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私のスペイン900km巡礼記 in 2023春 #35 【33日目】不安で心細くても自分の行きたい道を行く〜サリアで一難去ってまた一難

こんにちは、ナガイです。今日はフォンフリアからサリア(Sarria)へ向かいます。
前回の記事はこちら。

天気予報(サリア) 曇り 最高気温27℃ 最低気温10℃

6時半起床。今日も朝食を取ってから出発しようと思い、ゆっくり準備する。出発するステファンと朝の挨拶を交わす。彼は今日30km近く先のサリアまで行くそうだ。彼と会うのはこれが最後になるかもしれない。これからそうした最後の出会いが増えてくるのだろう。

朝食にトースト、オレンジジュース、アメリカーノを注文。5.50ユーロ。女友達2人と朝食を取りに来たマノと会う。彼女達も今日はサリアまで行くつもりだそうだ。なんとここのアルベルゲでは自転車をレンタルできるそうで、彼女達は麓のトリアカステーラ(Triacastela)まで自転車で行くそうだ。そして、なんと今日はマノの31歳の誕生日らしい。記念に彼女の写真を撮って送ってあげた。

ふと思いつき、出発前にマノに誕生日プレゼントとしてお守りをあげるよ、と言う。本当は誕生日に関係なく彼女にはどこかで渡すつもりだったが、今がベストタイミングだろう。彼女は明治神宮の黄色いお守りを選ぶと、とても嬉しそうにしてくれて、「ハグさせて」と言うのでハグをする。
7時半に出発。外は歩くのに最適な天候で、朝から良い気分だ。

8時頃にビドゥエド(Viduedo)の村を通過。村を抜けた直後に見えた景色の朝日で出来た陰影がきれいだった。

今日は標高およそ1300mから400〜500mまで、800〜900mを下る。可能なら30km近く先のサリアまで行きたいところだが、約20km先のサモスが目的地としては無難だろう。

とはいえ道自体は歩きやすく、イラゴ峠ほど険しくはない。調子に乗ってペースを上げ過ぎさえしなければ足への負担も比較的小さく済みそうだ。

9時頃にパサンテス(Pasantes)の村を通過。しばらく後ろにお喋りがうるさいグループがいたので、写真を撮りつつ立ち止まるふりをして先に行ってもらう。

9時半前にトリアカステーラの村へ到着。この村は泊まる場所も多く、オ・セブレイロ峠を一気に越えてここまで歩くという人もいるのだろう。
村の入口付近にお喋りグループがたむろしていたので、少し村の中を進んだレストランで休憩することにする。カフェコンレチェを注文。1.40ユーロ。クレデンシャルにスタンプを押してもらう。

村を出るところで分岐点に行き当たる。サモス経由ではなく、サン・シル(San Xil)経由なら少し早くサリアに着けるようだ。ただし、サン・シル経由のルートを選んだ時点でサモスで泊まる選択肢はなくなる。どうしようか。よし、ここは思い切ってサン・シル経由でサリアまで行こう。オ・セブレイロ峠の下りが思ったほどの大変さではなかったので、時間的にも体力的にも行けそうだ。昨日レオナルドと誰もいない別ルートを歩いたのが楽しかったのと、今朝お喋りグループに遭遇したこともあり、歩く人が少なそうな道を行きたい気持ちもある。

そうと決めたらBooking.comでサリアのアルベルゲの予約を済ませ、別ルートを歩き始める。恐らく多くの巡礼者はサモス経由でサリアへ行くと思われるため、別ルートを行くのは正直やや不安で心細い。だけど時には多数派に流されずに自分の行きたい道を行くべきだということを今回の巡礼で何度か経験して知っている。

10時半頃にサン・シルの村を通過。すると村のベンチにお喋りグループが休んでいるのを発見した。しまった、彼らはこちらのルートを選択していたのか。仕方ない、こういうこともある。ただし、彼らは決して悪い人達ではなく、しばらくすると和気あいあいと談笑しながらゾロゾロ歩いている彼らのことを次第に憎めなくなってくるから不思議だ。

11時過ぎにモンタン(Montán)の村を通過。村の入口にあるベンチで休憩。ミックスナッツと水を摂る。村の中を進むと別の場所でマノ達が休憩していた。自転車でトリアカステーラまで行ってから、この別ルートを選んで歩いてきたようだ。別ルートは思ったより大変だね、と互いを労って先へ行く。

12時頃にフレラ(Furela)の村を通過。

歩くのが楽しい。昨日レオナルドと歩いている時に、彼に「君とシカと歩くのは楽しいよ」と言った。彼は「どうして?」と聞いてきたが、これといった理由が思い浮かばなかったので「ただ楽しいんだ」と答えた。楽しいと思うのに理由はいらないだろう。今日は一人だが、今日もただただ歩くのが楽しい。重い荷物を背負いながら、汗だくになりながらも、歩くのが楽しい。そして今まさに生きていると実感している。

12時半前にピンティン(Pintín)の村へ到着。バル兼レストランがあったので休憩する。ハンバーガーとコーラを注文。8.50ユーロ。

ハンバーガーは思ったよりしょぼかったが、疲れてお腹も空いていたおかげで何よりのごちそうに感じた。食べ終わって後から来たマノ達に別れを告げて出発しようとしたところ、店員の女性に呼び止められる。しまった、まだ会計をしていなかった。注文した時に払い忘れないように気をつけようと思ったはずなのに、懲りずにまた同じ過ちを犯すところだった。今度からは必ず注文と同時に会計まで済ませるようにしよう。先日払い忘れた朝食代もきちんと払いたいので、サリアのアルベルゲで送金の仕方を聞いてみよう。

13時過ぎにアグイアダ(Aguiada)の村を通過。

途中の木陰で昨日同じアルベルゲに泊まっていたドイツのジョーが休んでいた。しばらく彼と一緒に歩きながら話をする。彼は3週間の休暇を利用してカミーノに来たそうで、3日前にポンフェラーダから歩き始めたそうだ。

14時頃にサリアの町へ到着。別ルートは予想どおり距離が短いもののアップダウンの激しい山道だった。

町を入ってすぐの場所にあるアルベルゲにチェックインする。宿泊代は12ユーロ。

ホスピタレイラのクリスティーナは40年近く前に日本を旅行したことがあるらしく、近くに日本の八十八ヶ所巡礼と縁の深いホルへという人がいるので紹介するという。正直早くシャワーを浴びたかったのだが、大人しくクリスティーナについていくと着いたのは観光案内所だ。

あいにくホルへは不在だったが、彼が日本に行った時の写真が飾られていた。クレデンシャルにスタンプだけ押し、アルベルゲに戻る途中でクリスティーナが「今度ホルヘが日本に行く時は私もついていくつもりよ」と言うので、「そうだね、前回から40年近く経ってるんだから、そろそろまた日本に来るべきだよ」と答えた。

ここのアルベルゲはBooking.comで高評価だったので選んだが、確かに設備も申し分のない良いアルベルゲだ。同じ部屋には昨日も同じアルベルゲに泊まっていた韓国人で現在ワシントン在住のテッドがいた。

シャワーと洗濯を済ませた後、受付にいたクリスティーナに2日前に泊まったラス・エレリアスのアルベルゲで朝食代を払い忘れた件を相談する。すると彼女は「アルベルゲの名前は分かる?」と言って電話番号を調べ、その場で電話をかけ始めた。そして向こうのアルベルゲのホスピタレイラの女性と話して代わりに事情を説明してくれる。ドキドキしながら見守っていると、なんと向こうのホスピタレイラの女性は「お金を払い忘れた時にわざわざ連絡してくれる人なんて珍しいわ。だから朝食は私からの小さなプレゼントよ」と言ってくれたそうだ。その女性は英語も話せるので電話を代わり、自分からも直接謝罪とお金を払いたい意思を伝えたが、彼女はいいのよ、というばかりなので、こちらも「分かりました。本当にご親切ありがとうございます」と言った。彼女は最後に「ブエンカミーノ」と言ってくれた。電話を切り、クリスティーナはまだこの好意を受け入れていいのか逡巡している自分に対して「もう何も問題はないわ。このことは忘れていいのよ」と優しく言ってくれた。よし、この恩に対して自分にできるのは今後二度と同じミスを繰り返さないように気をつけることしかない。部屋に戻ってから今しがた触れたホスピタレイラの女性達の優しさとおおらかさ、温かさを思い返して、少し泣きそうになった。

17時頃に町へ出る。サリアからスペイン巡礼を始める人が多いこともあってか、まずまず大きい町だ。ただ、もう少し町中は人でごった返しているかと思いきや、この時期はそれほどでもなかった。きっとこれからのハイシーズンにはものすごいことになるのだろう。

ジェラート店で桃のヨーグルトとヘーゼルナッツのジェラートを注文。3.50ユーロ。この桃のヨーグルトがめちゃめちゃおいしかった。こういうぜいたく品が食べられるのは大きな町ならではだ。

町の中心にある教会でクレデンシャルのスタンプを押す。クレデンシャルのスタンプ欄が残り少なくなってきた。

スーパーで買い物。品揃えも都会にあるスーパーに近い豊富さだ。水、ミックスナッツ、オレンジとマンゴーのジュースを購入。4.99ユーロ。スーパーでドイツのデヴォンと会う。彼は「知ってる人に会うと嬉しいよ。今日泊まってるアルベルゲは全員知らない人だった」という。彼は一匹狼のようなタイプで他の人とつるんでいるのを見たことがなく、だからこそ彼からそんなことを言ってもらえて嬉しかった。「サンティアゴにはいつ着く予定なの?」と聞くと「まだ分からない。僕はそのままポルトガルに行くんだ。歩き続けるだけだよ」と彼は答える。彼とは何度か会っていたが、サンティアゴに着いたらポルトガルへ行く予定であることを知ったのは初めてだった。「サンティアゴで会えるといいね」と言って彼と別れた。本当に、彼とはサンティアゴで会えたらいいなと、心の底からそう思った。

アルベルゲに戻り、18時半頃にレオナルドから「サモスにいる?」とメッセージが来ていたので「今サリアにいるよ。今日はサモス経由の道じゃなくて別ルートを行ったんだ」と返信する。すると「それは残念。サモスの修道院は信じられないくらい素晴らしかったよ」と返ってくる。少しカチンとくる。この数日間で時たま感じていたことだが、レオナルドは他人のチョイスや好みが自分と合わないと否定的なコメントを言うことが多い。他の人がどう感じているかは分からないが、少なくとも自分は常に自分の選択や好みがレオナルドにジャッジされているような気がして、その度に多少の居心地の悪さを感じていた。特に今日は朝のマノとの出来事に始まり、道中は自分で選んだ別ルートを歩くのがとても楽しかったり、ホスピタレイラの女性達の優しさに触れたりして、とても良い一日だっただけに、「それは残念」の一言で冷や水を浴びせられたように感じた。そこで彼に「君はもっと他の人の選択や好みを尊重した方がいいよ。僕は別ルートを楽しんだし、それは君が教えてくれたことだよ」と送った。そう、別ルートを行く楽しさを教えてくれたのはレオナルドだ。だからこそ彼から別ルートを選んだことに対して「それは残念」と言われるのは余計に腹が立ったし、悲しかった。でも彼のことを友達だと思っているからこそ、自分の思いを包み隠さず伝えたのだ。その後も自分がこれまでの道中で英語を話せないために不本意な扱いを受けてきたことなど、自分の思いの丈を彼にぶつけたが、その後に返ってきた彼の一言に再び絶句した。それは「なんで君が僕に怒っているのか分からないけど、まあいいよ」だった。それまでに自分が熱い思いで送っていた文章の意図が何も伝わっていなかったことに愕然とし、彼に対して「それが君の問題だよ…。僕が言っていることが分からないようなら、このやり取りは終わりにしよう」と送った。

あーあ、またやっちゃった…。今までもこんな感じで、大事な人達との関係をいくつも終わらせてきた。せっかく異国の地で一生の友達になれるかもしれない人と出会えたのに、それをまたもやぶち壊してしまったのだ。自分の中の何かを変えたくてスペイン巡礼に来たのに、スペインで変わらず同じ過ちを繰り返している。一人アルベルゲのベッドの上でスマホを見つめながら、惨めさと共にじわっと涙が溢れてくる。

19時半頃にディナーを食べに出る。クリスティーナにおすすめを尋ねると、すぐ近くにあるレストランが良いというので行ってみる。タラ(Bacalao)の料理とパン、水を注文。店内のテレビではラ・リーガのバルセロナとオサスナのサッカーの試合が流れている。本場で見るのはまた楽しいものだ。追加でデザートに桃のケーキを注文。会計は19.30ユーロ。調子に乗って食べ過ぎたせいか、少しお腹が痛い。デザートが余計だったかもしれない。

21時過ぎにアルベルゲへ戻る。すでに部屋は消灯されていたため、いつものように音を立てないようにして寝る支度を済ませてベッドに入ったが、近くのベッドの女性がドタバタと音を立てながら荷物の整理をしていた。その様子が面白かったので思わず話しかける。彼女はブラジルから来たルアナ。4日前にポンフェラーダから歩き始めたそうだ。デヴォンも泊まっているアルベルゲは知らない人ばかりだと言っていたが、これからさらに新しい人達との出会いが待っているのだろうか。22時半に就寝。

歩いた距離
今日30.2km 合計666.5km 残り113.9km

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