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タルホと月㉒ 西山金蔵寺と日本最古のボーイズ・ラヴ♡本? 『秋夜長物語』

京都は洛西に西山金蔵寺こんぞうじなる寺がある。

桂川を超えて、洛西ニュータウンを超えていくと、いきなり道が開けて、長閑のどかな景色が広がる。
どんどん山へ向かい車を進めていくと、人もだんだんと減っていく。
西山金蔵寺は山上にあるため、車でも行けるが、絶望的な道を行くことになる。バスでは最高にアクセスが悪いため、車かハイキングしか道がないのだが、超絶的に狭い道、対向車が来れば運転下手ならば即死であろう恐怖のドライブウェイのその先に、西山金蔵寺は屹立している。
しかし、ここは秋になるとあまりにも美しい紅葉のスポットであり、恐らく、京都でも屈指の穴場の一つだろう。

画像をお借りしました。この階段、すごい急勾配なのダ。


だが、何回も言うように、車で行くのは相応の覚悟がいる。
私の運転経験上、ダントツ一番の酷道である。まぁ、紅葉のシーズンでなければほぼ車は来ないし、参拝客の姿もない。静かな寺院がそこにある。
駐車場もあるので、大体5台〜6台くらいだろうか、停められる。

で、そこに私が行ったのは、美しい紅葉も理由の一つだが、稲垣足穂がそのものずばりの『西山金蔵寺』なるエッセイを書いていたからだ。
タルホは、そこに『秋夜長物語あきのよのながものがたり』の石碑があることを知り、人に誘われて登りに行くわけだが、エッセイの中では、修学旅行か何かで金蔵寺に来ていた美少年に、寺の和尚と間違われて水を頂けますか?と聞かれたというエピソードが書かれている。タルホは坊主頭なので間違われたのかと思うが、タルホはこの少年を梅若と見立てている。梅若とは、このエッセイの起点になった石碑、『秋夜長物語』の登場人物であり、美しい稚児である。この稚児と恋愛関係にあった律師梅桂との同性愛、稚児ものがこの『秋夜長物語』であり、日本最古の正式なBLだとかなんだとか。

で、今作をタルホはタルホ版として翻訳しているが、タルホは翻訳作品、引用が多いので、この、他者の書いたものを翻訳翻案写本とういうのは、彼にとり重要なことなのである。
タルホはこの我流の『秋夜長物語』を書くに当たり、永和三年二月玄心書写本を台にしたと書いている。

タルホは大阪朝日で連載されていた『古都の道ばた』というエッセイで、この梅若丸と梅桂の供養塔の存在を知る。
そして、タルホ版を翻訳した後に訪ったようだが、このように、様々な少年愛、美少年もの作品を書き、学び、語ることで、稀代の少年愛文学を産み出したわけである。

昔見シ月ノ光ヲシルベニテ今宵ヤ君ガ西ヘ行クラン
ト書院ノ石ノ壁二書キツケルルヲ、君限リナク叡感アツテ新古今ノ釈教ノ部ニ撰ビ入レサセ玉フ


と写本に書かれている場所が金蔵寺だとのこと。

稚児もの、といえば今東光、それから谷崎潤一郎も『二人の稚児』なる美しい小説を書いているが、これは、比叡山の千手丸と瑠璃光丸という美しい稚児二人が、俗世と俗世にいる女に興味を抱く話で、精通的な感じだろうか、まぁ、悶々とするわけである。
私は、この小説は昔文庫で読んだが、未だにあんまり何を言いたいのかわからなかった……。文章はすごく綺麗なんだけどね、なんか打ち切り漫画みたいで……。

そして、金蔵寺に関してのエッセイを結ぶ折に、タルホは、作家の山崎俊夫のことを持ち出して、この奇妙な作家を一度は読んでみたいと思っている、と書いていた。

タルホとトッシー、こりゃあもうほぼ同一人物でしょう。

山崎俊夫もまた、少年愛を書いたデカダンスの作家で、今では完全に忘却の彼方、というよりも、そもそも好事家以外は識らない作家であるが、最近彼の全集5冊揃いがヤフオクに出ていて、うーん、欲しいなぁ、でも、持っている巻も2冊あるから……と悶々としているうちの落札、どこかへ消えてしまったが、この全集は限定450部、まぁ、レアであり、変態画家のアラステアの装画の美しいこと。

アラステアも変態だが、彼を囲うブルジョワ夫婦の愛犬の名前はクリトリス。

代表作は『童貞』。この『童貞』の初版本は30万円とかするんだが、最近ヤフオクに出ていたなぁ……これも。

で、最近山崎俊夫のことを調べていたら、訳者の生田耕作の息子さんが電子版全集を企てているとのこと、そりゃあ楽しみだぜ!是非実現してくれいってなもんだが、でも、限定450部を手に入れたマニアにとっては、やはり独占したい気持ち、電子化は複雑かもしれない。まぁ、出るかわからんけど。

とにかく、私の言いたいのは、西山金蔵寺は美しいお寺だということだ。
お山の上なので、大変に綺麗な京都の景色も見られますから。



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