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書店パトロール26  さらば偉大なる本屋よ

最近、アバンティブックセンター京都店が閉店した。1月10日なので、本当に最近である。
本屋は消滅しつつある。いや、本だけではなく、肉体そのものが消滅しつつあるのである。栄枯盛衰、である。

然し、私はアバンティブックセンター京都店にはそれほど愛着はない。あまり足を運んだことがなかったからだ。
けれども、大きな書店が無くなるのは、いや、大小に関わらず書店が無くなるのは悲しいことだ。私のようなパトロールを生業としている人間には、その場所が奪われるのは何よりも哀しい。

最近、TSUTAYAも無くなっていっている。それも、音速のごとし勢いである。

サブスクリプションの時代である。まぁ、私ですら、ディズニープラス、Netflix、Amazon primeに入っているのだから。然し、これらのサブスクは結局は本当に欲しい物に限ってないので、映画玄人になればなるほど役立たずだということが判明する。
TSUTAYAでDVDを1週間100円キャンペーンなど昔はやっていたが、あの返却しないと遅延料金を取られる、という恐怖のシステムがないのが配信のいいところではあるが、月額1,000円くらいの元が取りにくいのがデメリットだろう。

まぁ、そんなことはどうでもよく、とにかくアバンティブックセンター京都店が無くなったことで、私はより一層、書店パトロールに力を入れていこうと決意を新たにしたわけである。

いつまでもあると思うな本屋と本、ってなもんであり、あの、書店という冷静と情熱のあいだに存在する知的空間(然し、実際に並んでいるのは馬鹿な本ばかりというものもまさに知性とバカのはざまと言える)を回遊する喜びというのは何者にも代え難いものだ。
だからこそ、なんでもあるうちに奉公すべきであり、リアル書店にお金を落とすのは重要なことである。

さて、私は件の書店とは全く違う書店でまたパトロールをしていた。そうすると、落語の本が目についた。いや、落語と見せかけて講談である。講談の本も増えてきている。

講談。私はあまり詳しくはない。然し、グンバツに面白いのだという。私は最近は講談師の漫画である『ひらばのひと』は読んでいるが、当の講談は聞いていない。

これは、『ヒカルの碁』における、読んでいるけど碁のルールは識らない、『あかね噺』における、読んでいるけど落語の噺の内容は識らない、と同レベルのことであり、まぁ大抵はそういう人がメインの読者だ。それらの題材を見てその競技などを始める人は1割にも満たないだろう。
面白い漫画、というのは基本のベースラインが完成していれば、あとはなんとかなるのである。演出も、物語も、キャラクターも、それらが上手く機能していれば、題材は何でも構わない。
要は、落語、碁、講談、これらは極論マクガフィンでしかない。お仕事漫画もそうである。いや、汎ゆる漫画が、汎ゆる素材、まだ使われていない要素を必死に探すわけだ。

そんなことを一人でブツブツ呟いていると、書店員と目が合い、怪訝な顔をされる。

私は建築本のコーナーに移動した。

高い本、然し、興味深そうな本を手に取る。7,150円。た、たけぇ。どんなブルジョワジーが購入してんねん、と私は肩をわなわなと震わせる。
アルヴァ・アアルトはフィンランドの建築家である。オシャンティーな椅子などのプロダクツデザインも数多手掛けている。私が識っているのはそれくらいであり、そんな私がこんな本を買うのは気が引けてしまう。だって、そもそもそんなに識らない人たちの書簡だなんて……。いや、まぁ買うお金もないのだが……。

昨年、このような映画が公開されており、だからか、アアルト本がいっぱい置かれていた。
そしてその横には別冊太陽の『ル・コルビュジエ』特集本が。


私は別冊太陽が大好きである。

あれを読むと、知ったかぶりにちょうどいいのだ。別冊太陽で特に私のおすすめなのは『谷崎潤一郎』、『川端康成』、『宮沢賢治』、『中上健次』あたりで、これらはフォトグラフィーの数も多く、非常に勉強になる。さぁ、皆、いますぐ買うんだ。賢治の2023年のやつは買っていない。その前のやつは良かったが、今じゃあレアなのねん。

谷崎潤一郎はこの中では1番丁寧に編纂されている気がする。川端康成は本人の蒐集している美術品と並べての紹介なので、あんまり厚みがない。
とにかく谷崎潤一郎がおすすめ。読み応えと編集が良いね。

などと眺めているうちに、目についたのは『マルセを生きる!芸人マルセ太郎に魅入られた人たち』。

すごい眼力である。本の内容としては、マルセ太郎について様々な人々が語っている、そんな内容である。
無論、私はマルセ太郎についてよく識らない。けれども、こういう識らない要素を手に取る蛮勇こそが、人間に新しい知を与えてくれるのだ。
値段を確認する。案の定、2,420円という高額により私は顎にアッパーを喰らったかの如くそのままたたらを踏んで、然しダウンはまだしまいと、そっと本を本棚に差し戻した。
2,420円、というのは、本の世界でいえばまぁ日本ランカーと言っても相違ない。先程の7,150円なんて、世界ランカーである。
数万を超えてくるとチャンピオンクラスになってくる。私はひぃひぃ言いながら退散する。お金がない時はお金のかかるものに近づいてはいけない、いけないのだ。

そんな中、私の目に1冊の本が目に留まる。
アルティマニア、『FF16』のアルティマニアである。
え、なんか大きくね?私はそう思った。サイズ感が変わったのか。然し、恐るべきはその金額であり、2,970円。私は天を仰いだ。そして、そもそも『FF16』をプレイしていないことを思い出した。

然し、ゲームの攻略本とは読むだけでも楽しいものである。ブックオフでもゲームの攻略本コーナーはワクワクする。まず、RPG関連に関しては、クリエイターインタビューが掲載されており、これが脳汁が出るほど面白いものなのだ。
特に、スタジオベントスタッフの攻略本は最高に面白かった……、と、時が四半世紀戻り、はっと我に返ると、アルティマニアの横にはアート本が置かれている。

4,400円。え、高くね……。然し、ゲームのアート本はそのゲームを愛するものには聖典に等しいのだ。私はその4,400円もする本を手に取り、『FF16』のアートワークを見つめ、あの世界に思いを馳せ……、然しプレイをしていないことを思い出して、そっとそれを戻すと、スタスタとその場を立ち去った。












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