『少年愛の美学』および、クナーベンリーべの近親相姦的美学』 稲垣足穂考/タルホと月
マクラ
夜半、自宅へと向かうバスが目的地へと着き、降車すると夏至の匂いがする。それは、「菊の香や 蘭より暗き ほとりより」という、医師である桃園豪が、「どうだ。このパロディは」と胸を張る蕪村のパロディ句に親しいが、けれどもこの匂い、それは、それよりももっと、肉体的な情緒を削ぎ落とした感覚、乾いた感覚の世界である。
花壇には、蘭や菫も愛らしく微笑んでいて、ヘリオトロープが匂い立ち、
月光と、幾つかの瞬く星々に照らされている。川沿いの学校の前のバス停だからだろうか、木に溢れてい