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本編は平凡なクリード3、おまけ短編がアヴァンギャルド過ぎた

『クリード/過去の逆襲』を観る。


映画館で映画を観る時間もなかなか取れない。レイトショー。Tジョイ京都なり。観客は13人くらい。寂しい。

『クリード』シリーズは『ロッキー』シリーズから派生したスピンオフ作品だが、『ロッキー』が全6作、『クリード』はおそらく今回で最終章、全3作だろうか。
『クリード』はそもそも『ロッキー』のロッキー・バルボアのライバルであるアポロ・クリードの息子、アドニス・クリードの話で、1作目が傑作だった。2作目はクリードにまつわる因縁、ロッキーにまつわる因縁を昇華し、シリーズはここで終了しても良かった。3は完全に後出しの因縁的な話であり、特に必要のない話である。
要は、過去に付き合いのあった悪い友達(まぁ、それよりも深い仲だが)が自分のせいでムショに入り、そしてシャバに戻ってきた。そのシャバに戻ってきた友人と彼から目を背けてきた自分自身に打ち勝つため、引退したアドニスが再びリングに上がる話である。

監督は主演のマイケル・B・ジョーダン。
ライバルのデミアン役(ダミアン?)にはジョナサン・メジャースである。

3作目、というのはいつも問題がつきまとう。サーガ、というものは、初めから構成されていた『ロード・オブ・ザ・リング』パターンや、後出しの後付パターンなどあるが、『クリード』シリーズにおいては、全て、全2作で終わっていると思われる。これ以上描くことがないのである。
今作は予想を上回る展開はない。予定調和を延々と見せられるのである。
強いて言えば、『ロッキー』同様、敵役のデミアンはロッキーばりに後が無い、再起をかけたチャンスを掴もうとする男であり、彼はある意味前半の主役である。
然し、彼はラフファイトや反則を織り交ぜたプレイスタイルなので、ひどく顰蹙を買っている。
冒頭から、延々と成功したスポーツ選手の夢の引退後生活と幸福が描かれて、これはまぁ意図的だと思うが、そりゃデミアンも怒るよね、寧ろ、大分我慢してるよねって感じであり、デミアンがデビュー戦にしてタイトルマッチという夢の人生逆転ゲームに臨むところが本作のピークであり、その後のアドニスとデミアンの試合はぶっちゃけどうでもいい、感すらある。

基本トリッキーな動きが目立つ男。然し、キャラの掘り下げが曖昧なので、前半と後半は別人のようになるが、前半のキャラはあくまでも演技であるのならば、トレーナーの台詞とか以外でも丁寧に描写した方がいいと思う。動きとかキャラとかは、ジョーダン監督も好きな『はじめの一歩』のブライアン・ホークを思わせる。
ブライアン・ホークは良かったなぁ。
もっとホーク並みにとんでもないことをしてくれるかと思ったのに、ただ躁鬱気味な感じだったメジャース演じるデミアン。

そして、デミアンは18年間もムショで準備をしてきたわけで、元々才能のあるダイヤモンドだったわけなので、セオリーならここで反則など使わずに圧倒して欲しいところ(まぁ、反対に辛酸を嘗めたからこその反則、ということもあるが)だし、始めにジムに来た時のスパーやその他の描写でも、それほどすごいように描かれていなかったり、王者とのスパーに入る前に別カットに飛んだりと、編集が上手くいっていないというか、デミアンの凄さがいまいちわかりにくい、ストーリー的に語られていないような気がする。
それ以外の、アドニスの金持ち描写、まぁ、これは成功してヤワになったな、お前、的なあれなのかもしれないが、そういう、アドニス人生期に尺を取りすぎていて、デミアンというライバルをよくわからないぽっと出のキャラとして最後まで扱っている。
まぁ、ジョナサン・メジャースの妙にヤバい感のある演技がいいからなんとかなっているが、そもそも、メジャースはDVで最近問題を起こしているため、あれは演技ではなく素なのだろう。

物語は予定調和の結末に終わり、まさかのアドニスの娘の『ケイコ 目を澄ませて』的なボクサーストーリーへとサーガが続きそうで、恐ろしい限りだが、おそらくそうなっても1作目は傑作になりそうな予感がする。
然し、娘のいじめを暴力で解決する、という問題はどうなったんだ?親父は一応自分の過失に向き合ったのに、あれは放置かよ。

まぁ、相変わらずトレーニングシーンは燃えるので良し!ただ、最近観たNetflixの『サンクチュアリ』の第7話の輝きには及ばないだろう。

然し、私が一番今回驚愕したのは、特別のアニメ短編を併映するということであり、なんと、エンドクレジット後に流すと、始めにマイケル・B・ジョーダンのコメントとともに宣言されるのだが、「参ったな……。」と空席の目立つ劇場を眺める。
私は、エンド・クレジットは観ない派であり、まぁ、時間がもったいないのと、エンド・クレジット後の特別映像など、ほぼ価値のないものしかないと今までの経験で悟ったこと、そして、明るくなった映画館をとぼとぼ帰るのは少し気恥ずかしいからだが、今回はマイケルが「日本のアニメが大好きなんだ!」と嬉しそうなコメントを出すので観てみようと心に決めた。

そして、そのアニメーションを観た私は腰を抜かした。まさかのクリードの末裔たちの宇宙を舞台にした未来SFだったのである。冒頭、『ブレードランナー』ばりの字幕が流れ出し、私の脳みそはその内容を処理することが出来ず、とりあえず、火星に移住できる世界であることだけは理解できた。
そして、そこからクリードの血を受け継ぐ者たち、主役級3名のキャラたちの生い立ちがモンタージュのように流れて、どうやら、宇宙で行われる特殊能力を駆使した未来のボクシング的な大会に皆参加するようであり、壮大な物語が始まる、的な感じでそのアニメーションは終了した。

私は、今年一番後悔した。アニメーションが終わると、場内に灯りが灯る。そうして、この恥辱のような5分間のアニメを観終わって、どうしたらいいのかわからない人々が、そそくさと帰っていく、私が一番嫌な気恥ずかしいシチュエーションが顕現したのである。
そうして、アニメーションの印象が強すぎて、もはや『クリード』本編の内容すらも脳内から吹き飛んだことが、何よりも強力なアドニスからのパンチであった。

暫定2023年ベスト(映画館で観たものに限る)

1位:ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー.Vol.3…93点
2位:フェイブルマンズ…83点
3位:AIR/エア…80点
4位:クリード/過去の逆襲…75点
5位:アラビアンナイト/三千年の願い…74点
6位:シン・仮面ライダー…62点

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