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【大学教員公募】大学側のニーズをどう読み取るか、具体例を使って考える

 これまで、いくつかの記事で、独りよがりな(=自己アピールだらけの)書類は避けるべき、大学研究を怠らぬよう、といった類のことを書いてきた。本記事では、これらについてもう少し具体的に掘り下げて考える。
 公募戦線で戦い疲れて書類を使い回している人と、精魂つぎ込んで書類を作成し面接準備をしている人との差は、大学側のニーズをどれだけ理解しているかといったところに表れる。本記事もあくまで私の主観にすぎないが、有利に書類作成・面接準備を進めるための参考になれば幸いである。
 ちなみに、本記事で扱う公募は、私の専門とは関係ない。関係なくてもこれくらいは調べられる、推測できる、ということでお読みいただきたい。
 
 例として、「英語」「地域研究」でヒットした共立女子大学の公募を素材に検討してみる。
 公募情報は以下の通り。
求人公募情報検索 : 研究者人材データベース JREC-IN Portal (jst.go.jp)

 締め切りを過ぎれば見れなくなるので主な内容をコピペしておく。
<求人内容>
【専門分野】 
グローバル社会におけるイギリス(GSE=Global Studies in Englishプログラム)
* GSEプログラムについては、以下の本学HPを参照。
https://www.kyoritsu-wu.ac.jp/academics/undergraduate/kokusai/gse/
【仕事内容〕】 教育研究及び大学・学部の公務
【主な担当授業科目】
1) GSEプログラムとして開講される講義科目、とくに「グローバル社会におけるイギリス」に関係する科目(「Topics in UK Society」、「European Area Studies I (UK)」など)
2) 外国語科目としての英語
3) 1~3年次の演習科目
4) 4年次の卒業研究演習
5) (将来的には)英語での大学院GSE関連科目
6)その他輪講科目

<応募資格>
専門分野に関して、教育研究上の能力を有し、以下の要件を満たす方
1) 博士の学位を有する方(2023年3月取得見込みを含む),もしくは修士の学位を取得した 方で博士学位取得者と同等の研究業績を有する方。
2) 英語が母語であるかまたはこれと同等の英語力を有し、国際学部および大学院研究科のGSEプログラム関係科目を担当することができる方(大学、研究機関等で英語教育または研究活動の経験があれば望ましい)。
3) 本学部の教育に合致した教育活動ができ、かつ大学・学部の行事・業務・運営等を積極的に担う意欲のある方。
4) 学部の海外研究旅行等の企画・引率に意欲と実行力をもって関わることができる方。
5) 日常的な事務連絡等に支障のない日本語能力を有する方(日本語の読み書きができればなお良い)。
6) 在任中、首都圏に在住できる方。

<応募書類>
1)教員個人調書1部・教員教育研究実績書1部
 ※教員個人調書 必要に応じて、各項目欄を調整して作成ください。日本国外から出願される方は、1 ページ目の入国管理局等の記載は不要です。 高等学校卒業以降の学歴・職歴、非常勤講師としての職歴についても記載してください。
 ※教員教育研究業績一覧(研究業績には概要と査読の有無を明記) 教育業績については、各種免許・資格、教材の作成、教育に関する表彰等の項目別に記載し、これまで担当した授業の一覧を添付してください。
2) 教育・研究・実務の業績を示すものの別刷り、または写し3点以内、およびその要約 (各1000字程度)
3) 本学部2年生対象科目「Topics in UK Society」の授業計画(14回分)
4) 学位取得証明書または最終学歴証明書(コピー可)、日本語能力を証明する書類(日本語能力試験など)を有する場合は、その証明書類のコピー。
5) 選考過程で、応募者について照会可能な方1名の氏名および連絡先 (所属・職位、電話番号、Emailアドレス等)
6) その他、教育業績として最近の主要な担当科目のシラバスおよび授業評価 (学生アンケート等)が行われている場合はその集計結果を提出してください (教授歴のある方)。 ※提出書類は、日本語または英語で記載してください。

1.公募の背景を推測する

 同大・国際学部の教員一覧を見てみる。すると、イギリス研究についてはAnthony Mills教授がご専門だということがわかる。Anthony先生の年齢について詳細な情報はないが、J-Grobal等を見ればイギリスの大学を1979年に卒業しておられることがわかる。卒業年から年齢を確定することはできないが、大体21,2歳分を引けば、生まれた年を推測することができる。おそらく今年64歳か65歳というところだろう。同大学の定年を調べてみると、65歳である。十中八九、Anthony先生の後任の先生を探しているということだろう。氏が御年65歳であれば入れ替わり、64歳であれば1年の引継ぎ期間(?)を設けるといったとこだろうか。
 どのような年齢の後任を探しているかだが、Jrecinでは専任講師or准教授or教授としており、判然としない。しかし、この時期の公募で現職の教員が動くことは稀である。むしろそのような応募については、現勤務校に多大な迷惑をかけることになり、将来的に自分たちも迷惑を被る可能性があることが推測される。デキ公募など特別な事情がない限り敬遠されるだろう。そうした事情だけでも、ほぼ若手狙いとみて間違いない。別の角度から、教員の年齢別構成をみてみると(教職員数(大学・短期大学) | 事業概要 | 共立女子学園 (kyoritsu-wu.ac.jp))、若手教員が極端に少ないことが分かる。国際学部は、全教員26人中20代は0人、30代は1人だ。こうしたところを見ると、やはり若手の専任講師あるいは准教授狙いが濃厚であろう。
 ただ、Anthony先生の定年であれば、そもそも計画公募で初夏頃に募集されていた可能性もある。この時期の公募ということで、すでに決まっていた人から逃げられたかとか、もともと若手狙いだとか、様々な背景を考えることができることが面白い。

2.公募内容から求められている人物像を具体化する

 同大は、求める人物の専門分野をGrobal Studies in Englishプログラムとし、このプログラムの内容については大学HPを参照するよう促している。応募資格についても、「英語が母語であるかまたはこれと同等の英語力を有し、国際学部および大学院研究科のGSEプログラム関連科目を担当することができる方」としている。英語での講義を支障なく行うことができる能力が不可欠であるということだ。英語が母語である場合を除けば、英語圏での長期留学経験や英語での学会報告・論文があれば有利であろう。さらに、外国語科目としての英語担当も期待されている。最低限の教歴を持ち、かつTOEIC、TOEFL、英検等の指導ができるとよさそうだ。
 演習担当も期待されている。学生と円滑なコミュニケーションを取ることができ、学生に好かれそうな人物が好ましい。清潔感や謙虚な性格は不可欠である。女子大ということもあり、ハラスメントとは縁遠い人かどうかも重要であろう。大学院担当も期待されているが、ここでは「将来的に…」という留保が付されている。話が前後するが、やはり若手を想定していることがここにも表れているのだろう。提出書類については、大方他の公募とは変わらないが、「その他、教育業績として最近の主要な担当科目のシラバスおよび授業評価が行われている場合はその集計結果」としている点は刮目に値する。応募者がどのような授業をしているか、学生からどのような評価を受けているのかということに強い関心があるのだろう。授業評価アンケートの効用は絶大なものである。この点については、以下の記事を参照されたい。

 応募資格には、「博士号取得者(見込みも含む)もしくは修士の学位を取得した方で博士号取得者と同等の研究業績を有する方」とある。原則博士号取得者であるが、見込みでも、あるいは研究業績を順調に積んでいれば修士でも望みはある。是非とも採用したい人物がいれば、たとえ修士であっても採用するということだろう。「同等の研究業績」というのは、やや強引に言い換えれば「どうしても採用したくなったら、最低限の業績があれば大学側で何とか理由をつけます」ということだ。無論、論文1,2本であればさすがに「同等」云々いうことは難しい。これまで執筆してきた記事でD3で3本(=博士課程進学後の年数分)が最低条件、6本(その倍)が理想と書いてきたのは、一般的な博士論文のボリュームを勘案して「同等感」がどれくらいの量に表れるかを考えて書いたものだ。

 加えて、「学部の海外研究旅行等の企画・引率に意欲と実行力をもって関わることができる」とある。この点は、経験がものを言う部分だろう。海外でのフィールドワーク経験がない人が「できます!」といったところで説得力に欠ける。これまでの研究経験に裏打ちされる企画力やリーダーシップが求められている。

3.大学側(=法人側)が求める人物像を推測する

 さらに、自分が公募内容に合致する人物であることを示しつつ、かつ大学(=法人側)が求める人物像も意識しておくべきである。「ここまで調べていてすごい、熱意を感じる」と感じさせなければ損だ。
 同大のHP(共立女子大学、共立女子短期大学の各種方針 | 総合案内 | 共立女子大学・短期大学 (kyoritsu-wu.ac.jp))によれば、求められる教員像は下記のとおりである。少々長いが引用する。
 「本学の教育方針を充分に理解した上で、教員としての職務と責任を真摯に自覚、実践し、以下に掲げる項目を遂行する能力・資質を有すると同時に、日々これらの能力・資質の向上のための改善努力を惜しまない教員。
1.本学の「建学の精神」ならびに「校訓」を踏まえ、KWUビジョンを十分に理解している。
2.大学・短期大学及び各学部・科等並びに各研究科の教育の理念と3つのポリシーに基づき、学生の能力向上を目的とし、熱意をもって教育・指導を行う。
3.学生のリーダーシップ(他者と協力し、助け合い、共に物事を進めていく力)を育み、社会に広く貢献できる自立した人材を能動的に育成する。
4.研究活動を継続的に実践し、優れた研究業績をあげ、その研究成果を学生に教授し、また広く一般にも発信することによって、社会に積極的に貢献する。
5.大学の構成員として、自ら率先して行動し、さらには他の教職員と協力して円滑な大学運営に寄与し、本学の目的を達成するために尽力する。
6.本学が考えるリーダーシップを有し、その力を常に磨き、様々な場面で発揮できる。」
 裏を返せば、上記の要素が欠けている教員は必要ないということだ。がむしゃらに書類作成・面接準備に臨むのではなく、これらの要素1つ1つが自分のどの部分に当てはまるか考えなければならない。3つのポリシー(=ディプロマポリシー、カリキュラムポリシー、アドミッションポリシー)にももちろん目を通しておく必要がある。
 こうした点を見ていると、社会経験が殆どなく研究しかしてこなかった人が、上記「3.学生のリーダーシップの醸成・社会に貢献できる人材の育成」にどれくらい資することができるかは大いに疑問である。一方、学生時代からボランティア活動やアルバイトを通して社会と広く接してきた人は、自分がどのように役立つことができるか、自らの経験から具体的に答えを考えることができるだろう。「4.社会への貢献」を重視している点を見ても、研究成果を積極的に外部に発信できる能力や、出前講義・各種委員といった業務に携わってきた経験があれば有利であろう。
 建学の精神等も、もちろんチェックしておくべきである。それを自分なりにどう理解するか、考えておいた方が肝要だろう。同大の建学の精神は、「女性の自立と自活」である。「女性の自立」「女性の自活」とは具体的にどのようなことを指すのか、大学の設立経緯を踏まえて自分なりの答えを考えておくべきである。

4.自分に求められる役割を自分なりに明確化する

 どのような役割がそのポストに求められているのか、知ることは困難である。しかし、情報を収集し自分なりにある程度考えておくべきだ。
 例えば、同大のカリキュラムポリシーにおいて公開されている履修系統図や科目ごとの概要・到達目標(人材養成目的・3つのポリシー | 国際学部 | 学部・短大・大学院/教育 | 共立女子大学・短期大学 (kyoritsu-wu.ac.jp))を見ると、自分が担当するであろう科目が大学においてどのように位置づけられているかが分かる。
 これによれば、「グローバル社会におけるイギリス」は、Topics in UK Societyとして1,2年生向けに設定されている。履修系統図によれば、1年次は基礎科目、2年次は基幹科目を履修することとなっている。この科目のシラバスや模擬授業は、1,2年生向けのものでなければならないということだ。イギリス社会について基礎から説明しつつ(基礎)、一歩踏み込み3年時以降の「発展」の軸となるであろう、社会構造・法制度・民族的多様性といった要素(基幹)を各所に散りばめた授業が理想的である。3,4年生向けに、自身のマニアックな研究成果をひけらかすような授業は、少なくとも求められていない。それよりも、基礎的な事項を丁寧に、学生の興味関心を刺激するように講義する能力の方が重要である。

 色々と情報を探していればキリがなく、他にも書くべき事項は山ほどある。冒頭に「独りよがりな書類にならぬよう」などと書いたが、応募書類の推敲を重ねることと並行して大学研究を進め、公募戦士としての自身の理想像を整えることがなにより重要であろう。
 この公募に全く関係のない私ですら、これだけの情報をネットから入手しイメージすることができる。いわんや採用を勝ち取るために必死になっている方はなおのこと、募集要項と大学の情報に穴が開くほど目を通し、大学側のニーズをより具体的にイメージすることで自らの経験・業績とリンクさせつつ、書類作成・面接準備に臨むことをお勧めする。

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