギリス人』のように、徹底的な加虐趣味の小説、というのは読む人を限定する。そこに書かれているのが例え幻想であれど、一般のモラルから果てし無く逸脱しており、怒りすら覚える方もいるだろう。
悪い夢のようなものである。
然し、所詮は作り事であり、漫画であり、小説である。
夢は夢であるうちは、どのようなことも許される。然し、この魔薬は、起きてなおも心を傷つけるのである。

谷崎潤一郎、永井荷風は耽美派と言われる。ある種三島由紀夫もそうだし、川端康成もそうだろうと思う。耽美派とは、美が絶対であり、その為には残酷な血しぶき絵巻やインモラルな行為ですら、肯定化される。
まぁ、ツェリードニヒは耽美派なのだろうが、ただの殺人鬼なので、早くクラピカに成敗されて欲しいが。




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