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私のスペイン900km巡礼記 in 2023春 #37 【35日目】巡礼は人生の写し鏡、人との触れ合いに元気をもらいながらパラス・デ・レイへ

こんにちは、ナガイです。今日はポルトマリンからパラス・デ・レイ(Palas de Rei)へ向かいます。
前回の記事はこちら。

天気予報(パラス・デ・レイ) 雨 最高気温17℃ 最低気温11℃

何かの声で目が覚める。いびきではない。女性の大きな喘ぎ声だ。えー…と思ったが、あまりにもボリュームが大きいので恐らく寝言だろう。しばらくすると声は止まり、もし自分で気づいたのだとしたら相当恥ずかしかっただろうし、気づいていなくてもそれはそれで気の毒だ。時刻はちょうど5時で睡眠時間としては十分だったため、そのまま起床する。
5時半過ぎに出発。今日もそれなりに起伏のある道のようで、歩くのに不足はなさそうだ。

教会の前に電飾で出来た木がありライトアップされている。昨日の昼間は電飾で出来ているものだと気が付かなかった。

昨日町へ入る時に渡った橋とは別の西に抜ける橋を渡り、町を出る。外は昨日の雨で路面が濡れているせいなのか少しヒンヤリするが、歩くにはちょうどいい。

町を抜けると真っ暗な森の中を行く道に入る。iPhoneのライトで照らして歩く。

肩にポツリと何かが落ちる。どうやら雨だ。恐らく本降りにはならなそうなのでそのまま歩く。もし雨が本格的に降ってきた場合、暗闇に包まれた山道でレインウェアやリュックカバーを身に付けなければならないとなると少し難儀だ。

そういえばまだお守りが二つ残っている。どうせなら全て渡し切ってしまいたいが、サンティアゴで会えた人に渡そうか。ナタリー、クリスティアーノ、ガブリエレ…会えそうな人を思い浮かべる。

1時間ほど歩いたところで前方から男性が呼び掛ける声が聞こえる。自分より前にいるということは相当早く出発したのだろう、まさかこの時間に他の巡礼者に会うとは思わなかったが、彼は別ルートを示す道標を見てどちらに行けばいいか分からなくなってしまったようだ。「メインのルートはこっちだよ」と教えると「ありがとう、早くカフェでコーヒーを飲みたいよ!」と元気よく言って先を歩いて行った。

一昨日のレオナルドとのやりとりを反芻する。何と言えばよかったのだろう。やはりテキストではなく直接言うべきだったかもしれない。昨日は彼から何も連絡はなかった。

7時頃に山道から再び車道脇の道に出ると、東の空が白く光っていた。ほとんど雲で覆われていて太陽は見えないが、これはこれできれいだ。

暗いことを考えていると背負っている荷物が重く感じてくる。バックパックがまるで10kgにも15kgにも感じる。

また分岐点がある。余裕があれば別ルートを行ってみたいところだが、今日はそうした気分になれないのでひたすら車道沿いのメインルートを歩く。

7時半頃にゴンサール(Gonzar)の村を通過。この時間はバルなども開いていなそうなので通りがかりにあったベンチで少し休憩する。昨日の反省を活かして今日は短めでも何度か休憩を取るようにしよう。

再び歩き始めてからすぐに霧雨が降ってくる。我慢するには少し強かったので木の下に避難してレインコートとリュックカバーを装着する。

8時前にカストロマイオール(Castromaior)の村を通過。

空を見ると、雲が流れていくのが速い。今日は天気が変わりやすそうだ。

村を抜けると道は急な上り坂になる。道が険しいと歩くことに集中でき、余計なことを考えずに済むので今の自分にはうってつけだ。

私達の人生や日常は、ほんの些細なきっかけで天から地へと転がるように落ちてしまう。これまでも自分自身の人生において何度かそういったことがあった。そして、この巡礼でもレオナルドとの関係において再びそれは起こってしまった。スペイン巡礼の道のりはよく人生に例えられることがあるが、まさに自分の人生の写し鏡のようだ。

それにしてもサリア以降の道のりは思いのほか途中で休めるバルやベンチが少なく、かなりストイックだ。

8時半過ぎにバルの前を通ると、どうやらそこで休んでいたらしいステファンが自分の名前を呼んで駆け寄って来た。彼は昨日ゴンサールに泊まっていたそうだ。今日はポルトマリンを5時半に出発したことを伝えると驚いていた。彼は今日メリデ(Melide)まで行くつもりだそうで、恐らく30km以上あるのでそれも驚きだ。彼と話したらなんだか元気が出てきた。

9時前にベンタス・デ・ナロン(Ventas de Narón)の村を通過。80kmを切った。

良い感じのバルがあったので朝食を取ることにする。ベーコンとチーズのボカディージョとカフェコンレチェを注文。5.30ユーロ。当たりのボカディージョだ。日本に帰ったら必ず自分でもボカディージョを作ろう。一旦レインコートを脱ぎ、代わりにサングラスをつけて再び出発。

肉体的にも精神的にも少し調子が良くなってきた。と思っていたらまた雨がパラついてきた。今日の天気も自分の心のように移ろいやすいようだ。さっきレインコートを脱いだ自分の判断の過りを認めるようで癪だが、本格的に降り始めてきたので再び木の下でレインコートを羽織る。

10時頃にリゴンデ(Ligonde)の村を通過。

ボランティアが運営している休憩所があったので立ち寄る。クレデンシャルにスタンプを押してもらう。壁に世界地図が貼ってあり、どうやら訪れた巡礼者の出身地の場所にピンを刺しているようだ。自分もピンをもらって日本のところに刺す。ピンの数を見るとヨーロッパが圧倒的に多いが、世界中から巡礼者が来ていることが分かる。飲み物や軽食が置いてあるのでコーヒーとバナナをもらう。0.50ユーロを寄付。アルゼンチン出身で、今は南スペインに住んでいるというボランティアの女性としばらく話をした。

予定外の休憩だったが、いいリフレッシュになった。やはり人と話すと元気が出る。今の自分に必要なのは人との触れ合いのようだ。

今日は昨日までと比べてぐっと気温が下がって涼しい。道はアップダウンこそあるが整備されているので歩きやすい。

それからいくつか小さな村を通過する。すれ違う巡礼者は知らない顔ばかりだ。

11時半過ぎにア・ブレア(A Brea)の村を通過。ベンチで短い休憩を取る。

12時過ぎに今日の目的地パラス・デ・レイの村へ到着。今日は適度に休みを取りつつ良いペース配分で歩けたのではないだろうか。

教会の向かいにあるアルベルゲに着くと、一番乗りで到着したらしい女性が入り口近くに座っており、チェックインは13時からだと教えてくれる。彼女はヘルメットを持っていたので「自転車に乗ってるの?」と聞くと「徒歩と自転車の両方で巡礼しているの」と教えてくれた。彼女はニューヨークから来たジェン。彼女の英語は聞き取りやすく話しやすかったこともあり、チェックインが始まる時間まで彼女と話し込んだ。彼女は自分の英語をとても上手だと言ってくれたが、確かにほとんど意識せずに英語を話せている自分に気づく。この1ヶ月余りで英語が上達しているのを実感できて嬉しい。

13時にチェックイン開始。宿泊代は14ユーロ。到着が早かったおかげでシングルベッドを割り当ててもらうことができた。

シャワーと洗濯を済ませる。天気が悪いので洗濯はやめておこうかと思っていたが、室内に洗濯物を干す場所と乾燥機があったので洗濯することにした。

15時頃にランチを食べに出る。外は本降りの雨だ。アルベルゲから少し歩いた場所にあるピザ屋でランチを食べることにする。SPICY(トマトソース、モッツァレラ、スパイシーチョリソー、ベーコン)のピザとコーラを注文。14.50ユーロ。味はまずまずで、ボリュームもあったので満足だ。

食べ終わって外に出ると雨が上がっている。風が少し強い。すっかりお馴染みになったスーパーで水とオレンジジュースを購入。3.04ユーロ。

アルベルゲに戻り、洗濯物を外に干し直す。今日このアルベルゲには小学校高学年くらいの子供達が団体で泊まっているようで、子供達の声が飛び交っていて賑やかだ。さすがに部屋は分かれているが、彼らから見れば外国人である世界各国から来た大人達に混ざって過ごすのは刺激的な体験に違いない。

アニータから「今日はどこに泊まってるの?こっちは日曜にサンティアゴに着く予定だよ」と連絡がある。「パラス・デ・レイだよ。こっちも今のところ日曜に着く予定」と答える。今日は木曜だから、あと3日だ。あと3日しかない。急に間もなく終わるのだという実感が湧いてきて何とも言えない気持ちになる。

ベッドでゆっくり過ごしてから20時過ぎにディナーを食べに行く。やはり洗濯物が乾き切らなかったので有料の乾燥機に入れて回し始めてから町へ出る。2ユーロ。

ディナーにプルペリア(Pulpería)というタコ料理専門店へ行く。ガリシア地方ではプルポ(タコ)料理が有名らしく、一度食べてみたかったのだ。店内はほぼ満席で、入口で待っているとシンとアンが声を掛けてきた。彼らはすでにディナーを終えたところで、自分を見かけたので話しかけに来てくれたようだ。彼らは毎回会うと自分のことを息子のように気遣ってくれる。

シンとアンに「またね」と別れを告げて店内のカウンター席に通されると、並びに昨日同じアルベルゲに泊まっていた若い韓国人の男女が座って先に食事をしていた。実は彼らとは気が合いそうな雰囲気を感じていたので話してみたいと思っていたのだが、昨日のアルベルゲはなぜか韓国人の宿泊者が多く、韓国人で固まっていたので話す機会がなかった。彼らも自分のことが気になっていたようで、日本人ですよね?と話しかけてきてくれた。彼らはちょうど食事が終わったところだったので短い時間だったが、思っていたとおり気が合って会話が弾んだ。彼らは3月末にサン・ジャンから出発して比較的ゆっくり歩いているそうで、明日の目的地は約15km先のメリデだそうだ。自分はもっと先に行くつもりなので彼らと会うのはこれが最後になりそうだが、この巡礼ではいつもそのつもりで人々と出会ってきた。だからこそ、あえて別れの挨拶では「またね」と言う。

プルポと水を注文。16ユーロ。プルポはタコのアヒージョといった感じで、茹で方の違いかもしれないがタコは日本で食べるものより柔らかい気がする。ややオイリーで、量の割に値段が張るので一度食べれば十分かなという感じだった。

食事を終えて外に出ると、今にも雨を降らしそうな黒い雲が空を覆っている。そそくさとアルベルゲに戻り、乾燥機から洗濯物を回収する。靴下以外はきちんと乾いており、靴下は部屋で干しておけば寝ている間に乾くので問題ない。
部屋に戻り、22時就寝。

歩いた距離
今日24.5km 合計712.6km 残り67.8km

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