『行動を起こしてもらうための理論』を、ライティングに応用しよう~応用編~

前回のページでは、行動経済学のプロスペクト理論(損失回避性と価値の不均等)についてお話しました。

ここからは、それらを応用する手法をお伝えします。

ちょっとおさらいプロスペクト理論

簡単にプロスペクト理論をおさらいします。

損失を回避するような選択・行動をする。
人は、「新しく得ること」や「利益を増やすこと」よりも、「得ているものを失うこと」や「損失を被ること」を、より強く避ける傾向があります。

「価値の感じ方」と「数値」は一致しない。
1万円を得たときの精神的な回復が「10,000嬉しいポイント」だとすると、1万円を失ったときの精神的なダメージは「15,000悲しいポイント」、みたいな感じです。
「1万円」という「数値」は同じでも、「価値の感じ方」は、得る場合と失う場合で異なります。

価値の感じ方は置かれた状況で変わりうる

もう少し突っ込んだ話をします。

例えば、貧困に苦しんでいる人が1万円を得た/失ったときと、捨てるほど富を積み上げた大富豪が1万円を得た/失ったときでは、精神の動きはまったく異なる値になるでしょう。

貧困に苦しんでいる人が1万円を得たときには、「100,000嬉しいポイント」で、失ったときには「150,000悲しいポイント」かもしれません。
大富豪が1万円を得たときには「10嬉しいポイント」で、失ったときには「15悲しいポイント」かもしれません。

あるいは、あなたは昨日お酒を飲み過ぎて、めちゃめちゃ二日酔いで目覚めたとしましょう。
その瞬間に、二日酔い治す系ドリンクをもらったとしたら、どうでしょうか。本来は500円もしないものですが、その「嬉しいポイント」は間違いなく1,000や2,000よりも大きいでしょう。
およそ390円と等価値であったはずの物が、2,000円をもらったときをも上回るほどの「価値」に感じられることもあるのです。

このように、置かれた状況次第でいくらでも「価値の感じ方」は変わります。

「枠組み」が変わると「見方」が変わる

600人が恐ろしい病にかかりました。対策しなければ、死んでしまうでしょう。以下の4種の対策薬が開発されようとしています。どれを開発すべきでしょうか?

A:200人が確実に助かる薬。
B:2/3の確率で効果が無いが、1/3の確率で助かる薬。
C:400人には効果がなく、死んでしまう薬。
D:1/3の確率で効果があるが、2/3の確率で死ぬ薬。

お分かりだと思いますが、上記は実は、すべて同じ薬です。ですが不思議と、アンケートを取るとAに多くの「開発すべき」票が集まり、Cを開発すべきと答えた人がもっとも少なくなります。

必ず挙手してください、とお伝えしているので、「同じ薬だ」とわかった人も、どれかに票を入れてくれています。ですがそのうえでAに票が集まるということは、同じ物でも、伝え方で価値の感じ方が変わる、ということを表しています。

他人の価値の感じ方や、実際の商品などの数値を変えることはできません。だから、「どんな枠組みに入れるのか」を変えることで、「見方」を変えてもらうのです。

「枠組み」を意図的に変え、「見方」を変えてもらう

「枠組み=物事の捉え方」のことを、フレーミングと呼んだりします。

フレーミングを変えることで意図的に、読者に「提供する側が見てほしい視点」をもってもらうことができます。これをフレーミング効果と呼んだりします。

A:果汁5%
B:果汁以外95%

A:満足度97%
B:不満度3%

なかなか上記Bのようには表現しないですよね。

「有効成分500mg配合」とはいうけど、有効じゃない成分がどのくらいあるのかを伝えることはないでしょう。

特に気にしておきたい点は、損失回避性と価値の不均等により、ネガティブなものはより大きく、ポジティブなものはより小さく感じてしまうこと。
「満足度97%」といわれると「まぁ、そんなもんか。」と、実際よりも過小評価してしまうことに対して、「不満度3%」といわれると「ええ! そんなに不満なの!?」と、実際よりも過剰に反応してしまいます。
つまり、「満足度97%」と提示したときの反応は「普通」で、「不満度3%」と提示したときの反応は「悪い」になってしまうかもしれないのです。

フレーミングをうまく利用し、不利になる見方を避けると良いでしょう。

ウソは厳禁&やりすぎると敬遠される&騙されないようにしよう

「これをすると、得しますよ」というよりも「これをしないと、損しますよ」といったほうが、人は行動を起こす割合が高くなります。

このように、失うことを自覚させ、恐れさせる手法を「ホラーストーリー」と呼んだりします。
最悪の状況を突き付けておいて、そうなりたくないならこれを買え! という手法です。

効果は高いのですが、世にあふれかえっており、正直ウンザリしています。
(世にあふれかえっている、というのは、効果が高いから誰もが手を出している、という証拠でもあるのですが……。)

あまり恐怖を煽り過ぎると嫌われてしまうことにもなりかねません。一時的には売上や成果が上がるでしょうが、長期的に見ると顧客やユーザーの信頼を失ってしまう、継続できない手法です。

ホラーストーリーは、それを勧めるのが本当にユーザーのためになると確信できる、適切な場面でのみ使いましょう。

そしてもちろん、数値などにウソはいけません。よりセンセーショナルに感じさせるために数値を偽装すると、優良誤認などに当たる恐れがあります。

また、このようにホラーストーリーを多用している企業や製品は、一時的な商売をしている=長期的に続ける気がない=何かあっても責任を取るつもりがない、とも言えます。我々の購入行動は、ボランティアでも投げ銭でもありません。そのようなところから買うのは止めておくのが無難です。

まとめ

・価値の感じ方は、状況によって変わることがある。
・枠組みを意図的に変えて、価値の感じ方を変えてもらう。
・ホラーストーリーは有効だが、多用は禁物。
・ヘンな商品に騙されないよう、自衛のためにも覚えておく。

強い武器ほど、使う場面を選ぶもの。せめてその強い武器を使うときには、意味を理解して、覚悟して使いましょう。間違っても、強さに溺れて力に飲み込まれないようにしましょう。

次回は、もう少し最新の手法についてお話します。

それでは、みなさんに良きクリエイターライフがあらんことを。

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