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【ショートショート】ヒッチハイク

「全然止まってくれないなぁ…」

両手で掲げていた“よこはま”と書いたスケッチブックを下ろし、
僕はため息をついた。



夏休みを利用して僕は、ヒッチハイクの旅に出ることにした。

いつまでもお父さんとお母さんに甘えてばかりではダメだって思って、僕は自分で決めたんだ。

心配性なお母さんは、「ミノル、本当に大丈夫なの?」なんて言ってたけど、僕は「へっちゃらだよ!」と強がった。
本当は少し怖かったんだけど。  



「あっ」

トラックが近づいている。

僕は再びスケッチブックを掲げた。

しかし、トラックは全く止まってくれる様子がない。

(見えてないのかなぁ…)

僕は少しだけ車道に飛び出し、トラックの運転手さんに向けてスケッチブックを掲げた。

すると、“キキーッ!!”とトラックは急ブレーキした。

(止まってくれた…!!)

僕は嬉しくなってトラックのドアに近づいた。

すると、運転手さんは窓を開けて、僕に向かって、

「てめぇ何いきなり飛び出してんだよ!!死にてぇのか!!」

と、罵声を浴びせて、トラックを走らせて行ってしまった。

僕は涙が出てきた。

なんでだよ。

なんでなんだよ。

なんで全然みんな止まってくれないんだよ。

涙が止まらない。

僕の何がいけないって言うんだ。

僕の声が小さいからいけないのか?

それとも、僕がオドオドしているからいけないのか?

それとも、



僕が今年で43歳のおっさんだからいけないのか?



僕は、もう嫌になって家に帰ることにした。

いいんだ。お母さんだって、「ミノルはまだ働かずに家にいていいわよ」って言ってくれてるし。

家に帰って、今日も朝までネットゲームをやろう。そうしよう。

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