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大学教員になるためにすべきこと:公募の書類作成、面接、模擬授業に向けて(更新用)※2023年4月3日更新

 私が執筆した中で最も閲覧数が伸びているのは、大学・研究関連の記事です。大学教員公募に関する有料記事へのアクセスも伸びています。ご購入いただいた方、感謝申し上げます。
 本記事は、1か月に1度くらいを目途に更新しつつ、私が執筆してきた大学教員公募、学振、研究関連の記事の道案内的な役割を目指すものです。トップに固定しているのは、こうした理由からです。
 最後の部分では、私が公募戦線で戦うにあたり、特に参考にさせていただいた記事を紹介させていただきます。公募は、学問分野によって状況が大きく異なります。それゆえ、私の経験がずばり当てはまるのはごく一部の方で、多くの方には参考程度にしかならないこと、予めご承知おきください。
 私の特定されない程度のプロフィールは下記の通りです。

 専攻:社会科学分野
 年齢:30(採用時:28歳)
 職位:准教授(採用時:講師) 
 学位:博士(採用時:見込) 

 これまで、大学教員公募に関する記事を中心に、細々と執筆してきました。有料記事を買われる方の大半が、公募戦線の最前線にいる方かと思います。多くの記事やtweet等で指摘されていますが、大学教員公募に関する情報で出回っているものは極度に限られています。喉から手が出るほど欲しい、鮮度のいい情報はほとんど見かけません。私は、こうした状況を念頭に、できるだけ生々しい情報(採用人事の裏の会話、面接で聞かれたこと、実際に提出し内定をいただいた書類など)が書けるよう心がけています。
 ただでさえ情報が少ないうえ、比較的早い段階から大学教員を目指す方(学部生、修士課程)を対象にした記事に至っては、ほぼ皆無です。
 そこで本記事では、どのような人材が大学教員公募において求められているのかを考えつつ、大学教員を目指す方がしておくべきこと(あるいは身につけておくべき技能)について、年齢の大きい方から逆算的に記述します。研究業績だけで大学教員になるのは不可能です。むしろ、大学における教育にどれくらい貢献できるか、一緒に働く人間としてふさわしいか、といった点の方が、選ぶ側にとっては重要です。業績を積むのは努力次第でなんとでもなりますが、教育や人間性については手探りな部分が多いかと思います。以下では、100%私の主観ではありますが、こうした点について記述していきます。学部生は「B」、修士課程学生は「M」、博士課程学生は「D」と表記する部分があります。

前提:大学側から求められる人材とは

 当然ですが、これは大学によって様々です。どれだけ優秀でも、年齢、性別、国籍、居住地域など、能力とは関係のない部分で候補外になってしまう場合も多々あります。
 しかし、それ以外の部分(=努力と才能で何とかなる部分)についてみれば、「採用側が欲しくなる研究者像」というのはほぼ共通しています。逆に言えば、そのような研究者像の要素を押さえておきさえすれば、どうしようもない部分で勝負せざるをえない公募以外で他の候補者達と対等に戦うことが可能になります。その要素とはなんでしょうか。
 当然、まずは研究能力です。ここが最低限の基準に達していなければ戦場に立つことすら許されません。分野によって様々ですが、私の属する社会科学分野でよく言われる最低ラインは、【博士課程に在籍して以降の年数分の論文】です。D3から公募戦線に参加するのであれば、3本です。ただし、これはあくまで最低ライン。ボーダーすれすれの方が採用されるわけではありません。公募には現職の先生方も参加しています。経験値の高い研究者と研究面(将来性も含めて)で台頭に渡り合うには、最低ラインの倍はあった方がいいでしょう。この「倍」というのは経験則です。私はD3の時、手元には6本の論文がありました。これで8戦2面接2採用(同時期の採用通知だったため片方辞退)です。採用ギリギリのラインは、やはり「倍」あたりではないでしょうか。
 ほんの一握りの国内トップ大学の中には、研究能力「のみ」を見ているところもあるようです。しかし、これは例外中の例外です。ほぼ全ての大学では、研究能力以外の部分もガッツリ見られています。どのようなところでしょうか。
 第一に、学生を教育する能力です。大学は研究機関であると同時に、学生に高等教育を授ける場でもあります。そのような場で「教育できない」「教育に携わった経験がない」のでは、話になりません。
 第二に、コミュニケーション能力です。人格や立振舞い、清潔感も含みます。大学も、人間の組織です。採用側は仲間を探しているのです。コミュ障、人格破綻者、空気の読めない方、清潔感のない方が敬遠されるのは当然です。
 第三に、学内業務をこなす能力です。大学は、研究、教育以外にも各種委員会や雑務により成り立っています。雑務をこなすのは、何も事務職員だけではありません。教員も「職員」ですから、学内業務もたくさん担当します。細々とした仕事をテキパキこなせるかも重要なポイントです。
 研究に加えて、上記第一から第三の能力値が満遍なく高い方は、採用側も安心して選ぶことができます。むしろこういう人を選ばない理由はありません。「何故この人を採用しないのか」と言われる研究者を目指しましょう。
問題は、これらの能力をどのタイミングでどのように習得しレベルを上げていくかです。先述したように、大学教員を目指す段階は、人それぞれです。以下では、年齢の高い順から逆算的に、どのようなことに備えておくべきかを考えていきます。

1.【公募戦士】(D3および博士号取得以降)

 正直、この段階まで来るとできることは限られています。第二の点に関係する「人格磨き」はほぼ不可能でしょう。ここまできたら、その他の項目でできる限り履歴書・調査書を華やかにすることに注力していくべきです。
 第一の点について。学生を教育する能力は、履歴書および調査書の「教育歴」から推察します。最低レベルは「教育歴無し」です。この場合、教育能力を客観的に証明するものはありません。面接や模擬授業を頑張るしかありません。ただし頑張っても期待薄でしょう。次のレベルは、「非常勤歴1年」です。歴無しとは雲泥の差です。しかし、1年だけでは経験値は証明できても、その授業の評価については不明です。授業等に何かしらの問題があり契約更新ならなかったのでは?と邪推されることもあるでしょう(経験談)。一方、好印象を残せるのは、「非常勤歴2年以上」or「複数校で非常勤経験あり」です。理想は複合型です。2年以上同じ大学で教鞭をとっているということからは、少なくとも無難な講義を行う能力を備えていることが推察されます。複数校での担当は、様々なレベル・校風の大学に対応する力量があることの証左となります。
 第三の点について。学術研究員や助手などの身分であれば、雑務も積極的に引き受けましょう。大学教員になってから、研究・教育とは関係のない仕事をこなす能力が問われます。面接では、雑務について質問されることが多々あります。でっち上げの回答はバレますので、経験を積み具体的な話ができるよう備えておくことが重要です。
 研究業績を重ね続けることが重要なのは言うまでもありません。先ほど、「倍」を採用ラインとして話しました。容易ではありませんが、年2本の論文執筆を目標に、研究を進めていきましょう。「無茶な」と言いたくなりますが、愚痴をこぼしている間にライバルは2本、3本の論文を書いているのです。
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以下は記事紹介です。有料記事も含みます。
○大学教員公募全般については、次の記事を書いています。どのような書類を作成すべきか、面接で聞かれることはなにか、どのように答えるべきか、模擬授業はどのように組み立てるべきかなどが内容です。私が当時、どれくらいの業績だったのかも記述しています。無料部分もかなりの量がありますので、特に公募戦士になりたての方は是非ご参考に。

○公募にあたり、添え状や抱負等で何を書けばいいのか分からない可能性もあります。その時に、私が書いたものが参考になればと思い公開した記事です。個人情報に関わる部分は○○、△△等で編集していますが、内定を実際に頂いた時に作成したものですので、困っていれば見る価値はあるかと思います。

○意外と好評の(最も売り上げが多い)記事です。人事の裏話ということで、私の採用人事を担当した先生と居酒屋で飲み話をした際のものです。選考においてどの点を重視するのか、なぜ優秀な方が書類選考落ちになっていたのか、かなり生々しい話を収載しています。※2022年7月30日更新

○公募の感想戦です。私が見事に落選した大学にどのような先生が着任したのかを追った記事です。なぜ公募戦線が厳しすぎると言われているのかを推察することができます。

〇私は、公募書類に独自に作成した(学生のコメント付き)授業評価アンケートを忍び込ませました。面接官のウケは抜群でした。公募戦線における武器になると思い作成した記事です。実物を公表していますので有料です。

○大学教員の恋愛事情です。気になる人は是非。公募の参考になるわけではありません。

〇公募書類を出した後のソワソワ感に関する雑感です。「出したら忘れろ」と言われても、無理だと思います。特に力を入れた書類ほど…。そんな気持ちについて書きました。

〇コネの作り方です。大学教員公募において、コネはないよりあったほうがよいです。この記事では、私が行っていたコネ作りを紹介しています。

〇私が内定を勝ち取った際に提出した教育研究業績書と自己評価報告書です。合格ラインが見えてくるかもしれません。悩んでいる方は参考にしてください。

2.【大学院生】(M1~D2)

 公募戦士になってからできることは限られています。しかし、特に修士課程であれば、できることにはかなりの幅があります。もちろん博士課程前半の方もです。
 先ず、研究能力があることを示すことのできる「客観的な証」を手に入れましょう。学会での賞や懸賞論文は積極的に狙っていくべきです。最たる「証」は、学振特別研究員に採択されることでしょう。これ自体は運要素も確かにあるのですが、専門が細分化されている研究業界で客観的に研究能力を評価するには、やはり学振の有無が大きな指標になります。
 M1の方は、まずDC1を目指しましょう。申請はM2の5月末です。申請にあたっては、学会発表や論文などの業績がある方が有利です。指導教員や先輩に相談し、まずは1本、論文を書く機会がないかどうか、積極的に探っていきましょう。M2(秋以降)、D1、D2の方でまだ学振の機会に恵まれていない方は、是非DC2を目指してださい。採択されることにはお金以上の価値があります。この業界では、就職するまでは金より「優秀な若手」であることの証の方が重要です。学振は申請書を書くこと自体にも意味があります。これまで研究を振り返り、今後の研究に思いを馳せる機会となるからです。
 第一の点・教育能力について。修士課程の段階で非常勤先を探すのは至難の業です。ここでは、予備校の口を探してみるのはいかがでしょうか。予備校での講師歴は、履歴書には書けませんが話のネタとしては十分です。博士課程に進んだら、是非非常勤の仕事を見つけてください。D2で見つけてD3でも継続できれば、「非常勤複数年ライン」をクリアできます。これは、先述のようにかなりのアドバンテージになります。非常勤の仕事を見つけるためには、先生や先輩の協力が必須です。「教歴がなければ非常勤にもありつけない」という意味不明な業界です。一コマでもまかせてもらえるように、必要なコネは早い内から構築しておきましょう。
 第二の点・コミュニケーション能力について。まだまだ若いこの時期、必要なコミュニケーション能力を身につけることは十分可能です。個人的にベストだと思うのは、幅広い年齢の方と接することのできるアルバイトをすることです。コミュ力は、大学の教職員はもちろん、学生との間でも必要です。そのような時に、学生時代の経験が生きるのです。ただし、研究活動に本腰を入れなければならない時期にバイトをしろというのも酷かと思います。そうであるならば、積極的に学内の人と交流する機会に参加してください。サークルでも、大学主催のイベントでも構いません。参加して、同じ研究室以外の人と話すようにしましょう。大学院時代、生活のどこかで必ず研究の孤独さに気づきます。孤独のままではコミュ力はどんどん失われます。コミュ力皆無状態になることはなんとしても避けなければならないため、むりやりでも「人と話す機会」を作りましょう。
 第三の点・学内業務について。大学院は、ある意味研究室や先輩の「奴隷」としてこき使われます。学会の事務作業、学内の研究会のとりまとめ、資料の整理、校正作業の手伝い、学部生向けの進路相談会、高校や予備校への出張講義の帯同、etc...私は、声がかかればこれらには積極的に関わっていくべきであると考えています。研究との両立は大変ですが、将来への準備だと考えて無償でも引き受けてください。出張講義など外部での活動は、社会貢献として調書に書くことができます。面接に呼ばれた際には、直接事務能力を問われます。その際に、大学院時代にやってきたことがあれば具体的に語り倒すことができます。何事も経験です。また、人的なつながりを広げることにもつながります。私が公募戦士だった頃、相談に乗ってくれたのは指導教員ではなく、出張講義でご一緒した専門が少し離れた先生でした。
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以下は、院生生活に関連してこれまで私が書いた記事です。
○学振の申請書全般について。あまり皆が言っていることを繰り返しても面白くありませんので、私の主観で正直に思っていることを書きました。

3.【学部生】(B1~B4)

 学部生のうちに将来の選択肢の一つとして大学教員を考えることは非常によいことです。過酷な道であることは否めません。ただし、覚悟があり相応の準備ができるのであれば、数年後、大学教員公募の最前線で戦うことができるかと思います。まず、なによりも研究をすすめるための基礎固めをしておくことです。大学院に入ると、自分の研究に没頭していくことになります。それまでに、文理問わず幅広い知識を身につけましょう。
 講義は、とにかく興味があれば片っ端から履修すること。恐れずに質問すること。学部生時代は、間違えることを恐れる必要は全くありません(大学院、教員とステップアップするにつれて、間違える・分からないことが恥ずかしいという感覚になってきます。それもどうかとは思いますが。)。疑問に思うことがあればとことん追求してください。
 ただし、メリハリはつけたほうがよいです。。自分が専門的に研究していきたいと思う領域に関する本や論文については、B3またはB4頃からたくさん読んでおくことにしましょう。試しに論文調の眺めのレポートを書いてみるとよいかもしれません。先述したように、M2の時に学振DC1に挑戦することになります。ということは、M1の前半頃にはM2の初夏時点で実績として数えられる論文を仕上げておく必要がある(公表にはある程度の時間がかかります)。そのたたき台となりうるものをいくつか仕上げておくと、あとあと焦らずに済むでしょう。
 文章力も鍛えて置いた方がよいでしょう。論理がおかしい、一文が長いなどのヘタクソな文章は、読み手に不快感を与えます。というか読む気が失せます。また、その方がいかにこれまで文章を書いてこなかったかが分かります。本を読んだメモを書いて残す、レポートを書くなど、普段から文章を書く癖を付けておくことをお勧めします。
 それでは、研究以外の点についてみていきましょう。先ず第一の点・教育能力について。「教育」というものに積極的に関わることをお勧めします。塾や予備校で講師(できれば集団授業の講師)を担当しておくことが理想です。人前で「教える」ことは、はじめはみな緊張するものです。後にこの経験の差は如実に表れるでしょう。ただし、私は必ずしも塾や予備校である必要はないと考えています。「教える」ことが経験できればどこでもよい。スイミングやスポーツクラブ、あるいは書道教室や音楽関係の講師などでもよいでしょう。「分かりやすく」「感じよく」「丁寧に」というのは、どの教育現場においても共通して求められます。これらを理屈ではなく経験的に身体が覚えていることが重要なのです。
 次に、第二の点・コミュニケーション能力について。これはむしろ学部生の内に身につけておくべきものだと思います。「研究者を目指すには全ての時間を勉学に注ぐべき。バイトやサークルなどやってられない。」などと古くさいことを宣う方が時々いらっしゃいますが、これには全く同意できません。研究は独力ではありません。人的なつながり、環境、報告を聞く人とのコミュニケーションなど、様々な社会的要因が複合した結果成立し前進するものです。社会性を欠かすことはできないのです。自分の殻に閉じこもった勘違い研究者にならないためにも、外に出て様々な経験をしてください。やはり、アルバイトが一番かと思います。塾や予備校がよいということは先述の通りですが、もっともっと幅広い視野を持つことも重要です。私は、学生時代、諸事情有り予備校以外にもデリバリーや工場の清掃もやっていました。本当に色々な方がいました。工場のおじ様に「おまえ九九できるか?」とニヤニヤしながら言われたこともあります。そういったことも含めて、色々な方と関わってきたのは今振り返れば良い経験です。将来研究者として独り立ちしたときの赴任先も、超一流大学から経営も危ぶまれる所謂Fラン大学まで広い可能性があるのです。
 第三の点・学内業務については、正直学部生の段階ですべきことはありません。学部生は言ってしまえば(特に私大では)「お客様」なので、こき使われる機会がほとんどないのです。ただし、大学院進学後にお世話になるであろう先生方と親しくなり、その先生の雑用係を買って出るのは悪くないかと思います。後々につながってきますので。
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○学部生一般(高校生も含みます)に向けて、よりよいレポート、文章をテーマに書いた雑文です。興味があればお読みください。

○研究者を目指す学生、を念頭に書いた記事です。貴重な学部生時代をムダにしないよう、過去の自分への戒めも兼ねて執筆しました。

4.参考になる記事

 私が大学教員を目指し精神的にも不安定だったときに読み、参考にしていた記事です。有料記事も混じっています(やはり一般に出回る情報は少ないので、値段にもよりますが読む価値はありました)。大変参考になりました。顔も分からないですが、書かれた先生方には心底感謝しています。必ずや皆さんの参考にもなるかと思います。
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○大学の教員公募61敗3勝 様

○ダイガク享受 様

○Deus ex machinaな日々 様

○大学教授になるには 様

 本記事は、個々の記事の更新に合わせて修正・改良を重ねていく予定です。大学教員を目指すというのは、本当に体力・精神共に削がれていきます。息が詰まったとき、疲れたときに、リフレッシュの一助になればと思います。
 長文をお読み頂きありがとうございました。



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