マーケティングとかUXとかのカスタマージャーニーマップにも行動経済学を取り入れたほうがいいんじゃないか説~あるいは「ジョンが多すぎる」件について~

これからお話するのは、「体験」を扱っている方なら、どなたでも一度は意識しておいたほうがいいよ! と感じることです。

でもすべては、タイトルの通り。もうやってるわ! とか、「ピンと来た人」は、これ以上の情報はないので、またね!
みなさんに良きクリエイターライフがあらんことを!

ちょっと話を聞いてやるか、という方はお進みください。

マーケティングとかUXとかのカスタマージャーニーマップのおさらい

マーケティングでは、商品を購入してもらうためにユーザーの「感情」や「感じ方」を、接触段階ごとに分けたマップを作ります。
これをカスタマージャーニーマップと言います。
BtoBであれば契約に至るまでの道筋を、BtoCであれば商品を購入してからの道筋を示すのが一般的です。でも最近はあんまり関係なく「商品を知る前→商品を知る→商品に興味をもつ→購入に至る→商品体験→体験後の感想」まで全部を一貫して設計することが多いみたいです。

<例:整腸作用のある発酵飲料>
商品を知る前
感じ方「なんとなく調子悪いな」

商品を知る(テレビCM)
感じ方「ほう、お通じがねぇ。良くなるのねぇ。」

商品に興味をもつ(店頭POP)
感じ方「あ、テレビでやってたやつだ。気になるな。」

購入に至る(なんやかんや後押し)
感じ方「今なら増量中か。お得だし買ってしまうか。」

商品体験
感じ方「お、本当にお通じがいい感じだ。調子も戻ってきたな。」

体験後の感想
感じ方「これ、妻にも薦めてみようかな。」

こんな感じ。もうちょっと詳しくはこちらのページで書いています。

UXでもカスタマージャーニーマップを描きますが、そちらはちょっと形式が違います。商品を知る前/知った後/使っている最中/使った後/全体を通して、で感情の起伏とか感じたリアルな言葉とかを書きだします。
マーケティングのヤツと構造や目的は違いますが、これもカスタマージャーニーマップと言います。詳しくは、もっとちゃんとしたUXの人に聞いてね! 間違ってたらゴメンね!

行動経済学って?

従来の経済学は、「合理的な決定ができる人間」を想定して作られました。経済以外の分野にも経済学の合理性を応用しようとした学派(※1)が生まれ、その後ゲーム理論によって、人が取るべき「正しい行動」を「思考実験で導き出せる(※2)」ようになりました。

めちゃめちゃ雑に説明します。
「繰り返しのあるゲーム」におけるナッシュ均衡は「協力」です。
↑ようは、協力したほうがイイよね! ってことです。(って場面があるってことです。)

みんなで幸せになったほうがいいよね。当然。
それを踏まえて、以下の選択肢を見てください。

①自分が利益2を得て、相手は利益1を得る
②自分が利益1を得て、相手は利益2を得る
③自分は1損して、相手は2損する
④自分は2損して、相手は1損する

①を選ぶじゃないですか。当然。合理的なら。
①が禁じられているとしたら、②を選ぶじゃないですか。当然。
でも、相手のことが憎くて憎くてたまらなかったら?
しかも、自分の地位では手を出せないけど、どうしても痛い目に合わせたいとしたなら?

そんなとき、人は③を選ぶこともあれば、場合によっては「アイツが苦しむ姿が見れるんだったら、オレはその2倍苦しんでもいい!」と思って④を選ぶことすらもあります。
「人を呪わば穴二つ」というヤツです。これはつまり、「自分も穴に落ちるつもりでいけば、一人くらい道連れにできる」ということをも意味します。

ぜんっぜん合理的じゃないじゃん!
みんなで幸せになるんじゃなかったのかよ!?

おやつを食べなきゃ太らないってわかってるのに、食べちゃう。
起きたほうがいいのに、寝ちゃう。
予習しときゃいいのに、しない。

そうなのです。人類は合理的ではなかったのです。合理的な人類を前提にした経済学では、人類の日常をいい感じにできなかったので、もっと現実的に修正する必要がある、と気づいた人たちがいたのです。

そんな人たちが考えたのが、行動経済学です。

私のページでは、これとかこれとかで書いています。

もっとわかりやすくてオススメなのが以下です。経済学系VTuberの「バーチャルエコノミスト 千莉」氏。すっごく聞きやすくて声もステキなので、イヤミがない。私の文章みたいに、ところどころヘンになったりしないから、スッと入ってきます。最近のお気に入りです。
気になったら覗いてみてください。

<引用>
経済学系VTuber バーチャルエコノミスト 千莉
中学生でも分かる行動経済学

めっちゃわかる。私が中学生でもわかったと思う。

また、少し前に住友生命のバナナマンが出演しているCMでも日の目を見ました。どこかでナッジ理論の話が出てきていたと思います。

<引用>
住友生命 公式チャンネル

大企業と……超有名人と……。大きくなったな……行動経済学……オマエもう、オレの手が届かないところに行っちまったよ……。

経済学:(現実には存在しない)合理的な人間が対象
行動経済学:間違ったり、(ホントは理由があるけど)なんか意味わからん選択をする現実の我々が対象
上記のように理解しておきましょう。

そんな都合がいい「合理的な人」、現実におる??

ここでようやく本題です。

人は、合理的ではありません。
と、いうよりも「自分は正しいと思うことをやっている」んだけど、それがほかの人から見ると正しくなさそうだったりとか、間違ってそうに見える、というだけです。

前述の「④自分は2損して、相手は1損する」を選んだ人が、「相手が苦しむ様子を見て、幸せ100億ポイント入る」としたら、それは当人のなかでは、(そう、当人だけのなかでは、)「合理的で正しい選択」なのです。

感情、状況、勘違い、計算ミス、計算ミスが起こる程度や具合……そういったものを全部考え合わせて、現実的な人間像を対象に考えましょうね、っていうのが行動経済学です。

だとしたらさ!
カスタマージャーニーマップ、都合よすぎない?
合理的な人すぎない????
人の「体験」って、そんな合理的なもんだっけ???

ってことです。

これが、当ページのタイトルでもある「マーケティングとかUXとかのカスタマージャーニーマップにも行動経済学を取り入れたほうがいいんじゃないか説」の意味するところです。

マーケティングファネル上でパーシェプションチェンジを起こす際には、必ず離脱が生じます。
ですが、離脱した人の感情は想定しているでしょうか。

一部には効果があるけど、一部の人の逆鱗を逆撫でするような表現はしなかった?
その離脱は、ただの離脱? 強い意志をもった「敵としての離脱」?
そのデマンドジェネレーションを進んだ見込み顧客、本当にナーチャリングされてる?
そのリピーターが残ってる理由は、ロイヤルティが高いからで合ってる?

私たち提供者が想定している「合理的な」感情だけでは、説明できない事象や数値に直面したことはないでしょうか。私はあります。

非合理な感情や、勘違いや、計算ミスが、各所で発生していたからではないか、と考えたりしています。

部分最適だけでなく、全体最適にも行動経済学の理論を用いてみる

「CTRの低さがボトルネックだから、何とかしてCTRを上げよう。」
こんなとき、CTRを上げる施策の一つとして、行動経済学のプロスペクト理論だとかいろいろな手法が応用されるのは、見てきました。
ページのCVRという観点に関しては、私自身も取り入れてみたことがありますし、実際に効果がありました。

ですが、局地戦で部分最適として行動経済学の理論を取り入れるのではなく、全体最適になるように、戦術や戦略設計の段階から行動経済学の理論を取り入れてみることはできないでしょうか。

「強制ではなく、ちょっと促す」というナッジ理論とかは、割とすぐ行けそうです。その間に起こるユーザーの心理変化も、「非合理的で、勘違いし、計算ミスをしてしまう人間の感情」を想定してカスタマージャーニーマップをつくってみてはいかがでしょうか。

人の心は千差万別ですが、「ある条件とか、一定の範囲に絞れば、人の行動って決まってくるよね」という一般化の過程が行動経済学です。そもそも、再現性がなくて一般化できなかったら学問じゃないですし、ノーベル的な経済学賞を2回も受賞できているわけはないですからね。学問である以上、一般化できます(と、信じています)。

まとめ

・人間は、ぜんっぜん合理的じゃないってことを覚えておこう。
・合理的じゃない判断を予測しコントロールする学問、それが行動経済学。
・カスタマージャーニーマップの想定ユーザーが「合理的すぎないか」チェックしてみよう。
・超速理解する合理的な人をユーザーに据えていた場合、カスタマージャーニーマップの「段階の遷移」に関わる感情変化を一度見直してみよう。
・離脱者の心理変化にも注目してみよう。

今回のお話は、「体験」を扱っている方なら、どなたでも一度は意識しておいてほしいなぁ、と思う内容でした。

損失回避性とかいろいろ使える理論はあるけど、どうやって行動経済学を細かい一つ一つの施策単位へ落とし込んで応用していくかは、がんばってやってくれ!(丸投げ)

文中に例として示した私のページでは、手法単位で説明している個所もあります。今後も、思いついたり、やってみて効果があったり、聞いてみて良さそうだと思ったりした施策は、ページ化して共有していきます。参考になれば幸いです。

それでは、みなさんに良きクリエイターライフがあらんことを。

※1:経済以外の分野にも経済学の合理性を応用しようとした学派
現実の経済以外のさまざまな分野にも経済学を応用しよう、みたいな感じで出てきた人たち(wikipeでいうところの“合理的期待形成学派”のあたりです! ニワカ知識すまぬ)が、シカゴ大学とかその辺でいろいろやっていたので、シカゴ学派とも呼ばれているみたい。(反ケインズでアレしてたヴァージニアの人たちゴメンな!)
あの人たちは、なんでもミクロ経済学でイイ感じにしようとしちゃうんだ!
一時期、「シカゴ学派にあらずんばノーベル的な経済学賞を受賞できず」みたいな時期があったのは確かです。
アニメにもなって映画もやった「幼女戦記」は異世界転生モノではあるんだけど、シカゴ学派を地で行く人間味のない主人公が、それを突き詰めたらどうなるか? みたいな思考実験でできている、みたいな話を作者様のインタビューで読んだような気がするぜ! 検索してみよう!
上記作品の作者様も考えている通り「うん、破綻するよね。普通に。」って思う。転生の原因が、そもそも合理的じゃない部下の判断だし。合理的じゃないんだもん、人間って。

※2:「正しい行動」を「思考実験で導き出せる(※2)」
人間は合理的じゃないから、ゲーム理論で「正しい行動」を導き出せない。なら、合理的な存在って……いる? ……いるわ!! 自然界に!!!
……という方針で、絶対に合理的な存在である「生物」の分野にゲーム理論とかが持ち込まれたのが、行動生態学だ!(社会生物学とも言うみたいだけど、行動生態学って習った!)
オレはこれを学んでいたんだ!
遺伝できる遺伝子総数とかを想定すると、ちゃんと「進化的に安定な戦略」が思考実験で導き出せるんだ。
合理的な人(=経済学で定義したホモ・エコノミクス)は、ここにいたんだ……。
ちなみに、行動生態学の提唱者の一人が「ジョン・メイナード=スミス」さん。
近代経済学の父と呼ばれ、「マクロ経済はこの人から始まった」とも言われるスゴイヤバイ始祖が「ジョン・メイナード・ケインズ」さん。(シカゴ=ヴァージニア学派が「反ケインズ派」って呼ばれるときのケインズとは彼のことだ!)
ゲーム理論を生み出した一人が、超ヤバい超天才「ジョン・フォン・ノイマン」さん。
ゲーム理論のナッシュ均衡にも名前を残す超重要人物が「ジョン・フォーブス・ナッシュ・ジュニア」さん(ジョン・ナッシュってよく呼ばれるね)。
いくらメジャーな名前だからって、ジョンが多すぎるだろ。
(メイナード部分まで被るのかよ。)

※全体の注釈ですが、決して「だから、経済学は不要だ」というわけではないので、その点は誤解なきようにお願いいたします。


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