見出し画像

グラフィック・デザイナー(50代)の苦悩 テーマ#07 ジャイアンな思想の人

みなさん、こんにちは。フリーランス・グラフィックデザイナー(50代)のブブチチと申します。デザインを生業にして30数年。気がつけばシニアと呼ばれるにふさわしい年齢になっていました。noteでは、デザイナー人生においての出来事や学んだ事を自身の体験を交えながらつらつらと自由に書き連ねています。お時間ございます時にゆるくご一読いただければとても嬉しく思います。

「私、◯◯◯社がやってるこの広告がすごく好きなんですよ〜。ちょっと急ぎで明日までしか時間ないんですけど、写真差し替えて、これをわが社バージョンにちゃちゃっとアレンジしてくれませんか。それと写真差し替えるだけだから出来るだけ安価でお願いできますか?」

いつもなら時候のご挨拶とともに書き始める僕ですが、これからお話しするエピソードの衝撃を少しでもみなさんと共有したく、のっけからこんな冒頭で始めてみました。

みなさん、こんにちは。いかがお過ごしですか?ブブチチです。新しく家族の一員となった子猫♂の成長は著しく、そして、すっかり、ここが安心できる自分の家になったいたずらっ子は、ペットボトルの蓋を使っての独りアイスホッケーが最近のお気に入りのようです。

今回のテーマは、こんな人と出会ったシリーズ2つめ。自分を成長させてくれるのはやっぱり「人」だと思う一方で、自分を苦悩させるのもやっぱり「人」だと思えて止まない、そんな特徴的な方々とのエピソードです。どうぞ、お茶でも飲みながら気楽にお付き合いくだされば幸いです。

大抵のご依頼はお引き受けする僕ですが・・・

それでも一応、僕なりの線引きもあって、せっかくのご依頼にも関わらず、ごく稀にお断りすることもあります。

1)他人や家族、自分を傷つける恐れがあるもの
2)性風俗産業、ギャンブル産業に関係するもの
3)意味不明なキックバックを要求されるもの
4)他人の著作権や肖像権、商標権などあらゆる公的権利を侵害するもの
5)反社会的勢力に関係するもの 差別を助長するもの

お断りするものとすればざっとこんなところでしょうか?ひとつひとつをここでご説明していると、今回のテーマから大きくかけはなれてしまうので控えますが、別段これといって風変わりでもなく、ごくごく一般的な線引きだと思います。

納期や予算が仕事を受ける受けないの基準になるのでは?と思われるでしょうが、もちろん、それも無視はできません。でも、正直言って優先度はそれほど高くはありません。

デザインのクオリティをとうてい担保できないほどの短い納期の場合は、少しでも延長できないかをまずは交渉します。初めに提示される納期はたいていクライアント的にはかなり余裕をみた納期なので、交渉次第でなんとかなるケースが多いです。

予算は、難しい判断ですが希望通りの予算でなくとも、いろいろな思惑や算段で初回はお引き受けする事が比較的多いです。とくに初めての企業様とはお互いがお見合いです。ですので、リスクをわかちあってのスタートが多い。ただし、それがこれからの標準的な予算にならないように注意は必要です。信頼関係ができてから改めて本格的な予算交渉を行う事が多いかな・・。

さてさて、余計な前置きが長くなってしまいました。ごめんなさい。冒頭の衝撃エピソードのお話しに戻ります。

お前のものも、俺のもの

写真差し替えて、これをわが社バージョンにアレンジしてくれないかと言われたのは、たしか地方紙の媒体に掲載するための広告の相談があるとかでお問合せがあった初めての企業様だったと記憶しています。初めは笑いどころのわかりにくい冗談かと思いました。でも、よくよくお聞きするうちに本当に笑えなくなりました。この人、本気で言ってるんだって。おまけに「明日まで」と「安価で」という禁断のWワードでサンドイッチしてきた!当時の僕の心の中は、それはもう、わあわあ大騒ぎでした。

結論から先にお伝えしておきますと、もちろん、このご依頼は丁重にお断りさせていただきました。4)他人の著作権や肖像権、商標権などあらゆる公的権利を侵害するもの、に気持ちよいくらいにガッツリだもの(苦笑)。

多くの企業がこぞってコンプライアンスの更新や教育を強化しているはずの昨今でさえ、こんな風に驚愕する意識の方々に出会う事があります。タイムラインやスレッドに掲示されたり、検索結果に表示されるものは、既に世の中に出ているものだから自由にしていいみんなのもの。それどころか少しアレンジさえすれば、それはもう自分のオリジナルなんだと嬉々として語る恐ろしい方々。嘘だと思われるでしょう?いやいや、本当にいらっしゃるのです。誰もが知っている大企業さえにも。「お前のものも俺のもの」という、まさにジャイアンの思想だ!と僕は密かに思うわけです。

ところで、これは何もクライアントに限ったことではありません。驚くなかれデザインに携わる同業種にも「お前、大丈夫か?」と肩を掴んで揺さぶりたくなるような意識の人々はいます。

超一流デザイナー(逃げ足)

ある日のこと、知人が「このデザインってさ、ブブチチのデザインじゃなかった?このデザイン事務所が手がけたみたいにここで紹介されてるのだけど・・」とわざわざ僕に連絡をくれました。

教えてもらった件のSNSを見に行くと、確かに自分たちの取引先紹介と一緒に、いくつかの制作物が掲載されており、その中にまぎれもなく僕がデザインした制作物が含まれていました(けっこうメイン気味に)。その時点では、まだ真意をよく把握できないところもあったので、このデザインは僕が手がけたものであること、もしも掲載することになんらかのしかるべき理由があるなら教えて欲しいと丁寧にお伺いのDMを送ってみました。

三日後くらいだったかな・・・、一度だけ返事がきました。
「自分たちの取引先だとは紹介はしたけれど、一緒に掲載していた作品が自分たちの仕事だとは紹介していない」と。

あれ? 思い返せば、確かに私たちの取引先ですと書いてたけれど、自分たちが手がけた仕事とは書いていなかった・・・かな?と思いつつ、再びSNSを訪れてみるとアカウントごと消えてました。リンクしてたはず会社のホームページさえも跡形もなく。

・・・やっちゃいけないことしてるって自覚があって逃亡してるじゃんかよ!!(苦笑)

デザインで食べていきたいならば

フリーランスのデザイナーであろうと、インハウスのデザイナーであろうと、これからデザインで食べていくことを目指している有望な若い方々に、ひとつだけ、どうしてもお伝えしておきたいことがあります。年齢とキャリアの衣を身にまとって誰かに何かを偉そうに語る事など絶対にあってはならないと普段は琵琶湖より深く誓って気をつけているけれど、この事ばかりはここに語る事をどうか許してほしいです。

みなさんは絶対にだめですよ、人のものを黙って自分のものにするなんて。

これからのあなたの有望なデザイナー人生をだいなしにする危険が十二分にある行為だと絶対に忘れないでくださいね。こんな小さなデザインなら・・・とか、露出が少ないから大丈夫・・とか、それでも絶対ダメ。この業界って、けっこうヨコヨコでつながっているんです。お互いがお互いのデザインや仕事を知り合ってたりするんです。今回のように、どこかで誰かの目に留まって、そのズルが表沙汰になることが多々あります。もしそうなったら、その足枷はずっとずっとあなたについて回ることになるのですから。

そして何より、デザイナーにとって自分が創ったものものは、やっぱり大切な大切な宝物です。リスペクトやオマージュなんて免罪符も絶対にだめですよ。権利を保有する人が「いいよ」と言ってくれたならまだしも、本人も全く知らないところで便利な免罪符を使って許してもらおうなんてとんでもないことです。

どんなに苦しくても、どんなに辛くても、自らが生み出すゆえに、僕らは胸を張って対価を要求できるのです。どうかどうか忘れないでいてください。

余談ですが、アカウント逃亡のデザイン事務所について、事務所の名前はおぼろげながらに記憶していたので、その後、クライアントにそれとなくご存じかどうかお伺いしてみました。売り込みがあって一度リーフレットかなんだかのお仕事をお願いした事があったけれど、こちらの意図を組んでくれないばかりか、とにかく言い訳が多くて取引はそれっきりになったとの事でした。

僕にDMの返事をしてきた人物がその事務所の代表かなにかで、もしも、そこに若いデザイナーが雇われていたとしたら、一刻もはやくそこからお逃げなさいと言ってあげたいなあ・・・。

最後まで読んでくださって本当にありがとうございます。今日も皆さんが笑って過ごせる健やかな一日でありますように。では、また。

                                ブブチチ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?