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社内恋愛って難しくね?

前回 のnoteはこちら。

▼登場人物
澤田さん:上司(30代)、私をこの会社に入れた当本人。「推し」だったけど、気付けば恋愛感情に変わっていた。小野くん世代から慕われているしごできスパダリ。
小野くん:先輩(年下)、私が社内で一番仲良い存在。お互いの恋愛を応援している。私と同じく澤田さんファンクラブ会員。

ひょんなことから澤田さんのお家で鍋パーティー(?)をすることになってから1ヶ月、ようやく開催された。
小野くんと私を含む4人でそれぞれ手土産を持って向かった。

上司のご自宅にお邪魔するのは人生で初めてだ。
しかも、好きな人のお家に上がるというのは、私にとっては結構一大イベントだった。

私らしさは出しつつ、
会社の上司に会うんだからプライベート感を出し過ぎるのは抑えて、
悩んだ結果、ワンピースを着て行くことにした。

澤田さんのお家は、
噂通り、都内の一人暮らしとは思えないほど広くて綺麗なデザイナーズマンションだった。
ただし、「男の人の家」という感じで、
割と散らかっているところもなかなか良かった。

私たち部下がお家に着いてからも忙しなくお部屋の掃除を続ける上司を見て、
プライベートは実はスパダリじゃないんだなと思った。

男性陣は、ベッドルームまで散策していたけれど、
私はなんだか気が引けて、リビングで大人しく猫と戯れていた。

みんなで食材の買い出しに行くことになった。
澤田さんと(小野くんや先輩たちと)スーパーでお買い物をしている…
まるでお家デートの気分。

澤田さんはたくさんのアイスクリームを抱えてレジに戻ってきた。

帰り道、お米を買い忘れたことに気づいて、先輩にこそっと「お米…」と言うと、
うどんも買ったしいらないんじゃないですか?ということになった。

エレベーターで澤田さんのお部屋のフロアまで着いた時、澤田さんが「あ!」と言った。

「米買い忘れた!」
と声を上げる澤田さんを見て先輩が笑った。
私も心の中で笑った。
お鍋にお米は欠かさないよね…笑

お鍋の準備は小野くんたちに任せて、
私は先輩とお米を買いに行くことになった。
さっきとは違うスーパーで美味しそうなアイスクリームを見つけてそれも買った。

「さっきたくさん買ったのにまたアイス?!」と先輩が笑った。

お米とアイスクリームを抱えて帰宅すると、
澤田さんの愛猫のあまりの可愛さにみんなメロメロになっていて、
小野くんは「俺も猫飼おうかな〜」と言うので、
「じゃあ彼女作るのは諦めなきゃね」と私が言うと、
澤田さんがすかさず「やめなさい!」と笑った。

*

話は1週間前まで戻り、
私は仕事のことで相談があり、
澤田さんに電話をかけたことがあった。

というか、別にメッセージでの相談でも良かったんだけど、
澤田さんが「もうすぐお家に着くので待ってください」と言うので、澤田さんの帰宅後に電話をすることになった。

その際、なかなかの長電話になってしまって、
あれこれ話も脱線していたので、
私は意を決して澤田さんに恋愛の話を振った。

「あの、うちの会社ってお互いの恋愛の話題で盛り上がることが多いと思うんですけど、澤田さんってそういう話に参加してても、自分の話はしないですよね…?
…それに、皆さんも澤田さんに話振らないですよね?」

「うん」

「実は、彼女さんがいたり、奥さんを亡くしてたり…?LGBTとかそういうセンシティブな…?」

「俺が?!」

ないない、と澤田さんが笑った。

「俺は最後に彼女いたの大学生の頃だから、俺に話題振っても何も出てこないのをみんなわかってるんだと思う。浮いた話もないし、LGBTでもない!」

なんだ…とホッとした自分と、
『浮いた話もない』という言葉にショックを受ける自分がいた。

最近、飲み会では割と私と澤田さんの関係が茶化されたりして、本人もそれはわかっているのに、
私とのことはカウントされてないのか…と思った。

「興味がないわけではないんだが、飯食って寝るとまあいいかってなる。
社長が最近本気で婚活してるから俺もマッチングアプリを始めてみようかと思って検索したんだがめんどくさくなって…
それに、俺がアプリやってるなんてバレたら絶対社内で騒がれるだろ?だから俺は恋愛で何かあっても絶対に誰にも言わない。それに俺には猫がいるから」

「あー猫買っちゃうとね…笑」

「『あー』じゃない!笑」

*

ということで話は戻り、一人暮らしの独身がペットを飼う=婚期を逃すという話に繋がるわけだ。

私も準備を手伝おうと思って包丁を手に取ったら、
「お前が包丁持つとなんか怖いからやめなさい!」と小野くんに止められた。
このセリフ、人生で言われるの5回目くらいだ。
…なんで?!!

そんなこんなで、テーブルには美味しそうな料理が並んだ。
みんなでお鍋をつつきながら、仕事の話などあれこれしたけれど、
澤田さんが手を滑らせてお皿を落とした。
お皿は割れて、カーペットや階段はキムチのスープで赤く染まった。
やっぱりプライベートではスパダリじゃないみたいだ…

普段自炊をしない澤田さんのお宅にはおたまがなく、澤田さんと小野くんが買いに行くことになった。
「追加のアイスクリーム買ってくる!」と澤田さんが言うのを見て、先輩がまた笑った。
私も心の中で笑った。

もしかして、澤田さんと私って似た者同士…?

ところで、
猫は嗅覚が敏感なので、澤田さんのお家は紙タバコNGだった。
いつも紙タバコの澤田さんも、今日はずっと電子タバコを吸っていた。
私はこそっと部屋を抜け出して、タバコを吸いに行くつもりだったけど、
ちょうどそこに、おたまを買い終えた澤田さんたちが帰ってきて、
私がタバコを吸いに行くのに気づいた澤田さんがいつもの紙タバコを片手に追いかけてきた。

澤田さんと2人でタバコを吸うことはよくあるけれど、なんだか緊張した。
そっか、いつもは勤務中だから外が明るいけれど、今は夜だからか…
最近にしては珍しく気温が低い夜で少し肌寒く、軽く震えながらタバコを吸った。

ここは何区なんですか?とか、
俺は電車が苦手なんですとか、
そういう世間話をした。

いつもスーツの澤田さんはもちろん私服で、
ここはオフィス裏の喫煙所ではなく澤田さんのお家の前で、
今はお昼ではなく夜で、
今日は平日ではなく土曜日だ。

澤田さんとは私は上司と部下の関係だけど、
今だけは、
好きな人と私、って感じがした。

2人でお部屋に戻る。
先輩が、テーブルの引き出しを開けて、無言で閉まった。
「見ちゃいけないものでもありました?」と聞くと、
澤田さんが「猫のおもちゃしかありません。見られたら困るものは全部パソコンの中にあります」と言うので、
小野くんが「おぉ〜」と沸いた。

澤田さんがアダルトな話をするイメージがなかったのでびっくりした。

お鍋は美味しかったけれど食材がたくさん余ってしまった。
澤田さんは自炊をしないから、冷蔵庫に残しておいても野菜やお肉は腐らせてしまうと言う。

小野くんが「お前、澤田さんは当分食事に困らないように作り置きしてあげたら?」と言う。
澤田さんが「月曜日は出社だから」と言うと、
「愛妻弁当だ!」と小野くんが言う。
「バレるバレる」と澤田さんが笑う。

バレる…?どういうことだ。
よくわからなかったのでスルーした。

私は寝る前にたまに妄想していた。
いつか澤田さんと付き合って、
澤田さんのお家にお邪魔して、
澤田さんの愛猫と私が戯れ合う姿を、
澤田さんがタバコを吸いながら見守る微笑ましい光景を。

それはあっさりと叶った。

男性陣がお皿洗いしてくれているので、
私は、キャットタワーのてっぺんで眠たそうにする猫ちゃまと見つめ合っていた。
小野くんが「そんなに睨むなよ、ライバルだからって」とツッコむのを他所に、
うーうーうーと言いながら(?)私は猫ちゃまと和解を試みた。

ふと視線に気づいて振り返ると、3階のガラス張りのバスルームで電子タバコを吸いながら、
猫と私を見つめる澤田さんがいた。

見守られてたかはわからない。
むしろ、うちの猫に変なことするんじゃねえぞ?という、猫の見守りのつもりだったのかもしれないが、
私の頭の中で繰り広げられていたシーンが今まさに再現されていて、ドキッとした。

みんなが持ち寄った手土産の一つ、ケーキを食後のデザートとして食べることになった。
私が持っていった可愛い猫のパッケージのマカロンやパンダのさくさくティラミスもテーブルの上に広げた。
ケーキを頬張るのも束の間、終電が近いということで慌てて帰ることになった。

澤田さんは「え、帰るの?」という感じだったし、
私も同じことを思ったけど、
絶対にこの女を澤田さん宅に泊まらせてはいけない!という小野くんの強い警戒心を察して、
私もケーキを口の中に詰め込んで家を飛び出した。

お泊まりしたかったな…なーんて。

翌日、お鍋メンバーのグループで澤田さんが
「パンダのさくさくティラミス、激ウマ!全部食べた」と送ってきた。

良かった…!
ちゃんと食べてくれたんだ!

本当に食べてくれたのか、本当に美味しかったのかはわからないけど、
こういうフォローができる澤田さんの優しさが大好きだ。

「猫のマカロンは…🥺」と送ると、
「あれは可愛いからガチカメラで撮って飾ってある」と即レスが返ってきた。

きゃー嬉しい!澤田さんの日常空間に、私の選んだプレゼントが置かれるなんて。

ちなみに、次回開催は先輩のお家で二郎鍋パーティーらしい。

なんだかな…
こうやって、誰も「なんで土日に会社の人と会わなきゃいけないんだよ」なんて思うこともなく、
むしろ「遊びたい!」と思ってわざわざ土日まで会社のメンバーで集まるほど仲が良くて、
澤田さんは、平日の仕事終わりに電話で深夜まで仕事の相談に乗ってくれて、
寂しい夜は眠るまでメッセージを送り合って、
気になるお店があったら小野くんや同期を誘って朝まで遊び歩いて…

そんなにも会社の中でフレンドリーな人間関係が出来上がってるのに、
ここからどうやって恋愛に発展させるんだろうか。

私が澤田さんに振られれば、
この、お鍋パーティーメンバーでの次回開催はなくなっちゃうかもしれないし、
澤田さんも私も大人だからそんなことは気にしないかもしれないけど、
周りの人は気を遣うだろうし、
どのみち迷惑をかけてしまう。

かと言って、
澤田さんと上手くいくイメージもつかない。

私がチームの上司のパワハラを告発してから、
割と社内のマネージャー陣はそのあたりを気にしている。
女性社員がほとんどいない会社だから、
パワハラというかセクハラにはより気を遣ってるみたいで、
澤田さんも例外ではない。

しっぽをぶんぶん振り回しながら澤田さんについていく私の扱いに、
正直澤田さんは困ってると思う。

飲み会で周りから茶化されると、とても困った顔をする。
その話は一度澤田さん本人から遠回しにされたことがあって、
「ごめん、あいつらにはちゃんと指導しておいたから」…と。

たぶん、
俺のことを単純に憧れとして推してくれている新入社員の女性が周りから「うちは社内恋愛推奨」だの「社長から応援されている」だの言われて、
困ってるに違いない、
…とそんなあたりで気にしてくれているんだと思う。

つまり、仮に澤田さんが(私じゃなくても)女性社員に好意を寄せることがあっても、
マネージャーという立場上、職権濫用のセクハラ懸念で、自分からは動かないつもりなんだと思う。

ということは私から動くしかなく、
だけどあからさまに私が好意を見せてしまえば仕事のパートナーとして、上司と部下としては面倒を見づらくなるだろうし、
…あああ。

社内恋愛って難しいな。

今まで誰も上げていないご自宅に上げてもらえた時点で、ある程度距離は縮まってると思うんだけど、
それはあくまでも「面倒見の良い上司と、上司が大好きな愉快な部下たち」であって、
どうやったら、
周りに迷惑をかけることなく、
仕事に支障をきたすこともなく、
社内の人間関係に荒波を立てることもなく、
一人の女性として見てもらえるんだろうか…

私の悩みは尽きません。

職場の上司3人と不倫した私の友達って凄くない?!
どんなメンタルしてるんだ、、、

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