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大学教員公募戦線における自分の立ち位置を推測する

基本的に、研究は優劣をつけるものではない。教育歴や経歴も、順位をつけて並べるようなものではない。「AさんはBさんより優れた研究者だ」と傍目に見えても、同一の領域・分野に関する研究しており、かつ同じ大学で同じ科目を同じ学生に教え同じアンケートを取らない限り、きちんと比較することは困難である。もしこの条件を満たしていたとしても、厳密に比較できていることにはならないだろう。卑近な表現を使えば、研究者はみなオンリーワンということだ。

しかし、大学教員公募戦線は、骨肉の争いである。デキ公募などの薄汚なさも垣間見える。そのような世界では、上記の綺麗ごとは通用しない。公募戦士には順位がつけられ、2位以下はお祈りという名の切り捨てを食らう。正確には書類選考で落選した応募者には順位すらつかない。順位は付けは、面接に呼ばれる多くて5名くらいが対象だ。

公募戦線におけるつらさの一つは、自分がどのくらいの位置にいるのかなかなか把握できないことだと思う。自分の順位が大体認識できるマラソンやリレーとはここが違う。手探りの中、自分の位置づけに不安を感じながら応募書類を作成し、日々ケータイを握りしめながら結果を待つのだ。

はっきり言って、公募戦士が自分の位置づけを知る手立てはない。先に述べた通り、アカデミックな世界は、少なくとも優劣をつけるのになじまないからである(極論、賞なども採点者の好みである)。しかし、こと公募戦線になれば、大学側は順位をつけざるを得ない。自分のおおよその位置づけを推測することは、書類作成や面接に臨むうえで重要である。自分に足りない部分(=研究者としてのこれからの課題)や十分な部分(=強み)を客観的にあぶり出し、それらは大学側に自分をアピールする際の武器となるからである。
なお、書類作成のコツや、選考時にどのような点が見られているのかということについては、主に下記の投稿で述べてきたので参照いただきたい。

以下では、自分の位置づけを知るためにできることについて、簡単に記す。
私が時々言及する「学振特別研究員」は、1つのヒントになりうると考えている。採用にも運要素はあるが、一応、「優秀な若手研究者」としての分かりやすい品質保証であるからだ。もちろん、優秀で収入も十分にあるため敢えて学振に応募しない学生もいるし、極めて優秀でありながら運悪く三振(DC1、DC2(1回目)、DC2(2回目)で落選したことを指す)を喫した学生もいるため、これを絶対視することはできない。学振ホルダーでなくとも優秀な若手はたくさんいる。

文科省によれば、令和2年度時点で博士後期課程在籍者の人数は、75345人である。単純計算で、大学教員公募に参戦し始めるD3(博士後期課程3年のこと)は25000人といったところか。正規修業年限を超すD4、D5、D6もD3に含めて考えることが多いため、実際にはもっと多いだろう。
【参考:www.mext.go.jp/content/20210427-mxt_kiban03-000014622_5.pdf

D3の25000人(令和2年度)のうち、学振ホルダーは、基本的に平成30年度のDC1(3年任期)採用者695名、平成31年度のDC2(2年任期)採用者1094名の半数である約547名、令和2年度のDC2採用者1094名の半数である約547名(同じ!)の計約1789名ということで、およそ7パーセントということになる。
【参考:採用状況 | 特別研究員|日本学術振興会 (jsps.go.jp)
なお、半数としたのは、DC2には博士後期課程であれば誰でも応募資格があるからである。D2、D3の採択者がいるため、ざっくり半数とした。全く厳密ではない点はご了承願いたい。

そして、学振により令和3年4月に発表された特別研究員DC令和2年度終了者の就職状況によれば、DC終了直後に常勤の研究職に就いた者は、50.5%、約半数である。
【参考:r3_dcgaiyou.pdf (jsps.go.jp)

各年度の採用者は、学振のページで氏名と所属が公開されている。DC1、DC2のページから、自分のライバルになりうる将来の公募戦士を探していただきたい。彼らは、凡そ上位7%の若手であり、そのうち約半数が公募戦線を勝ち抜く者である。
【参考:採用者一覧 | 特別研究員|日本学術振興会 (jsps.go.jp)

現在は、researchmapがある。博士後期課程の学生でも、自分のページを持っていることが多い。そこでは、経歴、論文、学会報告等の記録をチェックすることができる。ライバルの名前を検索し、彼らがどのくらいの業績を積んでいるのか、参考にしてみるといいだろう。
比較して遜色なければ、善戦できるということだ。業績が見劣りするようであれば、教育歴や社会貢献など、他の部分で勝負した方が良い。公募戦線では、業績は重要だが最終判断材料にならないことの方が多い。別の記事で書いている通り、他の部分で戦うことも十分可能だ。年齢や研究分野の将来性等で決まる場合も多々ある。

先にも述べたが、この業界で自分の立ち位置を正確に知る術はない。ただ、書類提出後、研究に手がつかず悶々としているぐらいなら、これくらいのことをして、自分の立ち位置を想像するのもいい暇つぶしになるだろう。ライバルの頑張りに刺激を受けて逆に気合が入るということもある。

ちなみに、私がD3の頃、同じように情報探索をしたところ、ライバルとなりそうな近接分野の同学年の学振ホルダーは7名いた。そのうち私含め3名が、その年に就職を決めた。本稿の内容はザックリ計算&憶測が多く信ぴょう性に欠けるのは言うまでもないが、実体験から離れているわけではない。

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