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聖学院高等学校のSTEAM教育実践レポート:ボックスアート

BSSの2023年度カタログ巻頭ページにて、聖学院高等学校(東京・北区)で2021年度より高校課程に開設された「Global Innovation Class」でのSTEAM教育について、担当の先生方3名から伺ったお話を掲載しました。
記事の反響を受け、2023年度の聖学院高等学校のSTEAM教育の授業実践をレポートしていきます。
聖学院高等学校のSTEAM教育についての巻頭ぺージの記事はこちら▼

前回のSTEMA教育実践レポート:DEDEkit レイヤーの彫刻の記事はこちら▼


ボックスアートとは?

ボックスアートとは、蓋のない杉材ボックスの中に3~4枚のマットボードの層(レイヤー)を重ね、空間を感じられるように世界を作ることのできるキットです。
このレイヤーの図案を聖学院高等学校ではPhotoshopで制作していますが、今回は三菱鉛筆・Wacomが共同で開発したペンタブを利用して図案を描きます。
図案を描くにあたり、レイヤーがどう重なり合うと効果的な空間づくりができるのかの理解を深める必要性があります。そこで、今回の授業を行うにあたり、前段階として弊社のDEDEkit レイヤーの彫刻を使用した授業を行いました。
DEDEkit レイヤーの彫刻で効果的な空間づくりの理解を深めた上で、今回のボックスアートに挑戦していきます。

制作手順

Photoshopで輪郭線を描く

レーザーでカットすること、レイヤーにすることを意識しながらPhotoshopで線を描いていきます。
今回Photoshopで描くツールとして、三菱鉛筆とWacomが共同で開発したペンタブを利用し、タブレット上に描いていきます。

Photoshopの様々なツールを試しながら描くことで創意工夫しています

生徒に使い心地を伺ったところ、

「すぐに描いたものが反映されるうえに、描きなおすことができるためアナログより使いやすい」

「Photoshop上でレイヤーごとに描くことができるから、完成をイメージしながら描くことができる」

「同じレイヤーに描くとやり直さないといけないから気を付けないといけないのが大変」
という声が集まりました。

三菱鉛筆×Wacom共同開発ペンタブ

モチーフ選びとして、生徒は好きなキャラクターや思い出に残っているものの写真をトレースしたり、参考に描いていました。

タブレット上では平面上での操作ですが、ボックスアートはレイヤー構造を活かした空間演出を考慮する必要性があります。
平面→立体→空間と移行していくことで、段階を踏んで構成力を身に着けることができます。

線をレーザーでカットする

Photoshopで描いた線に沿って、レーザープリンターでカットします

黒い線にレーザーが反応してカットできる
かぐや姫をイメージした作品。「竹は自然感を出すために、あえて直線ツールは使わずフリーハンドで描いた」とのこと。

ボックスとパネルの色を塗る

カットしたパネルとボックスの色を塗っていきます。
色塗りでは、パネルだけでなくボックスの背景も工夫しながら描く姿が見受けられました。

背景の描き込みに力が入っています。立体感がより出そう。
夜空をスパッタリングで描く様子。

ボックス内にパネルを配置する

DEDEkit レイヤーと違い、ボックスアートはパネルの位置を自分で決めることができます。
どの位置がより良い視覚的効果を生み出すことができるか、試行錯誤しながら貼っていました。

位置を何度も確認しながら模索する様子
パネルを固定させるために、間に絵の具チューブを入れていました。

⑥完成した作品がこちら!

どれも空間をうまく利用した、立体感のある素敵な作品ばかりですね!
皆さんお疲れ様でした!!

先生方に、授業について聞いてみました


ー本授業の目的や理由を教えてください

伊藤先生:奥行き感を作品の中にどれだけ表すことができるかを目標としています。レーザーカッターのスキルも学んでほしいし、デジタルとアナログの良さ、違いを感じてほしいと思い行っていました。単なる平面だけではなく、立体的な作品のため、色んなものと紐づけられるよう本授業ができました。レイヤーを使ったアートとはどういうことなのか?見えない部分がどうなるのか?切り取ったものを重ねることで、図がどう変化するか。色々と考えて制作しないといけません。
最初に切り絵を行い、色彩と平面構成力を学びます。そのあとにボックスアートを行うのですが、その前段階でレイヤーという概念を分かりやすく、空間を掴むためにDEDEKITを使用していました。
Photoshopはレイヤーごとに絵を描くことができるため、導入しています。

ーDXを取り入れる理由を教えてください

山本先生:「自分が情報科の教員ということもありますが、デジタルを取り入れることでアナログにはできない表現を行うことができます。それによって、表現の幅を広げることができます。また、本校のGICでは大学のように研究室のような仕組み(ゼミ)があります。本授業でDX、STEAMから学んだことから、自身の活動に活かしてほしいし、その後の糧にもなる力が身に付くよう、取り入れています。」

ーデジタルとアナログをどちらも取り入れている理由はありますか?

山本先生:「どちらも取り入れることで、実際に触れたときの良さを感じとってもらいたい。また、現代の技法との繋がりを考え、そこから新しい価値やヒラメキを見出してほしいと考えています。」

ーペンタブやPhotoshopを取り入れた理由や経緯はありますか?

伊藤先生:「一番最初はアナログで、紙に描いてスキャンしていました。しかし、うまくレーザーカッターのデータにすることが難しく、鉛筆の線だけでなく汚れなども拾ってしまいました。そこで綺麗なデータにしよう、ということでペンタブが導入されました。最初は板タブレットを提供して頂き、それを使い始めたのが始まりです。なので、最初の第1期生はペンタブ無しでやっていました。」

ー三菱鉛筆のペンタブを使用したことによって、生徒の様子など去年と変わったことはありますか?

伊藤先生:道具の幅が広がった分、興味・関心は高まったと思います。それ以上に、劇的に変わったことは液晶タブレットに変わったことです。液晶は去年から使用していましたが数台しかなく、全員使用するのは今年が初めてです。板タブは液晶画面のポインターを見ながら描かないといけないですが、タブレットは直接描くことができます。紙と同じように描けるため、作業の進捗具合が例年よりも早いです。昨年までは今の時期だと半分以上終わっていませんでしたが、今回はほぼ終わっています。

ー懸念点などはありますか?

伊藤先生:Photoshopのインストールがうまくいかないというトラブルがあり少しつまずいてしまいましたが、今までの経験から知見が貯まってきているのでこうするといいというアドバイスがしやすくなりまいした。

ーレーザーカッターでのトラブルはありませんでしたか?

伊藤先生:線の細さ・太さの強弱がありすぎると反応しないということはありました。一定の太さで描くと安定した出力ができます。描いたものをそのまま切り抜いてくれる、という機械の専門的な事例があまりなく、手探りでやっていきました。

ーレーザーカッターはよく授業で使用しますか?

伊藤先生:導入したのは、4年前にグローバルイノべーションクラスが発足されてからです。そこから積極的に使用しています。情報の授業でも使用しているようです。

先生も生徒も、授業も変化し続ける聖学院のSTEAM教育の授業に目が離せません。
今後もこうご期待!

山本周先生
2021年東京理科大学大学院理学研究科科学教育専攻修了。同年、聖学院中学校高等学校にて情報科専任教諭として採用。中学情報プログラミング、高校新クラスGICのSTEAM(高1デザイン・高2データサイエンス)授業カリキュラム開発・授業担当。「ニーズとチャンスが結び付くと人はテクノロジーの傍観者ではなく、主役になる」をモットーに日々活動。現在、情報科主任、校内FabLabの住人。2021年、LEGO® SERIOUS PLAY®メソッドと教材活用トレーニング修了認定ファシリテータ取得。

伊藤隆之先生
東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程油画技法材料研究室修了。聖学院中学校・高等学校美術科教諭。中高美術、及び高校グローバルイノベーションクラスのSTEAM、Projectの授業を担当。ゲーミフィケーションを教育に取り入れるなど、男子中学生のモチベーションを向上させるための褒賞のしくみとして「聖学院称号システム」を開発。また、視点の面白さを見つけるワークとして、生徒による「変な問題集」の作成。他、シルクスクリーンによるオリジナルTシャツづくりと販売、卵テンペラ実習など、教科専門性を

聖学院中学校・高等学校
中高一貫教育を提供する私立男子中学校・高等学校。
2021年に高校課程に開設された「Global Innovation Class」では、「ものづくり」「ことづくり」を通して世界に貢献できるグローバルイノベーターを育成するため、Liberal Artsをベースに、STEAM、Immersion、Projectの3つを柱にした教育を展開。STEAMでは、教員が提供したものを生徒が受け取る提供型の授業ではなく、新しいデザインの手法や在り方、表現を模索するため、教員と生徒が一緒になって授業づくりをする共創型の授業を実践。
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